卒業研究のご紹介
2021年版

機械・自動車・ロボット系所属学生

水素—酸素予混合気の振動燃焼に与える圧力の影響

磯崎 大河長野県
工学部機械工学科航空宇宙学コース2021年3月卒業
長野県屋代高等学校出身

研究の目的

近年、アメリカのSpaceX社のように民間企業の参入によって宇宙開発は活発になっている。通信衛星を多数打ち上げ大規模な通信網を整備するstarlink計画や月面開発を目的としたアルテミス計画など多くの構想がある。これらの計画を実行するためにはより高性能なロケットの開発が必要である。現在、ロケットには燃料に水素、酸化剤には酸素を用いた燃焼方式が用いられている。水素を用いた燃焼は火炎が周期的に変動する振動燃焼が現れることが知られている。振動燃焼は燃料や酸化剤などの速度変化や圧力の変動、燃焼室内で発生する渦と火炎との干渉などの様々な要因が複雑に作用して生じているためメカニズムがわかっておらず予測が難しい。よって本研究では、水素—酸素の予混合気の燃焼において、燃焼器入口の流速に時間的、空間的変動を与えた数値解析を行い、流速の変動や燃焼器入口の圧力が火炎に与える影響について明らかにする。

研究内容や成果等

■ 計算方法および条件

本研究では、直方体の大きさの燃焼室を設定し、一端から燃焼室内に水素—酸素予混合気を温度300Kとして流入させる。ある断面に着火源を置いたのち取り除いた。より不安定な燃焼条件について考察するために燃料希薄条件とした。当量比φ=0.8とする。また、燃焼室に流入する予混合気の流速に変化を持たせるため、流入速度に時間的、空間的な変動をU=U0{1+Asin(2πft) cos(2πy/λ)}として与えた。流入流速において振幅Aを固定し、振動数fを50〜500[Hz]、波長λを0.1〜100[mm]とした。また圧力を0.1(大気圧)〜5[MPa]の間で変化させて燃焼を解析した。

■ 結果および考察

図1に大気圧、振動数50Hz、波長10mmの条件における熱発生速度分布を示す。熱発生速度の等値面を表示している。あらかじめ空間が水素—酸素予混合気で満たされている状態から着火しているので計算開始すぐは着火源の上流と下流に火炎が二つ形成される。着火直後は平面の火炎面であるが次第に火炎面に凹凸をもつセル状火炎が形成される。セル状火炎は時間が経過するごとにセルの数が増加していき火炎面が複雑な形状となっていく。複雑な形状を持つ火炎面は,火炎面の自体を変動させ火炎の吹き飛びや逆火を引き起こす危険がある。また、局所的に発熱量が増加することでエンジンの性能低下や破損につながる危険が発生することが考えられる。

図1 大気圧条件の熱発生速度分布
図2には各振動数の時の熱発生速度のヒストグラムを示す。振動数が 50Hz のとき熱発生速度の散らばりが大きいことがわかるが、250,500[Hz]では散らばりが少なく最頻値を中心に狭い範囲に多く位置していることがわかる。

図2 各周波数の熱発生速度
図3に圧力を大きくしたときの熱発生速度分布を示す。大気圧条件では熱発生速度は圧力が増加するとともに大きくなっていることがわかる。また、燃焼室内に定在するための予混合気の平均流速U0も大きくなることがわかった。圧力の増加による燃焼速度の増加のためであると考えられる。

図3 3,5[MPa]の熱発生速度分布

■ 結論

水素−酸素予混合燃焼は、予混合気の変動によってセル状火炎を形成することがわかった。また、予混合気の振動数によってその形状が大きく変化することがわかった。
圧力が変化すると熱発生速度や燃焼速度を増加させることがわかった。
指導教員からのコメント 燃焼工学研究室准教授 林 直樹
燃焼の数値解析は、近年のコンピュータの性能向上などによってより複雑な計算が可能となってきましたが、まだまだ明らかになっていない現象も多く残されています。本研究で対象とした振動燃焼は、ロケットエンジンにおいて、ときにエンジンの故障にもつながる現象であり、その解析は非常に重要です。一方、水素燃料は二酸化炭素を排出しない燃料として、ロケットでの利用だけではなく、様々な分野で今後さらなる利用が期待されていますが、その特性はガソリンなどとは大きく異なります。この研究により、水素を安全に効率よく利用する手段の開発につながるものと考えています。
卒業研究学生からの一言 磯崎 大河
大学に入学してから様々な活動に取り組むことができた。まず、多くの授業を受けることで今まで知らなかった分野の知識を学ぶことができた。宇宙工学に特に興味があったのでその最前線で活躍している人の話を聞く機会があったことが良かった。授業以外では部活動で一つのものを協力して作り上げる過程を経験することができた。この経験は社会人になっても活きてくると思う。また、高校までとは異なり幅広い年代の人と交流がもてたり、様々な地域から集まった人と知り合ったりできたのがこれからの人生においてかけがえのないものだと思う。