卒業研究のご紹介
2020年版
化学・バイオ・栄養系所属学生
細菌の運動に関わるATP加水分解酵素の機能解析
右田 恵静岡県
大学院応用化学・バイオサイエンス専攻Bコース 博士前期課程 2020年3月修了
(応用バイオ科学部応用バイオ科学科/医生命科学特別専攻 2018年3月卒業)
(応用バイオ科学部応用バイオ科学科/医生命科学特別専攻 2018年3月卒業)
静岡県立磐田南高等学校出身
研究の目的
細胞は自身の外側と内側で物質のやりとりを行うための複数種類の分泌装置を細胞膜上にもっている。これらは病原因子の分泌にも関わることから、分泌装置の作用機序の解明は感染症の新たな対策にもつながる。高度好熱性細菌Thermus thermophilusがもつIV型線毛は、分泌装置の一種で、環境の変化に応答して、線毛を構成する16種類以上のタンパク質が相互作用することで張力を発生し、菌体の運動に関わる分子モーターとしても働く(図1)。
本研究では、IV型線毛構成タンパク質のうち、線毛の駆動力を担うと考えられるATP加水分解酵素について、他の線毛関連タンパク質との相互作用とATP加水分解活性の関係を考察し、作用機序モデルを提案した。
本研究では、IV型線毛構成タンパク質のうち、線毛の駆動力を担うと考えられるATP加水分解酵素について、他の線毛関連タンパク質との相互作用とATP加水分解活性の関係を考察し、作用機序モデルを提案した。
研究内容や成果等
T. thermophilusの線毛関連タンパク質のうち、ATP加水分解活性を持つPilF、PilT1、PilT2の変異体を作製し、それぞれ遺伝子組換え大腸菌からタンパク質を精製した。マラカイトグリーン法によるATP加水分解活性測定と、等温滴定型カロリメトリー(ITC)によるATP結合測定を行った結果、全ての変異体は、ATPを結合するが、加水分解が野生型に比べて著しく遅い変異体であり、ATP加水分解が引き金となる線毛反応の中間状態が長時間維持できると期待できた。そこで、各変異体、および、各遺伝子の欠損株の細胞表面から、線毛を精製して解析した。寒天培地で静置培養した各種T. thermophilusから脱離させた線毛を、ショ糖密度勾配遠心により分離して、精製線毛を得た。各種線毛関連タンパク質の抗体を使ったウェスタンブロット解析の結果、PilT1、PilT2のATP加水分解活性が低下した変異株から精製した線毛複合体では、野生株に比べ、それぞれPilT1またはPilT2の線毛への結合が強くなり、同時にPilM、PilWの結合も強くなった。各精製タンパク質を混合して電気泳動により相互作用を解析した結果、PilT1およびPilT2の変異体は、PilC、PilMと結合することが示唆され、加えて、PilT1のATP加水分解活性はPilCまたはPilMの共存により増強した。一方、PilT2のATP加水分解活性はPilT1、PilCまたはPilMのいずれの共存によっても抑制され、特にPilCでは顕著であった。以上から、PilT1とPilT2へのATP結合は、線毛フィラメントへのPilT1、T2、M、Wの結合を誘引し、それによってPilT1とPilT2はPilC、PilMと相互作用するという作用機序モデルを提案した。
3年間研究をする中で、結果を積み上げていく大変さもありましたが、それ以上に、結果に対して「ああでもない、こうでもない」と考え、それを話し合ったり、実証する楽しさを知ることができました。