卒業研究のご紹介
2021年版

機械・自動車・ロボット系所属学生

バレーボール競技における声掛けとパフォーマンスの関係

高橋 知也神奈川県
工学部機械工学科機械工学コース2021年3月卒業
神奈川県立商工高等学校出身

研究の目的

高校から大学までバレーボール競技を続けており、卒業後も教える立場で関わりたいためスポーツ指導について研究しようと考えた。雰囲気の良いチーム作りと同時に、勝つための「流れ」を手繰り寄せる、ミスを抑える指導をしたい。そのためバレーボール競技における「声掛け」について明らかにしたいと考えた。
バレーボールは1人のミスがチームの失点に繋がりやすく、チームワークが必要不可欠で、特に「声掛け」が重要である。高校時代の監督は「ネガティブな声掛けをせずポジティブな声掛けをしなさい」という指導をしていた。「ミスをするな」と言われた時に頭の中に浮かぶのは実は「ミスをしているイメージ」であり、ネガティブな声を掛けることは良いパフォーマンスを妨げるという「皮肉過程理論」(c.f.Wegner,1994,2009)によるものであったと思われる。
そこで、ネガティブまたはポジティブな言葉を含む声掛けによって選手のプレーにどのような変化が現れるのかを検証することとした。

研究内容や成果等

■ 背景と研究テーマ

チームスポーツとは、「レギュラー」と呼ばれる、実際に試合でプレーをする出場選手と、控えの選手によって構成された、一つのチームとして協力しながら競い合う競技のことである。(山田、2014)(1)声掛けによって心境の差を感じる選手にはポジティブな声が効果的で、心境の差をさほど感じない選手にとっては競技に影響しないと言われている(中川、篠、松井、内田、2015/参考文献省略)。(2)中川らの研究では、サーブ前のポジティブな声掛けが有効であるという結果が出たが、本研究ではその他のプレーや試合全体の「流れ」の中での声掛けが大切な要因ではないかと考えた。

■ 研究方法

3vs3のバレーボールの試合を3セット実施し、プレーを録画し、選手の発話を録音する。一つひとつのプレーとその評価データと声掛けのデータを分析する。また、試合後に選手へアンケートを実施し、声掛けによって選手のパフォーマンスがどうなったか検討する。

図1 コートの見取り図
…録音機着用 …ビデオカメラ
…録音機未着用

図2 腕時計型録音機

■ 声掛け後のプレー評価と分析

(1) ほめ言葉とポジティブな声掛けによる効果
ほめ言葉を受けた選手の全体的な傾向として、ミスが減少する結果となった。そのため、「ほめる」という行為は次のプレーでミスをしにくくするために有効な手段なのではないかと考えた。また、ポジティブな声掛けが、悪い方向に働く選手もいるという結果が得られた。
(2)連続得点の発生時の会話分析
「ミス」という言葉がネガティブなイメージを引き起こしてしまい、4連続で失点してしまっている。また「ナイス」という言葉がよく出てくる場面では6連続得点しており、「流れ」がチームに来ている状態になっていた。
(3)アンケート結果の分析
 「やる気が出た」言葉、「不必要」「的外れ」と感じた言葉、「雰囲気が変わった言葉」、戦術などの声掛けで「プレーが良くなった」と感じた言葉についてアンケートを行った。やる気が出た声掛けとしては「ナイス○○」という回答が多く、不必要と感じた言葉では「ミス」というワードが入っている言葉が多かった。雰囲気が変わったと感じた言葉は「ほめ言葉」のほか、「気持ちを切り替えよう」という言葉が多かった。戦術などへの声掛けは具体的な戦術やメンタルの持ち方など様々であった。

表1 ネガティブな声掛けが多い会話データ

表2 プレー評価表

■ 考察

ほめ言葉を受けた選手の全体的な傾向として、直後のミスが減少したため、「ほめる」という行為はミスをしにくい流れを作る有効な手段ではないかと考える。
一方ポジティブな声掛けが良い方向に働く選手もいるが、悪い方向に働く選手もいるという結果が得られた。そのため、声掛けにはパフォーマンスを向上させる効果があるが、チームの選手一人ひとりがお互いの個性を理解し、相手にあった声掛けを工夫できるチーム作りがより重要である。

■ おわりに

ほめ言葉とポジティブな声掛けは選手や指導者の熟練度に関わらず、できることであるため、初心者が多いチームでも声掛けができる雰囲気の良いチーム作りが可能である。選手個人に合った声掛けの方法を見つけられるよう指導できる教師を目指したい。
指導教員からのコメント 准教授 田辺 基子 (教職教育センター専任教員)
4年次まで男子バレーボール部の活動を続けながら工業高校教員をめざすため、バレーボール競技の指導論を研究としてまとめたいと卒研に臨みました。テーマの絞り込みに悩みながらも、高校時代に受けた指導を大学での競技生活で振り返り気づいた「声掛け」という要素の重要性を取り上げました。男子バレーボール部の協力も得て実験を行って検証できたこと、得られたデータを分析し傾向を抽出できたことは貴重な成果でした。精神論に頼らず科学的アプローチのできるスポーツ指導者を育成するためには、工学的なアプローチが重要だという事を示せたと思います。
卒業研究学生からの一言 高橋 知也
1年から3年まで、機械工学科の勉強、工業と数学の教員免許を取得するための教職課程、部活動の3つを両立させることを目標とした。4年次では学科の研究室ではなく、教職教育センターの研究室に入り、教育についての理解を深め、高校教師になった時も活かせる研究をしようと考えた。
振り返ると努力不足だった面があり、悔しく思うが、成長できた面も多々あると感じる。教育実習に参加し、実際に生徒に授業を行うことや、大人数の生徒の前で進路についての話をするなど現場に立って学ぶことができ、大学では得られない緊張感や理論と実践の異なる部分を学ぶことができた。また、機械工学科で学んだ専門の基礎について授業する立場に立つことで、日々の学びが役に立っていると感じた。