卒業研究のご紹介
2019年版

医療技術・看護領域系所属学生

VA 血管モデルの開発と医療スタッフの穿刺ハンドリングの評価

西村 健桃神奈川県
工学部臨床工学科 2019年3月卒業
神奈川県立横浜南陵高等学校出身

研究の目的

血液透析では週に3回、透析用に作られた血管(バスキュラーアクセス(以下:VA)に対し、治療の度に穿刺(針を刺すこと)をしなければならない。穿刺の教育は施設毎に独自に行われているため、その技術は施設毎に特徴があると考えた。施設毎の特徴を明らかにするため、患者の血管のモデルを自作し、その血管に対しどのように穿刺をするのかモーションキャプチャ(以下:MC)で3次元の動きを記録することを目的とした。技術が高いとされる人が、どのように穿刺をするのかを明らかにすることでどのように行うのが理想的なのかが分かり、この研究を発展させていくことで、将来は自動で穿刺を行えるようなシステムを作成できるのではないかと考えている。

研究内容や成果等

「自作VA血管モデルの評価」、「施設、経験年数によるパフォーマンスの評価」を目的とし、以下の実験を行った。被験者は2施設(A・B)のMEを対象とした(施設 A:8名、施設 B:3名)。穿刺業務経験は41ヶ月から389ヶ月。

■ 自作モデル

図1に示すVAを模擬した穿刺モデルを作製した。血管モデルはアメゴムを使用し径が4.6×3mm、10×7mmの2種類、表皮層はエクシール社製人肌ゲルシート使用し、厚さ1mm、5mm、7mm、10mmの4種類の計8種類のモデルを作製した。通常ブラインド穿刺では、血管の深さが5mm程度までだが、被験者の技能差を顕在化するため、血管位置の深いモデルも用意した。MCから得られた結果:モデルに刺し始めの(針先端を表皮に接触させる瞬間の)角度 (刺入角)は、両施設も上昇傾向にあるものが多かった。

図1 自作モデル

■ 実験方法

医療用昇降ベッドを囲うようにMC用のカメラを配置し、ベッドの高さは、被験者の穿刺のしやすい高さに調整させた。8種のモデルに対し2種類の穿刺針(以下:針)を使用し、被験者一人当たり16回穿刺を行わせ、施行順序はランダム。針にMC用マーカーを装着し、針の動きを空間座標で記録すると同時に、通常のビデオカメラで撮影も行った。穿刺前に触知の時間は十分に時間を与え、被験者が穿刺可能と判断後に穿刺を開始し、終了は被験者がモデルの血管内腔に留置できたと判断できるまでとした。最後にアンケートで、自施設の規模・穿刺技能の評価・モデルの評価・社団法人日本透析医学会「慢性血液透析用バスキュラーアクセスの作製および修復に関するガイドライン」に関する回答を求めた。

■ 結果

モデルの評価:アンケートからモデルは人工血管使用皮下動静脈瘻に似ているという意見が多かった。また感性評価の結果モデルと実物は近いという評価を得た。
穿刺の成否:穿刺の結果の一部を表1に示す。全体で6割程度の成功率で施設Bの方が高い傾向であった。

表1 穿刺の成功率
MCから得られた結果:モデルに刺し始めの(針先端を表皮に接触させる瞬間の)角度 (刺入角)は、両施設も上昇傾向にあるものが多かった。

図2 施設 A:血管径4.6mm・針の太さ15G刺入角

図2 施設 B:血管径4.6mm・針の太さ15G刺入角

■ 考察

今回のモデルは穿刺難度の高いモデルで、施設Aは維持透析患者を扱い、問題の無いVAへの穿刺が多い。施設Bは大学病院であり通常の透析患者に加え、シャントトラブルの患者への穿刺もあり、施設Bの方が、成功率が高くなったと考える。図2、図3より施設Bの方が、SDが小さい傾向になった要因として教育の違いが考えられる。施設Bは施設Aに比べ穿刺教育が浸透しているので、全員が同様な穿刺を行ったと予想する。
今回の検討から施設間で穿刺ハンドリングの大きな特徴としてSDの大きさと角度の時間変化が分かった。これは日常で穿刺するVA等、施設の特性が反映されている。
指導教員からのコメント 教授 鈴木 聡
VA(バスキュラーアクセス)は血液浄化療法における血液の出入り口であり、透析などの治療では医療スタッフが VAに穿刺(2か所)することで血液の体外循環が可能になります。この穿刺は技能を要する手技であり、「上手さ」が要求されます。西村君は「穿刺の上手さ」には、動きに特徴があるという仮説を立て、モーションキャプチャにより針の動きを定量化することに挑みました。このプロセスで、血管の太さや表皮からの深さが異なる複数種の “VA血管モデル ”本物に近い触感で、(表皮から血管を蝕知した際、さらに超音波診断装置で画像化が可能なもの)を作り、これを用いて現任の臨床工学技士の方々による穿刺実験を行い一定の知見を得ました。この研究は臨床業務に役立つことが期待できます。
卒業研究学生からの一言 西村 健桃
私は、本学で研究を行う上での重要な心構えやノウハウ等を学ぶことができました。担当教員の鈴木先生は厳しかったですが、私のためになるよう真摯に指導してくださいました。辛かった分、自分が満足できる研究ができ、とても良い経験でした。卒業研究と国家試験の勉強の両立は大変でしたが、ここまで頑張ってこられた自分を誇りに思えると感じています。本学で学んだことは、私が医療に貢献するために役立てられると思います。