卒業研究のご紹介
2021年版

化学・バイオ系所属学生

移流集積法によるオパール構造体の作製

吉田 歩夢神奈川県
工学部応用化学科 2021年3月卒業
神奈川県立新栄高等学校

研究の目的

大きさの揃った粒子の懸濁液を乾燥させると、移流集積によってそれら粒子が規則正しく並び、オパール構造と呼ばれる構造体を形成することができる。さらにその構造体を利用して、逆の構造である逆オパール構造体を形成することができる。これらは入射光のうち、特定の波長の光を強く反射するため、例え白色の粒子を用いたとしても色がついて見えることがある。この性質を利用して、逆オパール構造を持つ蛍光体が開発された例がある。その蛍光体は通常とは異なり、発光の方向に指向性を持っており、その結果、通常よりも強い発光が実現できたことが報告された。本研究では構造色が観察される試料作りを目指した。このために、逆オパール構造体を作製する前段階であるオパール構造体作製段階で次の2点を検討した。①水酸化ナトリウム水溶液を用いて基板表面を親水化、②粒子懸濁液の滴下、あるいは懸濁液からの基板引き上げの2つの粒子堆積方法でオパール構造体の作製を試みた。

研究内容や成果等

■ 実験方法

スライドガラスを適当な大きさに切断した。イオン交換水で超音波洗浄し、一旦乾燥させた。エタノールで超音波洗浄し乾燥させた。5mol/Lの水酸化ナトリウム水溶液に一晩浸した。イオン交換水を入れ超音波洗浄した。この洗浄は3回繰り返し乾燥させたものを基板とした。
基板にポリスチレン懸濁液を一滴滴下し、無風の状態で乾燥させた。またこれとは別にディップコーターを用いて基板をポリスチレン微粒子懸濁液に浸し、所定の速度で引き上げた。その後自然乾燥させた。得られた2種類の試料について電界放出型走査型電子顕微鏡(FE-SEM)で観察を行った。

■ 結果

滴下によって得られた試料の観察結果を図1に示す。この方法では親水化していない基板(a)よりも親水化した基板(b)の方が、ポリスチレン微粒子懸濁液がより広く拡がり、これは水酸化ナトリウム水溶液による親水化処理の効果と考えられる。いずれの試料においても基板上の付着物について、外縁部と平坦部とでは色調が異なっており、外縁部(a)(b)は青緑色に、平坦部(c)(d)は白い膜状に観察された。引き上げによって得られた試料の観察結果を図2に示す。いずれの試料も基板上に均質に付着しているように肉眼では観察されたが、親水化していない基板(a)では付着物は白い膜状に観察され、親水化した基板(b)では付着物は緑色に観察された。
次に電界放出型走査型電子顕微鏡による観察結果について説明する。滴下によって得られた試料(図1)では外縁部(同図(c)(d))に注目した観察を行うと、親水化に関係なくポリスチレン微粒子が規則正しく配列している。一方平坦部(同図(e)(f))では規則正しい粒子の配列を確認できない。引き上げによって得られた試料については親水化しなかった基板(同図(c))では粒子の付着量は少なく、一方親水化した基板(同図(d))では粒子の付着量は多く、それらは規則正しく配列している。

■ まとめ

ポリスチレン微粒子懸濁液を用い、移流集積法によってガラス基板上にオパール構造を作成することを試みた。水酸化ナトリウム水溶液による基板の親水化処理によっては基板上に広い面積で微粒子が規則配列し、肉眼で構造色の発言を確認することができた。微粒子を基板上に集積する方法も重要で、懸濁液を滴下するよりも、懸濁液からの引き上げの方が広い面積でオパール構造を形成することができた。

図1 滴下によるオパール構造の作製
(粒径:200 nm)
(a) スマホ写真 親水化無
(b)スマホ写真 (親 水 化有 )
(c) SEM写真 (20000倍 ,円弧部 ,親水化無 )
(d) SEM写真 (20000倍 ,円弧部 ,親水化有 )
(e) SEM写真 (20000倍 ,平坦部 ,親水化無 )
(f)SEM写真 (20000倍 ,平坦部 ,親水化有 )

図2 引き上げによるオパール構造の作製
(粒径:200 nm)
(a)スマホ写真 (親水化無 )
(b)スマホ写真 (親水化有 )
(c) SEM写真 (20000倍 ,親水化無 )
(d) SEM写真 (20000倍 ,親水化有 )
指導教員からのコメント ファインセラミックス研究室教授 竹本 稔
真っ白な原料微粒子を使い、多彩な色を創りあげることができる。これが今回ご紹介する「構造色」研究の醍醐味だと思います。さて色を創るためにはその微粒子を規則正しく並べなければなりませんが、今回は直径が250ナノメートル(=0.000250mm)のものを使いました。これだけ小さいととても一粒一粒指でつまんで並べるというのは無理な話。そこで、微粒子の世界で働く「移流集積」というワザを使いました。これは条件が整うと微粒子どうしが勝手に規則配列する作用のことです。今回はポリスチレン微粒子をガラス基板上に並べることが目標でしたが、何を何の上に並べるかという組み合わせによって前処理などの準備の方法が異なります。吉田君は丁寧に実験を行い、ついに白い原料を使って緑色の構造体を創ることに成功したのです。
卒業研究学生からの一言 吉田 歩夢
私は化学の知識がほとんどない状態で本学へ入学しました。ですが日々の講義、実験、支援センターでの学習などにより基礎から少しずつ学ぶことができ、化学について幅広い知識を身につけることができました。4年次から行った卒業研究では専門的な知識が多く、理解することが困難な場面もありましたが、教授や先輩などのサポートにより多くのことを学び研究を行うことができました。これらの学生生活で学んだことは、今後の日々の生活に活かすことができると感じています。