卒業研究のご紹介
2019年版

情報系所属学生

ヘッドマウントディスプレイとハイハイデバイスを用いた 乳幼児の事故防止のための研究

富山 涼生神奈川県
情報学部情報メディア学科 2019年3月卒業
柏木学園高等学校出身

研究の目的

厚生労働省が公表している人口動態を確認すると、不慮の事故により死亡する乳幼児の数は減少している。また、雑誌やWebサイトなどの様々な媒体を通じて、不慮の事故を減らすために、発信しているコンテンツがある。しかし、乳幼児の死亡原因は不慮の事故が上位を維持している。殆どの保護者は乳幼児期の記憶がないため、保護者の目線から語られることが多く、乳幼児の目線から語られることは少ないのが現状であり、乳幼児の目線や動きを疑似体験できる機会はない。そのため、不慮の事故が死亡原因の上位を維持していると考えられる。そこで本研究では、普段感じることができない危険な事故、ハイハイによる移動、視野が狭くぼけて見える目線を体験できるシステムを開発し、多くの人に体験してもらうことによって乳幼児の事故防止を促すことを目的とする。

研究内容や成果等

■ 乳幼児の事故体験型 VRゲーム

事故を啓発するためのコンテンツは、シリアスゲーム形式でシステムを開発する。ここでは、シリアスゲームは乳幼児の事故といった社会問題の解決に役立つ物とし、コンテンツの体験者が乳幼児の事故について詳しければ、ゲームの攻略が容易であり、また乳幼児の事故について知識がなければ攻略が難しく、疑似的に乳幼児の事故、動き、目線を体験できる。

図1 乳幼児の事故体験型VR ゲーム
●乳幼児の事故
消費者庁の調査では、乳幼児の事故は、転落、転倒、溺水が多く、他にも様々な事故がある。その中でも日常における身近な物に関係する、はさむ、打撲、切り傷、火傷、誤飲、窒息の6種類の事故を再現した。これらの事故や舞台に関する3DモデルをMayaで作成した。
●乳幼児の動き
乳幼児の動きを再現するために、独自のハイハイデバイスを考案した。ゲームエンジンUnity上で1フレームごとのViveトラッカーの移動量と向きを計測し、手が床についている状態と、手が床から離れている状態を繰り返すことで、Viveトラッカーの移動量を乳幼児の動きである、ハイハイと連動し、手袋を組み合わせることで実現した。
●乳幼児の目線
乳幼児の視線は大人と比較して垂直方向に50度、水平方向に60度も視野が狭く、輪郭が薄っすらとしており、ぼけて見える。それらを再現するため、Unityの公式アセットである、Post Processing Stackを利用し、Head Mounted Displayの映像の視野をぼかし狭くした。

■ 実験動作と結果

アンケート調査は、本学の学生から4人、一般の人から6人、計10人にアンケートを行った。普段感じている動きや目線と、乳幼児の状態では、事故に対する危険の認識が異なるかを調査した。結果は殆どの体験者が乳幼児の状態の方がより危険に感じていた。その結果は表1に示す。

表1 アンケート調査の結果

■ おわりに

結果から事故の啓発性をより高めるため、乳幼児の目線では事故に遭いやすい物の配置や状況などを考え、構成していく必要がある。また、VR酔いにより、長時間における体験には向かない。そのため、今後はVR酔いの対策も必要である。
指導教員からのコメント 教授 佐藤 尚
全ての人が通ってきた幼児期ですが、その記憶はほとんど残っていません。脳の機能が未発達のため、ものの見え方も成長した後とは異なっています。その当時の経験を再度体験するための方法はバーチャルリアリティ (VR)と呼ばれる技術を使用することです。
彼の研究は、幼児の視点で部屋の中を動き回り、日常の環境が幼児にとっては様々な危険に囲まれている場所であることを認識してもらうシステムの開発です。このために、1)仮想的な部屋空間を構築し、2)幼児の見え方に近い視野による投影方法を実装し、3)ハイハイをするような動作で仮想空間内を移動することのできるデバイスの開発を行いました。
今回の研究では仮想的な部屋空間を構築しましたが、実際の部屋の情報を利用しAR(拡張現実感)を利用して、同様なシステムを構築することを検討しています。
卒業研究学生からの一言 富山 涼生
本学で行われるプロジェクト研究である、ゲームクリエイター特訓に参加したことにより、人を信頼すること、納期を守ること、責任感の大切さを知ることができた。また就職活動に必要な技能を身に着けることができたため、内定をもらうことがあまり難しくなかった。多くのプロジェクト研究に関わることで、多くのことを学べたのは非常に良かったと考えている。