卒業研究のご紹介
2020年版

化学・バイオ・栄養系所属学生

‘本紅赤丸カブ’種子の超低温保存技術の開発

山岸 蛍長野県
応用バイオ科学部応用バイオ科学科2020年3月卒業
長野県松本美須々ケ丘高等学校出身

研究の目的

全国には地域固有の伝統野菜が沢山ありますが、栽培する人が激減し、維持が困難になっている伝統野菜が少なくありません。植物の種子は、一度失われると二度と蘇らせることが出来ない貴重な遺伝資源です。数年であれば冷蔵庫で種子を保存できますが、東日本大震災において電力供給が停止し、冷蔵庫で保存していた貴重な種子が失われました。この問題を解決するには、電力供給が止まっても保存が継続できる技術の開発が求められています。私が研究材料に用いたアブラナ科植物のカブは、日本全国に散在し、多様性に富んでいるため、伝統野菜としての種類が豊富です。また、種子の寿命が短い欠点も持っています。そこで、代表的な伝統野菜‘本紅赤丸カブ’の種子を-196℃の液体窒素に漬け、半永久的に保存する超低温保存技術の開発に取り組みました。

研究内容や成果等

■ 実験方法

(1)遠心処理を用いた含水率の調整
お茶パックに種子約1gを封入し、20℃の蒸留水に3時間浸漬して充分吸水させた。吸水後、0〜60分間遠心処理し、生体重を測定した。さらに105℃で24時間乾燥処理して乾重を測定し、下記に示す式で含水率を求めた。

(2)追加乾燥処理による含水率の調整
60分間遠心処理して含水率を調整した種子を半量に分け、一方は活性化シリカゲル入りの密閉容器に封入してから、残りの半量はそのまま、低温恒温恒湿器(温度20℃、相対湿度 50%)内に移し、0〜72時間追加乾燥後、含水率を求めた。
(3)液体窒素浸漬種子の発芽調査
任意の含水率に調整した種子を半量に分け、一方はそのまま播種(これを液体窒素浸漬なしとする)、もう一方は液体窒素に1時間以上浸漬した後、取り出し、急速解凍して播種した(これを液体窒素浸漬ありとする)。24℃、16時間日長条件で2週間栽培した後に、発芽率と生体重をそれぞれ測定した。

■ 結果

液体窒素浸漬前後の発芽率に及ぼす含水率の影響について図1に示す。液体窒素浸漬なし(図中:LN浸漬なし)の種子は、含水率3.5〜42.1%の間で92.0%以上の高い発芽率を示したが、含水率1.9%の種子では70.0%に低下した。
一方、液体窒素浸漬あり(図中:LN浸漬あり)の種子は33.7%以上で発芽が認められなかった。しかし、含水率27.0%より発芽が認められ、含水率の低下とともに発芽率が向上し、含水率5.6〜11.8%の種子の発芽率は94.0%に達した。これは、含水率の低下に従い、細胞内で形成される氷結晶のサイズが小型化し、細胞内凍結による障害が軽減されたため発芽率が向上したと考えられる。
一方、含水率3.5%以下の種子は、含水率の低下とともに発芽率が低下し、含水率1.9%の種子の発芽率は82.0%まで低下した。これは、過乾燥による直接的な障害に加え、解凍時の急激な吸水による組織損傷と栄養成分溶出による障害が顕著に生じたためと考えられる。

図1 液体窒素浸漬前後の発芽率
液体窒素浸漬前後の実生の生体重に及ぼす含水率の影響について図2に示す。液体窒素浸漬ありの実生の生体重は、含水率33.7%以上の種子は発芽・成長が全く認められなかったが、含水率27%以下の種子は、含水率の低下とともに成長が増加した。含水率14.9%以下の種子では液体窒素浸漬ありと液体窒素浸漬なしの個体間で有意な差が認められなかったことから、液体窒素浸漬による影響はないと考えられる。

図2 液体窒素浸漬前後の生育調査

■ まとめ

液体窒素ありの種子は、含水率33.7%以下で発芽が可能となり、含水率の低下とともに発芽率が向上し、含水率5.6〜11.8%の種子の発芽率は94.0%以上に達した。また、播種から2週間後の生育も良好だった。しかし、含水率3.5%以下の種子は、過乾燥の影響により含水率の低下とともに発芽率が低下した。
これらの結果より、含水率5.6〜11.8%の種子が超低温保存に適していることが明らかになった。
指導教員からのコメント 植物細胞工学研究室教授 岩本 嗣
震災に加え、風水害などライフラインが寸断され、電力供給が停止する事例は少なくありません。山岸さんには、一度失われると二度と蘇らせることが出来ない貴重な植物の種子を保存する重要な研究に取り組んでいただきました。種子の吸水、乾燥処理、液体窒素浸漬、融解した種子の発芽試験に至る地道な作業を繰り返し、‘本紅赤丸カブ’種子を半永久的に保存する超低温保存技術の開発に成功しました。この研究成果が突破口となり、日本各地に散在するカブ在来品種の保存が進むことを期待しています。
卒業研究学生からの一言 山岸 蛍
本学科では、基本的な実験操作を身に付ける実験科目が充実しているため、卒業研究着手に向けて基礎知識を活かした応用力を養うことができました。そのため、4年次には興味のある研究テーマを選択し、研究目的の設定や操作方法など自ら考え実験を行う論理的思考力と、研究の失敗に対する解決策を考える自己解決力が身に付きました。また、面接指導やキャリアガイダンスなど就職支援の制度も整っており、希望に合った就職の実現に取り組めました。