卒業研究のご紹介
2020年版

情報系所属学生

AR環境下等身大3Dモデルとのすれ違い時の人間の行動特性

本城 裕貴静岡県
情報学部情報メディア学科 2020年3月卒業
磐田東高等学校出身

研究の目的

本研究において等身大3Dモデルに歩行動作と歩幅や速度を制御できる機能を追加、および通路上でこの3Dモデルとすれ違いが体験できる拡張現実感(AR)システムを開発した。すれ違う際の体験者の行動を記録してその歩行特性を求め、お互いに避ける場合を想定した有効な回避動作を提案した。この研究を行った理由は、ARは現実空間にCGで作られたキャラクタやエージェントなどを重ねて表示することができる技術であるため、CGキャラクタに同じ動きを再現させられること、体験者の行動の軌跡を取りやすくなり、歩行特性を分析しやすくなることで、等身大3Dモデルに人間と同じような回避動作を提案できると思ったからである。本研究の応用例としては、VRやARシステムにおいて自ら体験者とぶつからないように避けてくれるCGキャラクタを実現することができる。

研究内容や成果等

■ 基本原理

すれ違いは徒歩や乗り物で移動する際頻繁に起こり得る現象で、場合によっては衝突する危険性があるため、ぶつからないようにあらかじめ回避行動をとる。ARでは現実空間でのすれ違いと比べ、再現性が高く、違う歩行状態にした際のすれ違いも再現することが可能なため、様々な条件下でのすれ違いによる分析も行えることが考えられる。

■ 構築システムの概要

本研究で使用するデバイスは、ヘッドマウントディスプレイ(以下 HMD)とステレオカメラが両方搭載されているVIVE Proを選定した。全体のシステム制御と3Dモデルの描画には、ゲームエンジンのUnity(2018.2.15f1)を利用する。3Dモデルには先行研究で使用されたTda式初音ミク・アペンドVer1.10を採用した。3Dモデルは、体験者の向かい側に配置し、体験者に向かって歩かせる。歩行動作の速度や制御はスクリプトから調整し、キーボードから操作することで歩かせるように設定している。

■ 結果

被験者と3Dモデルにあらかじめ決められた位置に待機してもらい、3Dモデルが一定のラインを越えたら被験者がスタートし3Dモデルとすれ違いを行ってもらう。左右に机を設置し通路を再現し、幅が2.0mの時を条件A、幅が1.5mの時を条件Bとする。また、条件A、B共に3Dモデルが普通の歩行、早歩き、ゆっくりの歩行、歩きスマホの4種類の歩行動作時におけるすれ違いを各10回行ってもらう。またARにおける条件A、条件Bの実行画面を図1にそれぞれ示す。

図1   実験条件A(左)    実験条件B(右)
20代の男性10名に対して実験を行い、右に避けた際の行動軌跡を図2、左に避けた際の行動軌跡を図3に示す。グラフの見方としては、上側が左方向、下が右方向となっており、上下の横に引いてある線は壁、縦に引いてある線は等身大モデルとすれ違った地点を示している。等身大モデルは0と記載されている横軸に沿って右から左に進んでいる。

図2 右に避けた際の行動軌跡のグラフ

図3 左に避けた際の行動軌跡のグラフ

■ おわりに

以上の実験結果から、被験者によって行動軌跡が変わるが、すれ違い時の避け方が大きく2種類に分けられることが分かった。以上の結果を踏まえて、今後は今回の実験に応じた回避動作を等身大モデルに実装する予定である。
指導教員からのコメント ヒューマン・ブレインメディア研究室教授 坂内 祐一
この研究はコンピュータグラフィックスで作成した3Dモデルを現実世界に組み合わせる技術である拡張現実感が用いられています。ポケモンGoではスマートフォンのカメラからの映像にキャラクタが重畳されて表示されますが、ここではヘッドマウントディスプレイ(HMD)を用いて、図1にあるように等身大の3Dモデルをユーザが見ているカメラ映像に合わせて表示して実験を行っています。向こうから歩いてくる等身大の3Dモデルとすれ違う時に、ユーザがどのように回避行動をとるのかの実験を行った結果、あらかじめどちらかに避けるのを決めている人と、相手と接近してから次に踏み出す足によって左右どちらかに避けるかを決める人がいることがわかりました。この結果は情報処理学会の研究会で発表されました。
卒業研究学生からの一言 本城 裕貴
プログラミングをはじめ、画像処理やマルチメディアなど、幅広い分野を学べることが本学の魅力の1つだと感じた。基礎科目以外はほとんど触れたことがなかったため、最初は様々な分野に触れて、興味のある分野を探すことから始めた。4年次の卒業研究は、初めて触れる分野だったので大変ではあったが、多くの知識を得ることができた。元々、計画性を持って大学生活を送っていたが、この卒業研究を通して計画的に取り組むことの重要性を再認識することができた。この経験を社会人になっても活かしていきたいと思っている。