卒業研究のご紹介
2021年版

機械・自動車・ロボット系所属学生

中性子星の位置分布で探る天の川銀河の構造

大川 祐満兵庫県
工学部機械工学科航空宇宙学コース2021年3月卒業
兵庫県立豊岡高等学校出身

研究の目的

月明かりのない晴れた夜空を見上げると、頭上に天の川を見ることができる。この天の川の正体は多くの星から成る銀河であることが知られている。我々が住む地球が属するこの銀河を天の川銀河と言う。地球はこの天の川銀河の中にあるため、天の川銀河の全体像を直接見ることができない。そのため、天の川銀河がどのような構造をしているのか、現在でも明らかになっていない。しかし、天の川銀河の中にある星の距離を観測し、天の川銀河の地図を作ることで、少しずつ天の川銀河の構造が分かり始めている。この天の川銀河の地図を作る取り組みは世界中で行われている。その方法は星の明るさの変化度合いを表す変光周期を基に作られる。しかし、可視光線による観測では、銀河中心方向は光が吸収され詳しい距離が得られない。そのため本研究では、吸収されない電波を放つ中性子星に着目し、その位置分布を調べることで天の川銀河の構造を解明することを目的とした。

研究内容や成果等

■ 使用データ

オーストラリア国立望遠鏡機構(ATNF : Australia Telescope National Facility)が公表している中性子星のカタログ(ATNF pulsar catalog : 1.63ver)とカタログ付属の論文からデータを引用した。カタログには2,811個の中性子星が記載してあるが、その中から地球からの距離が記載されている2,706 個を用いた。

■ データ解析の方法

2,706 個分の中性子星の座標データを集め、1 つの座標データにまとめた。次に、まとめた座標データと地球から中性子星までの距離データを用いて、太陽を中心とした俯瞰図(図1)と側面図を作成した。さらに、中性子星の年齢の指標となる特性年齢を算出した。この特性年齢に関してもまとめた座標データと合わせて、年代ごとに着色し俯瞰図と側面図(図2)を作成した。ただし、特性年齢は算出可能であった 1,437 個分の中性子星のみのデータを用いた。

■ 解析結果

図1は作成した俯瞰図に、最新の研究結果をもとに作成されたイメージ図を合成させたものである。その結果、中性子星の位置分布と天の川銀河の渦状腕に一致する構造を確認できた。また、側面図からは天の川銀河を取り囲むハロー空間にも分布していることが分かった。
特性年齢を求めた結果、100億年前に誕生した古い中性子星から数千年、数百年前に誕生した若い中性子星まで、幅広い年代の中性子星が存在することが分かった。さらに、太陽周辺には古い中性子星が多く分布しており、銀河中心とハロー空間には若い中性子星が多く分布していることが分かった。

■ 考察

本研究で用いた中性子星のデータは地球から観測された中性子星のデータであり、当然ながら太陽系近傍の中性子星が多くなっている。この観測バイアスのため、図1では太陽系近傍に中性子星が密集しているように見えると考えられる。太陽系からある程度離れた中性子星の位置分布は、恒星等の観測で知られている天の川銀河全体の渦状腕と重なる部分が多く、天の川銀河が渦巻銀河であるという他の観測事実と整合する。現在では、天の川銀河は棒渦巻銀河と考えられているが、本研究では銀河中心の棒状構造を捉えることはできなかった。これは銀河中心付近の中性子星の観測が進んでいないためである。
図2のハロー空間にある中性子星の分布に着目すると、伴銀河との衝突で形成される恒星ストリームと似た構造があることが分かった。また、その構造にある中性子星の特性年齢は数百万年以内と若いものが多く、伴銀河と天の川銀河の衝突の際に形成された大質量星の超新星爆発により誕生した中性子星たちであると予想される。

図1 中性子星の位置分布と渦状腕

図2 特性年齢ごとの分布と恒星ストリーム
破線の領域が恒星ストリーム

■ 結論

中性子星の座標データから、天の川銀河内における中性子星の位置分布を可視化することにより、中性子星で構成する渦状腕を全体の1/4の範囲で可視化することができた。可視化の結果は、天の川銀河が渦巻銀河であることを支持している。
さらに、銀河面をとりまくような中性子星分布があることがわかった。これは既に知られている恒星ストリームと同様の構造である。
中性子星の特性年齢ごとの位置分布を求めたところ、太陽近傍では古い中性子星が多く存在し、年齢毎の位置分布にばらつきがあることが分かった。
指導教員からのコメント 准教授 栗田 泰生 (基礎・教養教育センター/理論物理学)
大川くんの卒業研究は、中性子星のストリーム構造が見つかったことや、それらの特性年齢から過去の天の川銀河で起きた伴銀河との衝突時期が推測されることなど、非常におもしろい研究となりました。今後、銀河面内の特性年齢分布のさらなる研究や恒星金属量分布との比較などを通じて、天の川銀河の進化過程の解明に迫る研究ができるのではないかと考えています。これは、大川くんがコロナ禍という不自由な研究環境でも非常に熱心に卒業研究に勤しんだ成果です。大川くんは本当に宇宙好きであることがよくわかります。日本にはアマチュアの天文学者が多くいますが、大川くんはきっとこれからも宇宙に関心を寄せ続け、宇宙の研究を続けてくれるのではないかと期待しています。
卒業研究学生からの一言 大川 祐満
私は、小さな頃から宇宙が好きで、宇宙に関することを学びたいと思い大学に入学しました。大学では工学的な航空宇宙分野を学んできましたが、最後には天文学的な研究がしたいと思い栗田研究室に入りました。卒業研究を通して、得られたデータや結果からどのようなことを表しているのか、新たに生じた問題をどのように解決するか等、物事を考える力がついたと思います。また、国内外の様々な論文や本を読み考えることで、知り得た情報を基に自分の考えを確立していく力が身についたと思います。卒業研究は楽しく取り組むもの、という先生の言葉の通り、コロナ禍の研究でしたが有意義で楽しい卒業研究となりました。