卒業研究のご紹介
2021年版

化学・バイオ系所属学生

細胞内光クロスリンク技術を用いたシャペロニン複合体の解析

八代 華澄東京都
大学院応用化学・バイオサイエンス専攻Bコース 博士前期課程 2021年3月修了
(応用バイオ科学部応用バイオ科学科2019年3月卒業)
東京都立園芸高等学校出身

研究の目的

ヒートショックプロテインと呼ばれるシャペロニンGroELは細胞が熱などのストレスを受けた時、短時間で過剰発現し、変性タンパク質の立体構造形成を介助することで、細胞内毒性を示すタンパク質凝集体の形成を防いでいると考えられている。
GroELは7量体のリングが二つ背中合わせに重なったダブルリング構造で、GroELの反応機構では、個々のサブユニットにATPが結合すると立体構造変化をし、ドーム型のGroESと複合体を形成して機能する。GroEL一分子にGroESが1つ結合した弾丸型複合体と、2つ結合したフットボール型複合体があり(図1)、これまでのin vitro研究の結果から、変性タンパク質が多く存在するとき、フットボール型複合体を中間体とする反応経路が選択されると考えている。本研究では、GroESのGroEL結合部位に、UV照射で近傍5Å以内に存在する別のアミノ酸と光架橋する非天然アミノ酸であるパラベンゾイルフェニルアラニン(pBpa)を導入し、UV照射でGroEL/GroES複合体を光架橋する細胞内光クロスリンク技術(図2)を用いて、細胞内GroEL/GroES複合体を安定化させて存在比を解析した。

研究内容や成果等

■ 実験方法

GroEL/GroES複合体を細胞内光架橋して安定化させるために、大腸菌MGM100株(ゲノム上のgroESgroELの発現をアラビノースプロモーターで制御することが出来る大腸菌)を、GroES変異体とGroELの発現ベクターで形質転換し、pBpaを含有した最小培地で培養後、培養液を紫外線照射し、細胞内で形成されたGroES/GroEL複合体を光架橋した。菌体破砕液をSDS-PAGEおよびNative-PAGEで分離し、ウェスタンブロットと画像解析ソフトImageJを用いてGroEL/GroES複合体を定量した。
37℃培養時に細胞内で光架橋されたGroEL-GroESの形成率は、抗GroES抗体と抗GroEL抗体でそれぞれ約6%、7%と定量でき、実験条件の中で最も低い値を示した。一方、37℃培養後に42℃に30分暴露した条件では、抗GroES抗体と抗GroEL抗体で59%、42%となり、光架橋したGroEL-GroESが最も多く検出された。これは、GroEL/GroES複合体存在比が培養温度によって変化する可能性を示唆した。
菌体破砕液をNative-PAGEで分離しウェスタンブロット解析したところ、37℃から45℃に温度シフトした条件でのみ、フットボール型のリング界面が7°ねじれて割れることで形成されるシングルリング複合体(図1)を検出した。高温に暴露したときでのみシングルリング複合体を検出したことから、細胞内で変性タンパク質濃度が増加するとされる熱ストレス下で、フットボール型複合体が形成されたことを示唆した。

図1 シャペロニンGroEL/GroES複合体の構造

図2 細胞内光クロスリンク技術の原理
指導教員からのコメント 分子機能科学研究室教授 小池 あゆみ
細胞内で変性タンパク質を再生する働きをするシャペロニンの反応機構を正確に捉えるために、反応中間体の精密な分離と定量を多くの条件で行いました。職人気質で手先が器用なことに加え、丹念に実験を積み重ねて、結果を見て考察する力も修士では鍛えられました。着眼点が個性的で、グループディスカッションでは唯一無二な存在ですが、子供の頃はそれもコンプレックスで自信がもてなかったそうです。研究ではその個性が生かせるので、4年生の時よりも修士になってからのびのびと発言をするようになり、大きく成長しました。
修士研究学生からの一言 八代 華澄
私は農業高校出身で、手先の器用さと体力が自慢でした。また体を動かすことが好きなので、研究熱心な先輩が在籍しているこの研究室を選び、毎日実験に取り組みました。学部4年次では先生と先輩の間でやり取りされている研究に関する会話を聞き取ることすらおぼつかない状態でしたが、持ち前の体力を活かして、実験と並行して周囲の仲間や先生とディスカッションし、論文を読むことを繰り返したことで、大学院に進学後は論理的に考える感覚を学ぶことができたと、自分自身の成長を感じました。