卒業研究のご紹介
2022年版

化学・バイオ系所属学生

炭素系蛍光材料-グラフェン量子ドット-の合成と評価

相場 悠妃栃木県
工学部応用化学科
2022年3月卒業
栃木県 宇都宮短期大学附属高等学校出身

研究の目的

蛍光材料である量子ドットは、非常に小さい特殊な半導体結晶です。一般的に使用されている量子ドットにはイタイイタイ病の原因ともなったカドミウムが含まれており、使用に制限があります。そこで注目されているのがグラフェン量子ドット(GQD)です。これは、既存の蛍光材料と比べ低毒性で迅速に合成できる為、大量生産に適しています。しかし、その合成法や蛍光特性については、詳細な検討がなされていません。そのため、本研究では、新たな炭素系蛍光材料として、GQDの合成法の確立及び蛍光特性の評価を目的として検討を行いました。

GQDの発光画像

研究内容や成果等

■ 実験手法

マイクロ波加熱法によりGQDを製造するにあたり、マイクロ波加熱時間を8、8.5、9、10、11、12分と変化させそれぞれGQDを合成した場合、反応物の回収量、蛍光強度、分子構造はどのように変化するのかを調べた。
また、合成原料の違いによって合成される合成物の化学的性質や物理的性質、蛍光特性にどのような影響を及ぼすのかを検討するために、有機酸-尿素GQDを合成した。その後、蛍光強度測定を行った。このとき使用した有機酸はクエン酸、りんご酸、乳酸、ギ酸、酢酸、アスコルビン酸、酒石酸、グルタミン酸、マロン酸、没食子酸の10種類である。また、原料である有機酸1分子が持つ置換基の数の違いにより蛍光強度にどのような影響を及ぼすのかも検討した。
さらに、GQDの構造解析のため、オープンカラムを用いたGQDの精製を行った。

マイクロ波加熱時間と蛍光強度の関係

それぞれの有機酸により得られた化合物

■ 結果及び考察

マイクロ波加熱時間と蛍光強度との間には決まった関係はなく、加熱時間8分のとき最も蛍光強度が大きくなり、加熱時間9分のとき最も小さくなることが分かった。
さらに、収率についてはマイクロ波加熱時間が8、8.5、9、10、11、12分と変化すると収率は、39.5、40.7、19.4、40.6、41.0、71.0%と変化した。少しバラつきがあるもののマイクロ波加熱時間が⾧くなっても収率はあまり変わらず40%前後であることが分かった。以上の収率や蛍光強度により、マイクロ波加熱法によるGQDの合成に適した加熱時間は8分であるという事が明らかとなった。
有機酸と尿素により合成されたGQDは、クエン酸-尿素によるGQDの蛍光強度が最も大きく、次に L-グルタミン酸-尿素によるGQDの蛍光強度が大きい。また、乳酸や没食子酸、L-酒石酸を使用したGQDについては、蛍光強度がクエン酸-尿素によるGQDに比べると蛍光強度は非常に小さい。


有機酸-尿素GQDの蛍光スペクトル
また、ギ酸、酢酸、マロン酸により合成されたものは蛍光特性を示さなかった。最も高い蛍光強度を有したクエン酸-尿素GDは、𝜆Ex.350nmの際、𝜆Em.443.2nmで蛍光強度 1296となり、取り扱いやすさや生産性等の点からクエン酸-尿素から成るGQDに着目した。また原料である有機酸の炭素数が1分子あたり1~3個の場合、合成された物質は蛍光を示さないことから、GQDは環化した分子構造を有しており、環化反応に必要な炭素数をもつ有機酸のみがGQD原料として適すると考えられる。
次に、通常のオープンカラムは経時的に分画するのに対し、今回はUVライトの照射により蛍光色の違いにより分離を行った。オープンカラムによる分画により、7留分採取することができた。そのうち、1~4留分は緑色発光を示し、残りの3留分は青色発光を示した。
その後、それぞれの蛍光強度測定を行った結果、緑色発光物質と青色発光物質では少し異なる蛍光スペクトルをとっており、GQDは大きく分けて2種の物質で構成されていることが分かった。

オープンカラムによる分離中の蛍光色の違い

オープンカラムによる分離の結果

■ 結論

GQDの合成及び蛍光特性の評価を実施した結果、以下のような知見が得られた。
(1)クエン酸と尿素を原料としたGQD合成において、マイクロ波加熱時間8分の時が最も蛍光強度が大きくなった。
(2)クエン酸の他にも7種の有機酸(りんご酸、乳酸、グルタミン酸、アスコルビン酸、酒石酸、没食子酸) と尿素によるGQDの合成をすることができた。
(3)有機酸と尿素のマイクロ波加熱法におけるGQD合成では、クエン酸と尿素の組み合わせが「収率」「蛍光強度」において最も優れていた。
(4)有機酸と尿素によるGQD合成及び NMR 測定の結果より、GQDは環状構造を有していることが明らかとなった。
(5)クエン酸と尿素を原料とするGQDは青色蛍光物質と緑色蛍光物質の大きく分けて2種の混合物により構成されていることが明らかとなった。

■ 今後の課題

今後は、GQDの構造を明らかにすることはもちろんのこと、バイオイメージングとしての使用を可能とするために、生体試料への応用を検討するべきである。
卒業研究学生からの一言 相場 悠妃

研究活動を振り返り成長したこと

研究を行っていく中で思うような結果が出なかった際に、溶液の調製の段階で間違っていたのか、分析機器の設定が間違っていたのかなど色々な原因を考え改善しながら実験を行っていきました。また、得られた結果から次にどのような実験をすれば良いのか、そのためにはどのような準備が必要なのかなど教授や大学院の先輩にアドバイスをもらいながら自分で考えて実験を行うことで、物事を様々な視点から考える力や言われたことだけでなく自分で考え行動する力が身につきました。