卒業研究のご紹介
2022年版
情報系所属学生
NFVによる大容量映像配信システムの高度化の提案
岩崎 昂大静岡県
情報学部情報ネットワーク・コミュニケーション学科
2022年3月卒業
2022年3月卒業
鹿児島県 屋久島おおぞら高等学校出身
研究の目的
近年、4K/8K放送の普及が進み、映像や音声などのデータ量が増加したことで、放送業界では同軸ケーブルを用いたSDI映像伝送方式から、光ファイバを用いたIP映像伝送方式への移行が加速している。また、クラウド内のデータセンタは、ユーザがサービスを使用していない場合空きリソースとして開放される。我々は、この空きリソースに分散配置した伝送・蓄積・処理機能を自在に連携させ、必要に応じた映像ワークフローを自動構成する映像処理プラットフォームの確立を目指している。
以上の背景を基に、著者らが所属する研究室の過去の活動では、NII(国立情報学研究所) のNFVリソースを利用し、札幌と東京に分散構築された合計8台のVMが相互に連携して映像伝送を行う映像配信システムを構築した(図1)。また、本システムを用いての数日間に渡る8K非圧縮映像伝送に成功した。
しかし、上記した映像配信システムには課題が存在する. 本システムでは、VMで構成された映像サーバを、VLANスイッチを介して広域IPマルチキャスト網のIPマルチキャストルータに接続している。このため、映像サーバからIPマルチキャストグループ宛に送信された映像データパケットは、たとえ受信者が存在しない場合でも広域IPマルチキャスト網のIPマルチキャストルータに送信され、共用のネットワーク帯域を浪費する(課題①)。また、各拠点のリソースは他のユーザとの共用となるため、他ユーザの利用状況にとっては、映像サーバ構成に必要なサーバリソースとネットワークリソースの確保が困難となる(課題②)。上記の課題を基に、本研究では、既存の映像配信システムの高度化を狙う。
以上の背景を基に、著者らが所属する研究室の過去の活動では、NII(国立情報学研究所) のNFVリソースを利用し、札幌と東京に分散構築された合計8台のVMが相互に連携して映像伝送を行う映像配信システムを構築した(図1)。また、本システムを用いての数日間に渡る8K非圧縮映像伝送に成功した。
しかし、上記した映像配信システムには課題が存在する. 本システムでは、VMで構成された映像サーバを、VLANスイッチを介して広域IPマルチキャスト網のIPマルチキャストルータに接続している。このため、映像サーバからIPマルチキャストグループ宛に送信された映像データパケットは、たとえ受信者が存在しない場合でも広域IPマルチキャスト網のIPマルチキャストルータに送信され、共用のネットワーク帯域を浪費する(課題①)。また、各拠点のリソースは他のユーザとの共用となるため、他ユーザの利用状況にとっては、映像サーバ構成に必要なサーバリソースとネットワークリソースの確保が困難となる(課題②)。上記の課題を基に、本研究では、既存の映像配信システムの高度化を狙う。
研究内容や成果等
■ 課題解決に向けた提案
課題①の解決策として、映像サーバの直近にIPマルチキャストルータを配置することで、帯域を浪費するマルチキャストパケットを局在化させる。この IP マルチキャストルータは、VNF (Virtual Network Function)として、物理サーバ上のVMに構成する。なお、本研究では、IPマルチキャストルータとして株式会社創夢販売のover100G 対応ソフトウェアルータ”Eenow”の採用を検討する。
次に、課題②の解決策として、新拠点への予備リソースの構築を実施する。新拠点に映像サーバを構築することにより、現用拠点のリソースが不足した場合に予備リソースで構成した代替映像サーバに映像送信の役割を移行することが可能となり、映像伝送システム全体における映像配信リソースの確保の容易化に繋がると考える。なお、使用する映像サーバの切り替えには、本システムで採用中の XMS と呼ばれる映像配信エンジンに搭載されている、マスタから映像配信処理をディスパッチする配信処理機能”rdist11”を使用する。
次に、課題②の解決策として、新拠点への予備リソースの構築を実施する。新拠点に映像サーバを構築することにより、現用拠点のリソースが不足した場合に予備リソースで構成した代替映像サーバに映像送信の役割を移行することが可能となり、映像伝送システム全体における映像配信リソースの確保の容易化に繋がると考える。なお、使用する映像サーバの切り替えには、本システムで採用中の XMS と呼ばれる映像配信エンジンに搭載されている、マスタから映像配信処理をディスパッチする配信処理機能”rdist11”を使用する。
■ ソフトウェアルータの組み込み
本システムでは映像サーバ 1 台当たり映像データ3Gbps、(IP パケットで 3.2Gbps)のトラヒックが発生する。従って、ソフトウェアルータには、最低、映像サーバ2台分の6.4Gbps のIPマルチキャストパケット転送能力が必要となる。そこで、東京拠点に Eenowを組み込み、4K非圧縮映像伝送実験を行い、6.4GbpsのIPマルチキャストパケットの転送性能を確認した。
しかし、実験の最中、Eenow が近隣のIPマルチキャストルータに向けて過剰なトラヒックを送信し、IPマルチキャスト網にて接続障害を引き起こした(参考:図 3)。この事象は、受信者が不在の状態での映像配信を条件に発生するという見解が得られたが、他のユーザへの影響を鑑みて続行は危険であると判断し、実験を中止した。
しかし、実験の最中、Eenow が近隣のIPマルチキャストルータに向けて過剰なトラヒックを送信し、IPマルチキャスト網にて接続障害を引き起こした(参考:図 3)。この事象は、受信者が不在の状態での映像配信を条件に発生するという見解が得られたが、他のユーザへの影響を鑑みて続行は危険であると判断し、実験を中止した。
この結果を受け、Eenowの試作用ソフトウェアルータである”Kamuee”を学内の隔離ネットワークに組み込み、NTTコミュニケーションズ社のKamuee 開発者様と共同デバッグを実施した。その結果、事象発生の原因を突き止めることに成功し、Kamuee並びに Eenowの改修に貢献した。その後、映像配信システムに改修後のEenowを組み込み、再度4K非圧縮映像伝送実験を行ったところ、以前のような障害を引き起こすこと無くIPマルチキャストパケットが送信され、KAIT学内に設置した機器を用いて正常に映像が受信可能であることが確認された。
以上の結果より、NFV環境におけるEenowの実用性が確認され、東京以外の拠点にも Eenowを組み込むこととなった。しかし、札幌拠点では最大19.2Gbpsのトラヒックを扱う必要があることと、該当のホストマシンにover10GのNIC が搭載されていないことを理由に、Eenowの実装が難航している。したがって、札幌拠点にはEenowを組み込まずに実験を続ける運びとなった。
以上の結果より、NFV環境におけるEenowの実用性が確認され、東京以外の拠点にも Eenowを組み込むこととなった。しかし、札幌拠点では最大19.2Gbpsのトラヒックを扱う必要があることと、該当のホストマシンにover10GのNIC が搭載されていないことを理由に、Eenowの実装が難航している。したがって、札幌拠点にはEenowを組み込まずに実験を続ける運びとなった。
■ 新拠点への予備リソースの構築
大阪拠点に東京拠点と同様の環境を構築した上で、東京/札幌/大阪の3拠点に分散構築された合計10台の映像サーバから任意の8台を選択し、合計25.6Gbpsの8K非圧縮映像を送信した。その結果、KAIT学内に設置した機器を用いて正常に映像が受信可能であることが確認された(参考:図4)。実験中、一部の映像サーバが性能を発揮できなくなりパケットロスが発生することもあったが、rdist11によって使用する映像サーバを切り替えることに成功し、問題の解決に至った。
■ 研究総括と今後の課題
本研究では、既存の映像配信システムにおいて不要なマルチキャストトラヒックの局在化を実現すると同時に、NFV環境におけるEenowの実用性を確認した。次に、新拠点である大阪拠点に映像サーバを構築した上で、使用する映像サーバの切り替え方法を提案し、その動作確認をすることで、映像配信システム全体の映像配信リソース確保の容易化に貢献した。また、NICT主催の「超高精細映像遠隔配信実験2022」において本研究の成果を公開した。
今後の課題としては、札幌拠点へのEenowの組み込みが未完了のため、札幌拠点の映像サーバから送信されたトラヒックは未だ局在化できていないという点が挙げられる。また、現状、使用する映像サーバを切り替えるにはrdist11の設定ファイルを手動で書き換える必要があるため、これを高速化、自動化する手段が求められている。
今後の課題としては、札幌拠点へのEenowの組み込みが未完了のため、札幌拠点の映像サーバから送信されたトラヒックは未だ局在化できていないという点が挙げられる。また、現状、使用する映像サーバを切り替えるにはrdist11の設定ファイルを手動で書き換える必要があるため、これを高速化、自動化する手段が求められている。
また複数の組織との連携作業のために、予想以上に時間を要しましたが、システムを完成させ、2022.2のNICTの「超高精細映像遠隔配信実験2022」において動作を実証した事、信学会全国大会で成果発表に繋げた事も評価できます。
今後もネットワーク社会を支えるエンジニアとして活躍を期待しています。
研究活動を振り返り成長したこと
恵まれた環境での研究や外部イベントへの参加といった実践経験を積むことで、ネットワークに関する知識や技術を身に着けるだけでなく、対外的なコミュニケーション能力や課題解決力を鍛えることができました。研究室での活動を通して、エンジニアとしても人間としても成長することができたと自負しています。未来の卒研生(高校生)へのメッセージ
大学生は、履修する講義や研究テーマを自分で決めなければならず、「自分から前に踏み出す力」が求められます。人によっては大変だと感じてしまうかもしれませんが、これは自分という人間を表現するチャンスです。少なくとも私は、本学に入って良かったと思っています。