卒業研究のご紹介
2020年版

電気電子系所属学生

線電極複数本時における線対平板型電気集塵装置 の粒子軌道解析とその妥当性の検討

田村 亮太神奈川県
大学院電気電子工学専攻 博士前期課程1年
(工学部電気電子情報工学科 2020年3月卒業)
神奈川県立藤沢西高等学校出身

研究の目的

工場や発電所の排ガスに含まれる粒子状物質は大気汚染の原因となっており、その対策として電気集塵装置が使用されている。電気集塵装置の開発・設計には実験によるアプローチが適していると思われるが、時間やコストが制限され実験回数に限界が生じてしまう。そこで、電気集塵装置を効率的に開発・設計する手段としてパラメータを自由に変更できるシミュレーション解析に注目が集まっている。シミュレーションを用いることで、装置内部現象の可視化、再現も可能となり、ブラックボックス化されていた装置内部の粒子挙動を考慮した新たな電気集塵装置の開発、設計が可能となる。しかし、シミュレーションと実験結果の比較を行っている文献は少ないため妥当性が示されていないのが実状である。本研究では、線対平板型電気集塵装置における粒子挙動のシミュレーション結果と実験値を比較検討することで、シミュレーションの妥当性を示すことを目的とした。

研究内容や成果等

■ 解析方法及び実験方法

(1)粒子軌道解析
ESP内部の解析には、COMSOL Multiphysics®(Ver.5.4)を使用し、二次元モデルを作成した。解析モデルは、実験装置の線対平板型ESPを模擬した構造となっている。ESPを通過する粒子は、コロナ放電によって生成されるイオンにより帯電され、クーロン力で接地平板電極上に捕集される。ESPを通過する粒子にはたらく力を(1)式で示す。第1項は重力、第2項は抗力、第3項は電気力となっている。粒子はオイルミストを想定した。

ここで、mpは粒子の質量[kg]、u-vは流体と粒子の相対速度[m/s]、μは粘性係数[Pa・s]、ρpは粒子密度[kg/m3]、dpは粒径[m]、qは粒子帯電量[C]、Eは電界強度[V/m]である。

(2)粒子軌道測定
粒子軌道の測定には、粒子追跡法(Particle Tracking Velocimetry : PTV)を用いた。実験装置を図1に示す。本実験のESPは、3本の線電極と2枚の接地平板電極を平行に配置した線対平板型電極構造とし、線電極と平板電極の間隔を15 mm、平板電極長を110 mm、線電極間隔を30 mmとした。放電電力が10 Wになるように線電極に負極性高電圧-10.85 kVを印加し、トレーサー粒子として公称粒径1〜3μmのオイルミストを装置内に1.0 m/sで流した。流したオイルミストに3 Wのレーザー光線を接地平板電極に対して垂直に照射することで粒子の流れを可視化し、その粒子をHigh Speed Camera(FASTCAM Mini AX50 type 170K-M-8GB)を用いて撮影した。さらに解析ソフト(FtrPIV)を用いてPTV解析を行った。

図1 実験装置

■ 結果及び検討

放電電力10Wにおける粒子軌道の解析結果を図2に示す。カラーバーは青から赤になるに従い粒子速度が速くなっており、実線は各粒子の軌道となっている。粒子速度は線電極(A)周辺が最も速く、1.49m/sとなった。線電極直下の粒子は主流体の方向に対して20°から30°の角度で接地平板電極方向に、線電極間では主流体と同じ方向に移動した。
粒子軌道の測定結果を図3に示す。カラーバーは、同じく青から赤になるに従い粒子速度が速くなっており、矢印は粒子の移動方向となっている。粒子速度は線電極(A)周辺が最も速く、1.47m/sとなった。線電極直下の粒子は主流体の方向に対して20°から30°の角度で接地平板電極方向に、線電極間では主流体と同じ方向に移動した。
解析結果と実験結果を比較すると、粒子速度の最大値はほぼ一致し、粒子の軌道も概ね同様となった。すなわち解析結果の妥当性が示された。

図2 粒子軌道の解析結果(電極長 110mm、線電極間隔 30mm、放電電力 10W)

図3 粒子軌道の測定結果(電極長 110mm、線電極間隔 30mm、放電電力 10W)

■ まとめ

線電極3本、放電電力10W時の粒子軌道解析と実験結果を比較した結果、以下のことが示された。
・粒子速度は、解析結果と実験結果ともに線電極(A)周辺で最大となった。
・粒子の軌道は、解析結果と実験結果で概ね同様な傾向となった。
・以上のことから、解析結果の妥当性が示された。
指導教員からのコメント 電気応用研究室教授 瑞慶覧 章朝
本研究は、放電、粉体と流体が相互に作用し合う非常に複雑な現象を数値的に解析し予測するものです。このような研究は以前から行われていましたが、独自の方法で境界条件を設定し、その妥当性をPTVやPIVという特殊な測定システムを用いて実験的に裏付けたことに特徴があります。田村君は大学院へ進学し、本研究に精力的に取り組み、アメリカの静電気学会誌に論文掲載が決まるなど成果を挙げています。シミュレーションと実験の両方の能力がメキメキと伸びています。
修士研究学生からの一言 田村 亮太
卒業研究では結果を予想しながら実験を行う中で、予想通りの結果にならず様々な課題や問題に直面することもたくさんありましたが、研究室の先輩や教授からのアドバイスを受けながら試行錯誤し、予想通りの結果が出た時は研究することの楽しさや面白さを学ぶことができました。この経験が次の実験へのモチベーションにもつながり積極的に研究を行うことができました。