卒業研究のご紹介
2021年版

電気電子系所属学生

共同Nb2O5を用いた導波路形共振器のためのリング導波路の実験的検討

村上 翔(代表者)宮城県
大学院電気電子工学専攻 博士前期課程1年
(工学部電気電子情報工学科電気電子特別専攻2021年3月卒業)
宮城県白石高等学校出身
宮下 周大山梨県
工学部電気電子情報工学科2021年3月卒業
山梨県立富士河口湖高等学校

研究の目的

私たちの研究の目的は、Nb2O5を用いたリング共振器形可変波長フィルタの実現です。
研究背景として近年通信トラフィックの増加に伴い、柔軟なWDM(光波長多重通信)を用いたネットワークの実現が求められています。私たちが製作している可変波長フィルタは波長多重された光信号から特定の波長の光信号を取り出すことができ、より効率的で柔軟なWDMを用いたネットワークの構築に貢献することができます。私たちが研究しているNb2O5を用いたリング共振器形可変波長フィルタは、直線導波路とリング導波路から構成されています。リング導波路部分の光の放射損失を低く抑える曲率半径、リングと直線導波路の導波路間隔、また、光を閉じ込めるための導波路の構造について検討しました。

研究内容や成果等

■ 素子構造

(1)ハードウェア構成
図1に製作したリング共振器の素子構造を示す。
素子を製作するにあたり、解析を行った。解析を行った際の素子構造を図2(省略)に示す。素子構造として、BOX層には SiO2を2000 [nm]、コア層にはNb2O5を 400 [nm]、上部クラッドをAir、導波路幅を 2 [μm]とし、リブ高さは 150 [nm]〜400[nm]まで 100 [nm]ずつ変化させた。基本モードと一次モードの屈折率の差が大きいほど、リング導波路を伝搬するそれぞれの光の伝搬速度に差ができ、シングルモードとして出力される。解析の結果、リブ高さが大きいほど等価屈折率差が大きくなっていることから、リブ高さが大きいほどシングルモードになりやすいことが分かった。
この結果を踏まえ、素子構造として、BOX 層にはSiO2を2000 [nm]、コア層には Nb2O5を 400 [nm]、上部クラッドを Air、導波路幅を 2 [μm]とし、リブ高さはその都度変化させた。

図1 リング共振器の素子構造

■ 曲げ損失測定用導波路の製作・評価

リング共振器のリング部分の半径の検討をするため曲げ損失測定用導波路を製作した。導波路形状は、導波路をS字に曲げたものであり、曲率半径を変化させることで曲げ損失の測定を行う。同じ図面の基板を2枚製作し、リブ高さを変えた。その際の素子パラメータがコア層407.0[nm]、導波路幅2[μm]であり、1枚目のリブ高さは140.9[nm]、素子長は5.0[nm]、2枚目のリブ高さは368.1[nm]、素子長は8.3[nm]であった。
上部クラッドがAirの状態で製作した素子の波長特性を端面結合法にて測定した。曲率半径35[μm]の近視野像を図4に、波長特性を図5に示す。
リブ高さ140.9[nm]は漏れ光が多かったが、リブ高さ368.1[nm]はリブ高さを高くしたため、光の漏れを抑えることができた。図5(a)より、曲率半径35[μm]が、一番損失が少なく、次いで45[μm]という結果だった。また、図5(b)より、曲率半径15[μm]のS字形導波路が一番損失が少なく、次いで25[μm]、35[μm]という結果だった。以上の結果から曲率半径を35[μm]でリング共振器形Add-Drop素子の製作を行う。

図4 曲率半径35[μm]の近視野像

図5 波長特性

■ リング導波路の波長特性の評価

同じ図面の基板を3枚製作し、それぞれのリブ高さを100[nm]、250[nm]、400[nm]とした。上部クラッドがAirの状態で製作した素子の波長特性を端面結合法にて測定した。リブ高さごとの近視野像を図6に示す。近視野像を見ると、リブ高さが大きいほど漏れ光が少なくなっている。しかし、リブ高さ400[nm]は導波路光が小さくなってしまっている。原因としてRIEで深く削っている分、側壁荒れの影響を強く受けたからだと考えられる。

図6 リブ高さごとの近視野像
条件の良かったリブ高さ250[nm]の波長特性を図7に示す。
素子パラメータはコア層407.8[nm]、実際のリブ高さ235.9[nm]、導波路幅2[μm]、素子長6.9[nm]であった。
図7(a)よりDrop-portにおいて、リング共振器の特徴である周期的な共振ピークを持つ共振特性を得られた。これは適切な導波路間隔であるため直線導波路とリング導波路で光が結合させることができたからだと考えられる。また、導波路間隔を50[nm]離しただけで図7(b)ではDrop-portから光が確認できなかったこともあり、導波路間隔350[nm]では光が結合できていると考えられる。

図7 波長特性

■ まとめと今後の課題

導波路幅2[μm]、コア層400[nm]でリブ高さを変えたときシングルモードとして出力できるか解析を行い、シングルモードとして出力できる可能性があることを確認できた。
リブ高さ150[nm]では漏れ光が多かったが、リブ高さを高くすると漏れ光を抑えることができた。また、曲率半径35[μm]、リブ高さ235.9[nm]のリング共振器形Add-Drop素子で導波路間隔350[nm]において、Drop-portから周期的な共振特性を得ることができた。
今後の課題として、Through-portからも周期的な共振特性を得るためにリング素子の低損失化が必要だと考えられる。そのためには、リブの側壁荒れや底面荒れを改善するより良いRIE条件、リング部分の小型化を検討する。
指導教員からのコメント 光機能デバイス研究室教授 中津原 克己
村上君と宮下君には、当研究室として比較的新しい研究課題であるマイクロリング共振器構造の製作に挑戦してもらいました。光を周回させるリング導波路の共振現象を利用することで、波長が異なる光信号を多重化したり、多重化された光の中から選択して分離したりする波長フィルタを実現することができます。コロナ禍で制約のなる中、二人は協力して一つ一つ条件を試し、導波路形共振器に必要な放射損失の少ない曲線導波路の検討を行いました。村上君は大学院に進学するので、マイクロリング共振器の特性向上とともに、複数のマイクロリング共振器を組み合わせた高機能な波長フィルタや光スイッチを実現し、世界に向けて研究成果を発表できることを期待しています。
修士研究学生からの一言 村上 翔
私は4年間特別専攻に所属していました。特別専攻の授業は教養を学ぶ授業や、グループでの話し合いが多く、大学4年間を過ごした後、社会人になる人、大学院に進む人、両者にとって良い環境でした。また、TOEICの対策に力を入れているのも魅力の一つです。研究活動は、コロナ渦ということもあり学内に入れなかった前半は他大学や先輩方の論文を読んで自分達なりにまとめて知識を蓄えました。後半は研究を進めていく中で、Nb5O2を削り、リブを形成するエッチングという工程で、望み通りの量を削れないことや、基板を製作できても測定で望んだ測定結果が出ないことがありつつも、粘り強く研究を進め、共振波長特性を得ることができました。