卒業研究のご紹介
2019年版

化学・バイオ・栄養系所属学生

下水処理水のカフェイン及び代謝産物の分析

若原 遼太郎北海道
工学部応用化学科 2019年3月卒業
クラーク記念国際高等学校出身

研究の目的

医薬品やし好品等に含まれる化合物は、一般的に生体内でその一部が代謝され、未代謝分とともに生体内から排出され、最終的には下水処理排水施設で処理されている。またパーソナルケア製品中の化合物もまた同様に、日々、排水処理施設に流入している。これらの化合物は下水処理施設では十分に処理されずに、その一部が河川水へ放流されている。これらの化合物及び代謝産物の水生生物への影響はいまだ未知であり、現時点での環境汚染濃度やそれらの環境動態などを十分に把握しておくことが、今後、予測される生体影響の程度を把握し、その影響を未然に予防する重要な知見となりうる。そこで本研究では、日常的に摂取されているカフェインとその代謝産物であるテオフィリン、テオブロミン、パラキサンチンの河川水濃度を把握するとともに、石鹸などの一部の洗剤に含まれているEDTAを分析し、これらの環境中の汚染状況を検討した。

研究内容や成果等

■ 実験方法

採水は神奈川県にある下水処理施設24か所の下流及び採水可能な上流17か所の合計41地点で行った。採水した河川水1Lは0.45μmのメンブレンフィルターでろ過後、500mLをOASIS HLBカードリッジカラムに通水し、吸着成分は5mLメタノールで溶出させた。乾固後、100μLの溶離液に溶解させ、カフェインとその代謝産物の分析試料とした。得られた試料はC18カラムを用いる逆相HPLC−UV検出により分析した。また、残りの500mLをOASIS MAXカードリッジカラムに通水し、吸着成分は50%ギ酸/メタノール溶液で溶出させた。これを5mMギ酸ナトリウム1mL、1mM硝酸鉄20μLを加え90℃で1時間加熱後、50mM TBA-Br溶液40μLを加えてEDTAの分析試料とし、C18カラムを用いた逆相ーイオン対モードのHPLCで分離、UVによる検出を行った。

■ 結果及び考察

今回41地点の河川で採水を行い、上記化合物の測定を行った。41地点中、カフェインは36地点、パラキサンチンは37地点、テオブロミンは37地点、テオフィリンは38地点で検出された。またEDTAは39地点で、その存在が確認された。鎌倉市山崎浄化センター下流では、各成分が高濃度で検出され、それらの濃度はカフェインが2.73nM、パラキサンチンが2.21nM、テオブロミンは2.85nM、テオフィリンは6.73nMであった。またEDTAの濃度は11.27nMであった。またほとんどの地点で、下水処理施設の上流より下流のほうが、いずれの化合物も濃度が高いことが分かった。河川水中のEDTAの濃度とカフェインとその代謝産物のそれぞれの濃度を比較すると、正の相関を示すことが分かった。離、UVによる検出を行った。

図1 代表的な標準試料のピーク

図2 代表的な河川試料のピーク
指導教員からのコメント 教授 髙村 岳樹
環境中には様々な医薬品や日常的に使用する生活用品を構成する化学物質が混入しています。カフェインは医薬品や飲料などに含まれる、馴染みのある化合物ですが、それらが河川にどの程度混入しているかを調べるのが本研究の目的です。下水処理排水には一定以上の濃度のカフェインやその代謝産物が含まれることがわかってきました。
卒業研究学生からの一言 若原 遼太郎
私は研究活動の中で計画を立て、実行する力を学べたと思います。今回行った卒業研究では、川の水の分析を行うため、採水に行く日程や分析を行う日程を立てる必要がありました。特に採水では採水場所や採水日程を計画する必要があり、それを計画通りに実行することで、計画し、実行する力が身に付いたと思います。また、卒業研究の発表や卒業論文の作成などにも提出期限があり、計画を立てる機会が多かったので成長できたと思います。この研究活動を通じて学んだ計画を立て実行する力を就職先でも活かしていきたいと思います。