卒業研究のご紹介
2021年版

機械・自動車・ロボット系所属学生

介護ヘルスケアシステムによる見守りロボットと職員の連携

米澤 佑美埼玉県
創造工学部ロボット・メカトロニクス学科2021年3月卒業
埼玉県立久喜高等学校出身

研究の目的

介護施設の労働環境は身体的・精神的な負担に加え、慢性的な人手不足であり、職員一人あたりの負担が大きく、施設の運営では業務効率が重視されています。そこで施設において、職員の業務をロボットが支援し、施設の業務効率を高めることができれば、より利用者に寄り添ったケアが行えるのではないかと考えました。職員の業務の中でも体温・脈拍などのバイタル情報計測は、特別な見守りが必要な利用者を除いて十分に行われておらず、表面的な顔色や食事摂取量などによる定性的な健康管理に留まっています。本研究では、施設利用者の効率的な健康管理を目的として、見守りロボットと職員の業務における連携を支援する介護記録システムを提案します。施設利用者と見守りロボットが協調してバイタル情報を計測し、ケアワーカーが職員用の端末を介してバイタル情報を把握することで、施設全体の健康管理を効率化することを目指しました。

研究内容や成果等

■ ニーズ分析

介護現場のニーズと現状を調査するため、令和元年5月に浜松市の介護施設を訪問し、アンケート調査を行った。訪問先の施設では介護業務記録システムを導入しており、利用者の個人情報、アセスメント、ケアプラン、職員業務記録など、施設利用者と施設運営に関する情報が電子的に管理されていた。記録項目の多くは手作業による情報入力であったが、離床センサの検知情報がケアワーカ室に自動通報されるなど、自動化されている記録項目もあった。
ニーズ分析の結果、誤薬防止システム、音声情報入力システム、健康管理システなどのニーズが潜在していることが分かり、見守りロボットの健康管理への活用に関する意見が得られた。介護業務において体温や脈拍などのバイタル計測は一部の利用者を除いて必須の計測項目ではないため、一般の利用者は表面的な顔色や食事摂取量による健康管理に留まっている。このような現状から、介護施設で見守りロボットを健康管理に活用することで、健康管理を介護施設全体に拡大することが望まれる。

■ 方法

施設利用者と見守りロボットが協調してバイタル計測を行い、職員が遠隔でバイタル情報を閲覧確認する介護ヘルスケアシステムを提案する。介護施設のバイタル計測は、職員が利用者に接触し、計測器を取り付けて計測を行い、データを記録システムに手動入力する流れが一般的である。この流れを本システムで自動化することを試みる。遠隔診療向けの業務支援システムはこれまでにも提案されているが、施設でのロボットによる計測の事例は少なく、介護業務の効率化において本システムの機能は有効であると予想される。
本システムでは見守りロボットが施設利用者を認識して接近し、バイタルセンサを搭載したアームによりバイタル計測を行う。見守りロボットによるバイタル計測の状況を図1に示す。見守りロボットに搭載されたバイタルセンサを用いて計測対象者の脈拍と血中酸素濃度(SpO2)を計測する。バイタル情報は見守りロボット内部のファイリングシステムで記録され、中継サーバに伝送される。情報はネットワークに接続された職員用の端末で閲覧確認できる。本システム構成とバイタルセンサを図2に示す。

図1. 見守りロボットLuciaによるバイタル計測

図2. システム構成とバイタルセンサ

図3. バイタル計測の結果

表1. バイタル計測の所要時間

■ 実験

本システムの有効性を検証するため、20代と30代の健常者を被験者として、バイタル計測を行った。実験では被験者は着座して安静な状態となるまで待機し、机上に肘をついた状態でセンサを軽く握らせ、計測した。採取したデータは職員用の端末上でグラフ及び数値として表示し、端末内にデータファイルとして記録保存する機能を検証した。
検証1では被験者のバイタル計測時にバイタルセンサ値の変動を撮影した。撮影したセンサ値と画面に表示された数値を比較してデータ採取の確認を行った。データ上で差異がないことを確認し、バイタルセンサの実測値と記録保存したファイルの数値を照合した。以上の試行を複数回行った。検証2では本システムによる業務の効率化を計測データに基づいて分析した。本検証では実験者がシステムを操作した場合と被験者自らがシステムを操作した場合の所要時間を比較し、所要時間の差から業務の効率化を評価した。
検証1のバイタル計測の結果を図3に示す。本システムを用いてバイタルセンサの実測値を記録し、記録したデータの画面表示や採取データのファイルが保存されていることが確認された。同様の実験を複数の被験者に行い、個人ごとにデータが記録管理されていることを確認した。以上の結果から、介護施設の現場への運用導入についての目途が立ったと考えられる。
検証2のバイタル計測結果を表1に示す。実験者が施設職員の想定で計測した場合の所要時間は120秒であり、被験者が施設利用者の想定で自ら計測を行った場合の所要時間は105秒であった。この所要時間の中で「準備」「計測」及び「評価」のうちの「過去データとの比較表示」を合計した100秒間は、施設利用者がバイタル計測に十分慣れていれば職員が不在であっても問題ない時間帯であるため、この時間分を業務時間より省略することが可能である。
仮に介護施設で1日3回50人分のバイタル計測を行う場合、本システムと見守りロボットの導入によってバイタル計測が自動化されれば、1日あたり15000秒(4.17時間)の作業時間が削減可能である。この作業を職員4名で行う場合、8時間勤務で約13%の業務の効率化が見込める。また、バイタル計測による時間的な拘束が解消されれば、職員に余裕が生まれ、精神的負担の改善にも貢献できると考えられる。

■ まとめ

本研究では、施設利用者の効率的な健康管理を目的として、見守りロボットと職員の業務における連携を支援する介護ヘルスケアシステムを提案した。実験を通して、バイタルデータが個人ごとに正しく記録管理されていることを確認した。また、施設職員による計測と施設利用者による計測について所要時間を比較評価し、介護施設での8時間勤務の業務を約13%削減できる試算を得た。今後はバイタル計測可能な施設利用者を自動判定する機能を付加してデータの信頼性を高め、バイタル情報を自動収集する際の安全性を向上させる。また、血圧やグルコース値などの計測項目を取り入れることで、統合的な健康管理システムの構築を目指す。
指導教員からのコメント 人間機械共生研究室准教授 三枝 亮
米澤佑美さんが行った「介護ヘルスケアシステムによる見守りロボットと職員の連携」の研究は、見守りロボットが施設利用者のバイタル情報を効率的に計測して施設職員と共有することで、施設の包括的なヘルスケアの実現を目指す研究です。これまでの介護記録システムでは施設職員がバイタル情報を計測し、タブレット端末で記録閲覧することが一般的でした。本研究では施設内での見守りロボットの利用を想定し、職員とロボットが本システムを介して情報を共有することでヘルスケアの質を高めることをねらいとしています。米澤さんは2年次より厚生労働省の研究事業に参画して介護施設を訪問し、現場のニーズを調査して本システムを設計しました。将来、見守りロボットが介護施設や一般家庭に普及導入された際に輝きが増す先進的な支援技術の研究です。
卒業研究学生からの一言 米澤 佑美
電気・機械・情報・人間工学などと専門性に囚われず、幅広く学ぶことができました。その中でも、研究活動ではユーザーインターフェイスに関する内容や、情報分野の講義内容を活かすことができました。三枝准教授の下プロジェクト研究実践として、2年次では厚生労働省の介護ロボットに関するチャレンジに参加、3年次では独自にニーズ調査とシーズ発見を行ってきました。4年次では介護現場で見出したニーズ課題の解決に向け、研究を行うことができました。良き師に出会え、そして恵まれた環境だったと実感しております。研究を進める中でご指導いただいたことや、様々な方と巡り会えた中での経験をこれからも活かしていきたいと思います。