卒業研究のご紹介
2022年版

情報系所属学生

地域連携による厚木市防災行政無線放送の聞こえの実態調査とそのあり方に関する研究

石川 良雅静岡県
情報学部情報メディア学科
2022年3月卒業
静岡県立吉原高等学校出身

研究の目的

厚木市危機管理課と神奈川工科大学地域連携災害ケア研究センターでは数年前から防災に係る共同研究、防災無線の聞こえ調査、総合防災訓練などを行っている。厚木市は災害発生時の情報伝達手段として、あつぎメールマガジン、防災ラジオ、緊急災害メールの発信、防災行政無線放送を行っている。しかし厚木市危機管理課に向けて防災行政無線が聞き取りにくい、聞こえても内容がわからない、聞こえないという意見が市民の方々から寄せられているという問題がある。そこで厚木市危機管理課と神奈川工科大学地域連携災害ケア研究センター、当大学を指定避難所としている荻野地区自治会と幾度か防災に関する円卓会議を行っている経緯から、地域連携を意識した市民参加型の厚木市の聞こえ調査を行うという目的で研究を行った。

研究内容や成果等

■ 研究の目的

私たちが住んでいる日本は災害大国と呼ばれるほど自然災害が多く発生する国である。2011年に発生した東日本大震災を始め、近年でも豪雨や土砂災害による被害が出ている。頻繁に災害が起こる日本では、防災ラジオ、防災行政無線、メールマガジンなどの情報提供手段が存在しており、その中でも防災行政無線はラジオやスマートフォンなど機器を用いらずとも、情報を入手できるため、突発的に発生する災害に対して有効な伝達手段と言える。しかしその一方で東日本大震災などの災害時に防災無線放送が聞こえず避難が遅れた、日常の防災無線が聞こえない、聞き取れないといった内容が自治体に報告されている。
当大学が位置する厚木市においても市民から「防災無線が聞こえない」という声が寄せられている現状もあり、今後の防災対策のためにも今一度防災無線の見直しをする運びとなった。2018年度より厚木市危機管理課と神奈川工科大学地域連携災害ケア研究センター、近郊自治体では地域連携による防災無線放送及び災害時の情報提供手段の検討を行っている経緯から(図1)、本研究では厚木市の防災行政無線放送の聞こえの現状を明らかにする、ICTを用いた情報提供手段を検討することを最終目的とし、今回は当大学の近郊自治体である荻野地区の聞こえの現状調査を行うという目的で研究を行った。

図1 円卓会議の様子

■ 実験手法

公民館の職員を対象とした音声と音楽の聞こえ評価を行った後、厚木市危機管理課、荻野地区自治会と複数回の円卓会議を行い、荻野地区約7500世帯を対象とした大規模な防災行政無線放送の聞こえ調査を行った。聞こえ評価アプリを作成し(図2)、2021年の11月18日(木)に1回目、11月21日(日)に2回目、両日午前11時に評価実験を行った。荻野地区の住民の方々には屋外に出て当日の試験放送を聞いてもらい、1。放送を聞き取れた、2。放送を聞き取れないところがあった、3。放送をほとんど聞き取れなかった、4。放送をまったく聞き取れなかった、の4つの選択肢から一番近いと感じたものを選択していただいた。
聞こえ評価実験後に荻野地区38地点を設定し、地点ごとに音響計測・環境調査を実施。測定日は2021年の12月7日~12月15日、測定時間は聞こえ調査と同じ時間帯付近である午前10時30分から11時30分の間に各地点10分間の測定をし、各地点の騒音レベルや交通量を調査し、聞き取りやすさに影響を与えていると考えられる物の調査を行った。

図2 聞こえ調査登録画面

■ 実験結果

1回目の有効回答数は270件、2回目の有効回答数は191件と言う結果になった。回答率は1回目が3.6%、2回目が2.4%であった。評価実験の結果をヒートマップに表したものを図3に示す。今回特に鳶尾、下荻野で回答が多く確認された。ほとんど聞き取れなかった、まったく聞き取れないと回答が多い地点は鳶尾、下荻野であることも確認された。
音響計測・環境調査の結果を図4に示す。音響計測・環境調査では、ほとんど聞き取れなかった、まったく聞き取れなかったという評価があった地点付近では、騒音レベルが大きい(交通量が多い)、スピーカから距離が離れている、高い建物などの障害物となるものがある、住宅の密集度が影響していることが分かった。また、今回調査を行った荻野地区は厚木市内の中でも高齢者が多い地域であるため、今後の防災行政無線の早急な対策、改善が必要であるという事が分かった。

図3 荻野地区ヒートマップ

図4 音響計測・環境調査の結果

■ 考察

今回の評価実験により荻野地区内であっても聞き取りやすさに差があることが分かった。防災行政無線放送は災害時に特別な機器を使用せずに屋外で情報を得ることができるが、すべての防災行政無線放送の聞こえを完璧にすることは難しいと考えられる。そのため防災行政放送のみに頼るのではなく、迅速な避難をするためにも今後はICTを用いた情報提供手段を検討していく必要があると考えられる。

■ 今後の課題

今回の実験結果を元に厚木市と今後の防災行政無線についての会議、ICTを用いた情報提供手段の検討をしていくと同時に、今回の評価実験では回答数が思うように伸びなかったため今後の回答数を増やす調査方法の検討、厚木市全地域での聞こえ調査の実施、聞こえに影響を与えている物の詳しい調査を行っていきたいと考えている。
指導教員からのコメント 応用音響工学研究室准教授 上田 麻理
石川君はプログラミングや物理的なことよりもコミュニケーション能力に長けており、地域の人と関わることができるこの研究(防災無線放送の聴こえ評価)に決めました。優しい心の持ち主で、「音を通して何か社会に役立つことがしたい」といつも言っていました。研究を進める上で、失敗もたくさんして凹むことも多くありました。が、不貞腐れることなく努力を重ねた結果、苦手だったことが克服されてきました。卒論発表と3月の音響学会全国大会での発表は本当によく頑張りました。
卒業時には,毎年研究室の中からベストスチューデント賞を選出して細やかなプレゼントを贈るのですが、迷った結果21年度は石川君を選びました。卒業式で伝えた際の研究室の同級生からの温かい拍手は今でも覚えています。卒業後も遊びにきてください!
卒業研究学生からの一言 石川 良雅

研究活動を振り返り成長したこと

研究を始めた当初は外部の方々に協力をしていただいて研究をしていくという責任が理解できず、身勝手な行動もあり数々の失敗をしてしまいました。しかし、失敗を通して研究に対する責任、人の意見に耳を傾けることの大切さに気付くことができました。 この研究は大学外での活動も多くあり、地域の方々と話す機会が多々ありコミュニケーション能力もつけることができたと感じました。最後までしっかりとやりきる大切さを学び、成長できたと思います。