卒業研究のご紹介
2019年版
化学・バイオ・栄養系所属学生
タンパク質性ナノカプセルのドラッグデリバリーシステム(DDS)への応用
根木 麻耶加静岡県
大学院応用化学・バイオサイエンス専攻 Bコース 博士前期課程2年
(応用バイオ科学部応用バイオ科学科 2018年3月卒業)
(応用バイオ科学部応用バイオ科学科 2018年3月卒業)
静岡県立浜松南高等学校出身
研究の目的
薬理効果を十分に発揮させるために、必要な量を望みの時間に標的部位に送達する薬物送達システム(DDS)は注目されている。DDSキャリアとしてリポソームを使用する例が多いが、開閉制御手段、サイズコントロール、局所送達のための抗体等の結合効率において課題がある。大腸菌のシャペロニンGroEL/GroESは、直径約5 nmの空洞内にナノ粒子を内包し、GroESの解離と共に内包物を放出する。GroELはATP加水分解にかかる約8秒でGroESを解離するが、ATP加水分解を遅くした変異型GroELD52/398Aでは約12日間内包物を閉じ込めたまま複合体が維持されるため、タンパク質性ナノカプセルとして応用を検討している。本研究では、核移行シグナル及び膜透過ペプチド配列を融合したGroES変異体を遺伝子工学的手法で作製し、高い細胞膜透過率と核送達率を示すDDSキャリアの開発を目指している。
研究内容や成果等
■ 結果および考察
GroESのN末端及びC末端に核移行シグナル(AhR)、膜透過ペプチド(PTD)を融合させたGroES変異体の発現系を構築した。SDSポリアクリルアミドゲル電気泳動(SDS-PAGE)で分離後、ウェスタンブロットにより各GroES変異体を検出し(図2)、98%以上の精製度まで精製した。それぞれのGroES変異体とGroELにアデノシン三リン酸(ATP)を加えて作製したシャペロニン複合体を蛍光標識し、動物細胞の培養液に添加したところ、シャペロニン複合体を示す蛍光シグナルが細胞内に移行し、さらに核送達していることが観察できた。この結果から、細胞内に届けたい生理活性物質(ドラッグ)をGroEL/GroES複合体に内包すれば、化学的な修飾を必要とせずに細胞内への取り込みが促進できることが示された。
- 指導教員からのコメント 教授 小池 あゆみ
- シャペロニンは、10-20nmの大きさの天然に存在するタンパク質性ナノカプセルです。ストレス条件下で働くため、それ自身はストレスに強く、通常のタンパク質に比べて大変安定であることは応用研究に向いています。蓋の開閉と届ける場所を制御することで、これまでにないインテリジェントな薬剤カプセルができると考え、研究しています。仮定を実験で証明し、考察を次の実験計画につなげる連続で、根木さんは時々夢の中でもデータの考察をしているそうです。体力と精神力に優れているので、泥臭い実験も何のその、日々頑張って着々と成果を積み上げています。
- 修士研究学生からの一言 根木 麻耶加
- 特別専攻の授業の一環で行ったサイエンスインカレでの発表、論文紹介を通じて論理的思考や文章読解力の必要性、基礎を学ぶことができました。サイエンスインカレではグループごとに研究テーマを決め、試行錯誤しながら実験しました。また、国立がん研究センターで研究している方の講義を受けることができ、ドラックデリバリーシステム(DDS)に興味をもちました。卒業研究では講義で興味をもった DDSに関わる研究をしています。研究は思うように進まないことも多々あり、授業で学んだ基礎を振り返ることを心がけています。
- 応用バイオ科学部応用バイオ科学科(大学サイト )
- 教員紹介ページ(大学サイト )
- 研究室ナビ(大学サイト)