卒業研究のご紹介
2021年版
機械・自動車・ロボット系所属学生
脳血流計測を用いた操舵特性評価に関する研究
渡邊 海東京都
大学院機械システム工学専攻 博士前期課程1年
(創造工学部自動車システム開発工学科2021年3月卒業)
(創造工学部自動車システム開発工学科2021年3月卒業)
東京都 足立学園高等学校出身
研究の目的
自動車開発において、人が安全に運転しやすい車両の開発には、定量的な評価指標が重要となる。
そこで、本研究室では光トポグラフィ装置(NIRS/Fig.1)を用いた脳活動状態とドライバモデルのパラメータとして同定した一次遅れ時定数τL(ドライバの操舵行動の立ち上がり時間)との相関性を見出された研究に取り組んできた。
しかし、先行研究では、操舵応答特性評価のためのレーンチェンジ実験に固有な付随現象(横加速度、LED発光)が脳血流計測に及ぼす影響については十分に検討されていなかった。そのため、これらの影響を検証し、操舵行動のみの脳賦活状態を抽出する実験方法について検討を行った。それらの影響を考慮した上で、本研究ではドライバにNIRSを装着し、ドライビングシミュレータを用いたレーンチェンジ実験において、操舵応答特性の異なる2仕様のもと実験を行い、得た脳血流計測データとτLとの有意差を見出すことを目的とする。
そこで、本研究室では光トポグラフィ装置(NIRS/Fig.1)を用いた脳活動状態とドライバモデルのパラメータとして同定した一次遅れ時定数τL(ドライバの操舵行動の立ち上がり時間)との相関性を見出された研究に取り組んできた。
しかし、先行研究では、操舵応答特性評価のためのレーンチェンジ実験に固有な付随現象(横加速度、LED発光)が脳血流計測に及ぼす影響については十分に検討されていなかった。そのため、これらの影響を検証し、操舵行動のみの脳賦活状態を抽出する実験方法について検討を行った。それらの影響を考慮した上で、本研究ではドライバにNIRSを装着し、ドライビングシミュレータを用いたレーンチェンジ実験において、操舵応答特性の異なる2仕様のもと実験を行い、得た脳血流計測データとτLとの有意差を見出すことを目的とする。
研究内容や成果等
■ 操舵応答の伝達関数
車両の重心点を原点とし車両に固定した座標系において、水平面の車両運動を記述する運動方程式をラプラス変換し、操舵角に対する横変位とヨー角の伝達関数を求めると次式を得る。これらの伝達関数をDSに適用し操舵に対する車両応答を再現した。
■ 横加速度が脳活動に及ぼす影響の検証
人の大脳皮質を巡る血流は慣性を持つ流体であるため、頭部が加振されたことにより脳の賦活とは別の信号が現れる可能性がある。そこで、NIRSを装着した被験者をDSの運転席に搭乗させ、Fig.2に示すLC実験コースにおいて発生する横加速度と同様な車両挙動をドライバモデルにて自動的に再現し、被験者に体験させることにより影響を確認した。
実験仕様をDSのモーションゲイン100%時に最大加速度0.3[G]としてゲイン0%、50%、100%の3仕様とし、1仕様につき10試行ずつに設定した。
実験仕様をDSのモーションゲイン100%時に最大加速度0.3[G]としてゲイン0%、50%、100%の3仕様とし、1仕様につき10試行ずつに設定した。
被験者は一切の操舵行動はとらずに安静な姿勢で着座することとした。Fig.3に被験者1名の各仕様に対する脳血流量の時刻歴波形を示す。また、仕様ごとの相対的な脳血流変化を比較するため、LED発光開始の約3秒前を0点としている。多くのCHにおいてLED発光開始タイミング直後から発生する横加速度で脳が賦活していることが確認された。
この結果から、横加速度が発生している区間での評価を行うべきでないことが明らかとなった。
この結果から、横加速度が発生している区間での評価を行うべきでないことが明らかとなった。
■ LED 発光が脳活動に及ぼす影響の検証
LC実験では、LEDの発光を合図にドライバはLCを開始する。そのため、LED発光により、脳が賦活する可能性がある。そこで、LEDを発光させた場合の脳賦活動の影響を確認した。被験者にはLC実験と同様な運転者視点移動を行うことを促した。
Fig.4に計測結果を示す。LED発光開始3秒前を0点としている。安静時間に対してほとんど変化がない。そのため、光電による影響は無視できることが確認できた。
Fig.4に計測結果を示す。LED発光開始3秒前を0点としている。安静時間に対してほとんど変化がない。そのため、光電による影響は無視できることが確認できた。
■ 操舵応答特性が脳血流変化に及ぼす影響の検証
先行研究からτLの差が最も顕著であった、固有振動数ωnにゲイン70%、130%を乗じたものを実験仕様として選択した。これら2つの実験仕様を、ωnゲイン70%を仕様A、ωnゲイン130%を仕様Bとする。次に、脳活動の解析に用いた評価区間は前項目より横加速度が発生している区間において評価を行うべきでないことから操舵終了後、8秒間とした。
また、評価方法として正規化加算平均波形の最大値を評価区間から算出し、τLの有意差について検討を行った。被験者3名の仕様A、仕様Bのそれぞれの平均したτLの同定結果をFig.5に示す。
全ての被験者において仕様Bの方が仕様Aに比べてτLが大きな値になった。次に、操舵応答特性が脳活動に及ぼす影響について考察する。評価区間開始の値を0点として評価を行った。Fig.6に被験者3名に共通して現れたOxy-Hbの最大値を算出した結果を示す。被験者2名においてCH19の最大値は0点より下回ったため、最大値は0となっている。
また、評価方法として正規化加算平均波形の最大値を評価区間から算出し、τLの有意差について検討を行った。被験者3名の仕様A、仕様Bのそれぞれの平均したτLの同定結果をFig.5に示す。
全ての被験者において仕様Bの方が仕様Aに比べてτLが大きな値になった。次に、操舵応答特性が脳活動に及ぼす影響について考察する。評価区間開始の値を0点として評価を行った。Fig.6に被験者3名に共通して現れたOxy-Hbの最大値を算出した結果を示す。被験者2名においてCH19の最大値は0点より下回ったため、最大値は0となっている。
被験者3名に共通してCH4及びCH19において、仕様Aに比べて仕様Bの最大値が減少傾向にあることが確認された。CH4、CH19は一次運動野に該当する部分であり、随時運動のプログラムに関わる大脳皮質の高次運動野などの入力を統合し、脊髄や小脳に運動指令を送っている。小脳では、誤差を検知し、運動野にフィードバックして、運動指令を修正すると推測されている。一次運動野の機能から操舵応答性の違いから修正舵による微小な操舵行動の変化によるものであると考えられる。
■ 結言
LC実験において被験者3名に対し、異なる2仕様から一次運動野にτLとの有意差があることが確認できた。また、本研究においては被験者数が十分ではないことや相関検定までに実施できていない部分があるため、引き続き実験・研究を行う必要があると考える。
また、本学は設備が充実しているので、自分のやりたい研究が行えるところが強みです。
本学科は自動車について専門的に学べるので、自動車に関する知識を十分に身につけられます。本学に在籍した4年間は、充実した学生生活を送り、成長できたと感じています。