卒業研究のご紹介
2022年版

化学・バイオ系所属学生

複数の機能を付与したGroESによるDDS効果の検証

藤田 真琴栃木県
応用バイオ科学部応用バイオ科学科
2022年3月卒業
栃木県立那須拓陽高等学校出身

研究の目的

大腸菌シャペロニンGroELはかご型構造のタンパク質で、ATPの加水分解に伴ってふた型のGroESを結合し、直径約5nm空洞内を持つGroEL/GroES複合体を形成する。その空洞内には直径1-10nm程度の金属ナノ粒子やフラーレンなどの化合物も閉じ込められることが明らかになっている。さらに、2つの内腔を制御して2種類の異なる物質を隣接させ閉じ込めることが可能なことから、当研究室では、GroEL/GroESをタンパク質性ナノカプセルとして薬物を内包し標的部位に送達する、ドラッグデリバリーシステム(DDS)への応用を検討している。
本研究では、核移行シグナルまたは膜透過ペプチド配列を融合したGroES変異体を混合することで、両機能を併せもつGroES変異体の作製を試みた。

研究内容や成果等

■ 研究内容

野生型GroES(GroESWT)の N末端にPTDを付加したGroESN-PTDを新たに作製し、クロマトグラフィーを用いて精製した。GroESN-PTDと GroES のN末端にAhRを付加したGroESN-AhRを混合し、ヘテロヘプタマー(GroESN-PTD+N-AhR)を作製した。また、加水分解時間を遅延させたGroELD52,398A変異体を用いて、ATP存在下でGroESN-PTD+N-AhRとの複合体を細胞に投与してから24時間後に、細胞の局所送達率を共焦点レーザー顕微鏡にて観察した。その結果、GroESN-PTD+N-AhRの細胞核までの送達が確認された。さらにペプチドが単独で付加された複合体と比較をすると複合体が到達した細胞数が増加した。このことから、PTDとAhRを両⽅併せ持つことで複合体の細胞到達が上がったと考えられる。また、細胞に投与するシャペロニンの濃度を上げると、濃度に伴って細胞への到達率も上がった。これらのことから、異なるGroES変異体を混合した複合体は両機能を併せもち、DDSへ応⽤できると⽰した。

図1 蛍光標識したGroESN-PTD+N-AhR/GroELD52,398A複合体の細胞投与
指導教員からのコメント 分子機能科学研究室教授 小池 あゆみ
シャペロニンは、10-20nmの大きさの天然に存在するタンパク質性ナノカプセルです。ストレス条件下で働くため、それ自身は通常のタンパク質に比べて大変安定であり、ナノマテリアルとしての応用研究に向いています。蓋の開閉と届ける場所を制御することで、これまでにないインテリジェントな薬剤カプセルができると考え、研究しています。藤田さんは実験が好きで、体力と精神力に優れているので、泥臭い過程も乗り越え着々と成果を積み上げました。困難な場面を乗り越える毎に思考力が鍛えられ、研究成果だけでなく、自身の成長も卒業研究の大きな成果となりました。学部生でありながら、修士の学生のように研究生活を堪能し、熱心に研究を進めてくれました。
卒業研究学生からの一言 藤田 真琴

研究活動を振り返り成長したこと

私は実験は好きなのですが勉強が追いついておらず、卒業研究を進めていくたびに苦労しました。研究室内での話し合いや実験を進めていく過程で、実験計画を立てて必要な手順を理解すること、得られた結果からいえること、次にするべきことは何か、について考えられるパターンをいくつも挙げて考えられるようになったと感じています。

未来の卒研生(高校生)へのメッセージ

自分の研究目的を理解し、一つずつ着実にデータを集めていき、得られた結果の考察や過去のデータの比較をして新しい発見があった時の嬉しさを経験することができます。研究の難しさも経験し、これまでと別の視点からの見方を身につけられると思います。