卒業研究のご紹介
2022年版

化学・バイオ系所属学生

温度感応型医薬用ゲルの合成と評価

武田 翔静岡県
工学部応用化学科
2022年3月卒業
静岡県立沼津工業高等学校出身

研究の目的

私たちは風邪などの体調不良の際には医薬品を服用する。薬剤の摂取量が適切であれば症状は回復へと向かうが、薬剤の摂取量が過剰な場合には副作用として頭痛や嘔吐感などが現れることがある。また、成人は自ら薬剤の種類や摂取経路を選択できるが、乳幼児は自らの意思で薬剤や摂取経路を選択することができない。乳幼児に対して処方される薬として散剤や液剤が上位を占めているが、これらは子どもが嫌がる薬の種類としても上位を占めている。そこで効果的な薬剤摂取を行うために座薬に注目をした。これらのことを踏まえ、座薬用製剤の素材への応用を目指し、外部環境の温度変化でリング状架橋点が移動して分子構造に変化を生じ、薬剤の徐放量を温度によりコントロールするために低温度域で膨潤し高温度域では収縮をする温度応答性ゲル(温度応答性ポリロタキサンゲル)の合成を目的とした。

研究内容や成果等

■ 実験

ポリエチレングリコール(PEG)の末端基をカルボン酸に酸化後、α-シクロデキストリン(α-CD)、β-CD、γ-CDを包接させ、1-アダマンタンアミンでこの包接錯体の末端基をキャッピングすることで各ポリロタキサン(PR)の合成を行った。PEGとα-CDのモル比を変更し、包接数の異なるPRの合成を行った。また、同様の操作にてポリプロピレングリコール(PPG)と各CDからなるPRの合成を行った。さらに温度応答機能を付加するため、38.5 ℃の下限臨界共溶温度(LCST 38.5 ℃)を持つ N-3-エトキシプロピルメタクリルアミドを合成し、架橋剤とともに重合をして温度応答性PRゲルの合成を行った。得られた温度応答性PRゲルの膨潤収縮挙動を確認した。さらに合成した温度応答性PRゲルをアセトアミノフェン水溶液(10 mg/mL)中で膨潤させ、日本薬局方に基づき溶出試験(第二液)を行い、温度に対するPRゲルからの徐放量の経時変化を測定し、徐放速度を算出することで解熱剤の徐放能を評価した。

■ 結果及び考察

各主鎖と各CDからなるPRおよびPRゲルの合成

PEGと各CD、PPGと各CDからなるPRの合成を行った。PRを固体として得ることができたのはPEGとαCDからなるPRおよびPPGとβ-CD、γ-PRからなるPRであった。このうち PEGとα-CDからなるPRゲルのみ合成を行うことができた。

包接数が異なる温度応答性PRゲルの収縮挙動

N-3-エトキシプロピルメタクリルアミドと包接数39、包接数44、包接数93のPRからそれぞれGel 1、Gel 2、Gel 3を合成した。各ゲルを10×10×5mm(縦、横、高さ)に切り出し、日本薬局方に基づき溶出試験(第二液)を20~46℃の温度領域で各温度に対する質量変化を測定した。このときの温度応答性PRゲルの様子をFig.1に示した。また、そのときの質量変化をFig.2に示した。Gel 1、Gel 2及びGel 3の最大収縮率は、それぞれ 63.7%、 85.5%、及び87.2%となった。

Fig.1 温度応答性PRゲルの様子

Fig.2 各温度に対する質量変化

温度応答性 PR ゲルの徐放試験

Gel 1においてアセトアミノフェンの徐放試験を行った。温度に対する徐放速度の変化を Fig.3に示した。低温域(37℃>)と高温域(40℃<)の徐放速度の差は、0.12mg・mL⁻¹・s⁻¹・g-gel⁻¹となり、通常の平熱の温度37℃を越えると40℃まで3.2倍の急激な上昇変化を示した。以上のことから、PRゲルは温度に依存し体積変動を示し、薬剤の徐放において温度に対して徐放量が変化する座薬材料への応用が可能であることが明らかになった。

Fig.3 各温度に対する徐放速度の変化
卒業研究学生からの一言 武田 翔

研究活動を振り返り成長したこと

卒業研究を通じて、新しいことに挑戦する姿勢や自ら考えて行動する姿勢、様々な視点から物事を捉える能力が身につきました。研究ではつまずくことが多々ありましたが、すぐにあきめるのではなく、まずは自ら解決策を考えることを心がけました。しかし、自分だけで解決できることには限界があります。そのときは齋藤教授に相談をして研究の方向性を話し合ったりや、仲間からのアドバイスを参考にしたりすることで研究を円滑に進めることができました。

未来の卒研生(高校生)へのメッセージ

今後大学生になる方は、大学生活でたくさんのことに挑戦して新たな発見や経験を通じて充実した学生生活を送ってほしいです。