卒業研究のご紹介
2021年版

機械・自動車・ロボット系所属学生

EVカート教材の開発と教育試行

後藤 稜貴神奈川県
創造工学部自動車システム開発工学科2021年3月卒業
神奈川県立川崎工科高等学校出身

研究の目的

本学では自動車開発を題材としたPBL教育が実施されています。より一層の教育力の向上を図る為、車両の製作を失敗無く体験可能とした電動化キット車両の教育ベースの中の、専門性が高く設計難易度の高い操舵、駆動系ユニット部品を設計製作し、キット部品として示して失敗無く車両を開発が可能であるかという調査検証を研究目的とした。

研究内容や成果等

■ 自動車キットを適用した教育法調査

自動車キットを適用した教育法調査を行った結果、サレジオ高等専門学校では、斉藤純氏考案による簡易電気自動車キットを用いた電動化車両教材教育が行われていることが分かった。教育目的としては、自分で企画し完成までに至る、問題解決をする為の工夫や努力をする、丁寧な作業を行い良い作品を作る、作業工程や作品の報告を行う、などの実践と理解のためのキットカーである。基本的な走行能力を確保の為、駆動や操舵などの機能をモジュール化されたキットカーである。車軸プレート、ブラケット(長)、ブラケット(短)、マウントと4つの部品から操舵輪ユニット、従動輪ユニットが構成される。

■ キット化部品群の設計と製作

例えば自動車開発プロジェクト科目を観察すると、履修者は自動車の駆動系と操舵系、いわゆる『機構装置』の設計・製作に苦慮している。機構装置の設計・製作は、機構学、機械力学、材料力学、機械設計・製図に加えて創造力を必要とし、高い専門性が求められ難易度は高い。そこで、本教材では、①駆動系と操舵系部品群をキット化して供試する、②履修者はこのキットを用いてEV車両を創造し、車体を設計・製作する、③キットと自作した車体を組み合わせて小型EVを完成させて実際に走行させる、の3点を基本コンセプトとした(図1)。

図1 Concepts for teaching material
このようなキットを供試してものづくりを行う教育が中等教育機関で実施されており、実際に授業の観察を行った。その結果、生徒が自動車づくりを楽しむ様子が観察でき、本学においても学生のモチベーションを高める授業を行うことができる。一方で、高等教育機関で行う教育であることから、上述した3点のコンセプトに加えて、④走行に影響を及ぼすキャスタ角、キャンバ角を可変可能な構造とすることにした。
教材のコンセプトに基づき、図2に示すようなキットを考案した。L字型のブラケットに車輪を保持する台座を締結し、従動輪を基本として、ピロボールを介してL字型のブラケットに取り付ければ操舵輪となる。さらに、電動機用のブラケットと電動機を取り付けることで駆動輪となる。4輪での構成を基本とするが、3輪も可能である。図3に想定される輪構成を示す。単輪から総輪までの駆動が可能である。

図2 Variation of EV’ equipment

図3 EV’ layouts
また、操舵輪については、ピロボールジョイントの取り付け部を長孔とすることで、キャスタ角を付加できるようにし、さらにブラケットの底部にシムを追加することで全輪にキャンバ角を与えることができる。

■ 教育試行

教育教材は実際に試してみて改善を図っていくことが大切である。本研究では、自動車開発プロジェクト科目へ適用し、『履修者が失敗せずに電動車両の設計・製作を行えるか』という目標を達成できるか確認し、併せて、今後の課題、教材の改良点を明らかにする。
今回、8名の3年生が前後でトラックの異なる車両の設計・製作に半年間難航しており、本教材を説明、キットのCADデータを供試し、設計を行わせた。その結果、図4に示すように4種類の車体が約2週間で設計され、その後、実際に製作することができた。

図4 Completed car body
自動車開発プロジェクト前後にアンケート調査を行った。アンケート内容を表1に示す。
アンケ—トの結果から問題解決の意識の向上に繋がったことが分かる。アンケート結果を表2に示す。本研究の目的である製作した教材の試行を行った結果、PBL 教育として一定の意識向上効果が得られることが分かった。 

表1 Questionnaire summary

表2 Questionnaire results

■ 結論  

本研究を実施した結果、以下の結論を得ることができた。
(1)文献及び実施調査により、EVカート教材の必要な要素を示すことができた。
(2)EVカート教材のキットを構成する操舵ユニットと駆動ユニットを設計・製作し、機能を達成していることを確認した。
(3)設計・製作した教材を自動車開発プロジェクト科目に試行した。その結果、4台の車両が設計・製作され所望の目的を達成できた。
(4)本研究で開発したEVカート教材は、学生が失敗することなく電動車を製作できる可能性があると分かった。
今後の課題として、初年次学生への試行及び走行時のエネルギ可視化などがある。また授業導入を行うにあたり、キット数の増加が課題となる。
指導教員からのコメント モータースポーツ工学研究室准教授 岡崎 昭仁
三年次に受講した自動車開発プロジェクト科目の経験から、後輩達が比較的簡単に電気自動車を製作できるキットを開発したい、と後藤さんは卒業研究の希望と伝えてくれました。前半、コロナ禍で大学へ入れない日々が続きましたが、自宅で集中して図面を描き、オンラインで設計レビューを行い、卒業研究を進めました。感染状況も落ち着きを見せ、入構できるようになると、それまでに作図した図面を携えて工作工場の先生方と実践的な相談をして、見事にキットを完成させてくれました。また、実際にキットの有効性を確認するために、キットを後輩に使ってもらい、その効果も確認できました。成果は、学会で発表できたので上々の卒業研究であったと思います。社会でのご活躍を祈念しております。
卒業研究学生からの一言 後藤 稜貴
研究を行う中で実際に設計を行い、必要な機能の確保ができているか、また人が乗ることを想定しているかなど、自分のイメージを的確に設計するのはとても難しかった。しかし、自分が設計を行うことで、創造した物を実際に図面として設計する力が身についたと思う。また、実際に設計製作する中で設計者と製作者の意見共有の必要性を学ぶことができた。さらに、どのような図面なのかを相手に言葉で伝えるコミュニケーション力なども向上できたと感じている。