卒業研究のご紹介
2021年版
情報系所属学生
SRv6を用いた大容量リアルタイムサービスチェイニングに関する検討
石岡 朋紘栃木県
大学院情報工学専攻 博士前期課程1年
(情報学部情報ネットワーク・コミュニケーション学科ICTスペシャリスト特別専攻2021年3月卒業)
(情報学部情報ネットワーク・コミュニケーション学科ICTスペシャリスト特別専攻2021年3月卒業)
栃木県立鹿沼東高等学校出身
研究の目的
8K超高精細映像を扱うアプリケーションは、映像制作分野をはじめとして、映像を扱う様々な産業分野での活用が期待されている。我々は、非圧縮8K映像を用いたネットワーク上でのリアルタイム高速映像処理に取り組み、DPDK(Data Plane Development Kit)を応用して、10Gbpsを超える映像ストリームデータを処理可能な映像処理機能を開発している。
今後、クラウド環境において実際の映像ワークフローを実現するには、クラウドコンピューティングとエッジコンピューティングで複数の映像処理機能を自在に連動させる仕組みが必要となる。
本研究では、この仕組みを実現するため多様な映像処理機能の自在なサービスチェイニングを行う相互結合網の必要性を示すと共に、相互結合網としてSRv6(Segment Routing IPv6)を適用したモデルを示す。
今後、クラウド環境において実際の映像ワークフローを実現するには、クラウドコンピューティングとエッジコンピューティングで複数の映像処理機能を自在に連動させる仕組みが必要となる。
本研究では、この仕組みを実現するため多様な映像処理機能の自在なサービスチェイニングを行う相互結合網の必要性を示すと共に、相互結合網としてSRv6(Segment Routing IPv6)を適用したモデルを示す。
研究内容や成果等
■ システムの構成
サービスチェイニングとは、利用者の要望などに応じてネットワーク機能(サービスファンクション)を連動させ、物理的な配線を変更せずともパケットが適切な順番でサービスファンクションを経由するように経路制御させる仕組みであり、セキュリティやトランザクションの分野を中心に広く使われはじめている。サービスチェイニングを実現する相互結合ネットワークの経路制御手段としては、既にセキュリティサービスなどにおいて実績があるセグメントルーティングを採用した。
これまでに作成した非圧縮8K映像伝送・蓄積配信システムはIPv4マルチキャストベースで動作しており、SRv6の適用にあたって各機能のIPv6対応化やSRv6のルーティングに関する処理性能などについて検証する必要があった。そこで本研究ではミニマムなプロトタイプ構成として、SRv6の配下でサービスチェイニングする映像処理機能は遅延補正機能一つのみとし、その上で各映像処理機能がSRv6アーキテクチャ上で動作できるように、①IPv4マルチキャストパケットのIPv6ユニキャストカプセル化、②遅延補正機能のSRv6対応、③映像スイッチング機能におけるIPv6カプセル解除を追加実装した。
■ 評価
実際に、神奈川工科大の実験ネットワークとSINET5およびJGNテストベッドを用いて環境構築を行った。遅延補正機能が複数の映像ストリーム間の遅延差を吸収できることを確認するため、本実験のためにSINET5上に大きな伝送遅延が発生する4種類のネットワーク経路を新設していただき、使用した。今回は8K-DG方式の映像を扱っているが、これを4つの色成分別にストリーム分割し、異なる大きさの伝送遅延を付与して転送する。
この評価実験用ネットワークを用いてサービスチェイニング内のIPv6カプセル化機能、遅延補正機能および映像スイッチング機能を連携動作させた。遅延調整機能を通さない経路設定にした場合は、ディスプレイに一部の色成分が遅延している映像が流れるが、IPv6カプセル化機能のAPIを用いて遅延補正機能を経由するパスに切り替えると、約2秒映像が途切れたのちに、色成分毎の遅延差が吸収された正常な映像が表示されることを確認した。実験は数日間(72時間以上)にわたって続けられ、その間これらの機能は安定して稼働し続けた。
この評価実験用ネットワークを用いてサービスチェイニング内のIPv6カプセル化機能、遅延補正機能および映像スイッチング機能を連携動作させた。遅延調整機能を通さない経路設定にした場合は、ディスプレイに一部の色成分が遅延している映像が流れるが、IPv6カプセル化機能のAPIを用いて遅延補正機能を経由するパスに切り替えると、約2秒映像が途切れたのちに、色成分毎の遅延差が吸収された正常な映像が表示されることを確認した。実験は数日間(72時間以上)にわたって続けられ、その間これらの機能は安定して稼働し続けた。
■ おわりに
今後はより実践的に、複数の映像処理機能をサービスファンクションとして実装して組み合わせ、クラウドとネットワークエッジが連携した映像ストリーム向けのリアルタイムサービスチェイニングを実現するプラットフォーム化を目指す。さらに、様々なマルチメディア研究との連携による新たなメディア制作手法の確立にむけて、研究開発を進めていく予定である。
今期はコロナ禍の影響により、共同研究先のメンバーとはオンラインで打合せやアドバイスをもらうしかない状況で、色々なトラブルがありましたが、彼が大学側で粘り強く対処してくれました。2021年10月には本システムの知見を電子情報通信学会の研究会で発表した結果、栄誉ある学生研究奨励賞の受賞に繋がりました。今後、本学大学院に進学後は、益々の活躍を期待しています。
一方で、限られた時間や体力の中で、こうした実験や学会発表などを成功させることがいかに難しいかを痛感し、多くの課題に気づくことにも繋がりました。
貴重な機会を得られたことに感謝しつつ、大学院でも精進を続けようと思います。