卒業研究のご紹介
2019年版

情報系所属学生

3Dスキャンの分析と精度向上に向けた検討

與那原 陸沖縄県
情報学部情報メディア学科 2019年3月卒業
沖縄県立那覇西高等学校出身

研究の目的

近年、3Dスキャナの小型化、低価格化が進み、3Dスキャン技術は個人でも手の届く技術になってきています。しかし、そのようなスキャナで精度の良いデータを得るためには、3Dデータを編集するソフトを使いこなす必要があります。一般家庭に3Dスキャナが普及していくことを見据えると、この現状は芳しくありません。
そこで、単純に何度もスキャンすることで、自動で高精度なデータを生成できるシステムが開発できれば3Dスキャナの普及に貢献できると考え、研究をスタートさせました。基礎技術の研究であるため課題も多いですが、研究が続くことでより良い成果が期待できます。

研究内容や成果等

■ スキャンデータの合成による精度向上システム

3Dスキャナの精度によっては、1度のスキャンで十分なデータを手に入れるのは困難である。そこで、同じ物体を連続でスキャンして得られたデータを重ね合わせていけば、データの精度を向上できるのではないかと考えた。しかし、1回のスキャンごとに、スキャンデータに微細な回転ズレが生じるため、単に点群を合成しただけではズレを含んだデータになってしまう。データ間の位置合わせを行うため、Iterative Closest Point(以下、ICP)を用いた位置合わせ処理を施した後、データを合成する。

■ システム評価実験

本システムの評価のために、本システムを利用したデータと利用していないデータを用意して比較した。ウサギの像を5回スキャンし、本システムを利用して作成したデータと、ウサギの像を3Dスキャンして得たデータを3Dプリントした後、その印刷物を3Dスキャンする操作を5回繰り返したデータを用意した。2個のデータを比較し、輪郭やデータの欠けにおいて精度がどのように変化したか、主観的に評価を行った。実験の結果、本システムを利用したデータは、重ね合わせがうまくいかず、理想的な重ね合わせ結果は得られなかった。原因を調査したところ、初回位置合わせ時に位置合わせのズレが生じ、そのズレが後の位置合わせに影響し、次第にズレが大きくなってしまっていることが確認できた。また、入力データ数が増加すると、データ量が単純増加してしまう問題も確認できた。

■ おわりに

本研究では、精度に問題のある3Dスキャンデータを、複数のデータを位置合わせした後に重ね合わせることでデータの精度を高めるシステムの検討を行った。
3Dスキャンを連続で行ったデータに対してICPを使用してデータ間の位置合わせを行い、データを重ね合わせる。この操作を繰り返し、3Dスキャンデータの情報量を増やし、精度の向上を試みた。その結果、実験に使用したデータはうまく重ね合わせることができず、理想的なデータは作成できなかった。今回使用したICPでは、アルゴリズムの性質上、形状による結果の差異が大きい。そのため、入力データの形状に左右されにくい派生ICPの実装が必要である。今後の課題として、更なる精度の向上及び位置合わせに用いるICPの改良、重ね合わせたデータの軽量化、ノイズの除去処理の追加などが求められる。
指導教員からのコメント 教授 西村 広光
3次元プリンタの普及が進んでいる現在において、その先に求められる3次元スキャニングの技術は、今後ますます身近になり、ニーズも高まってきます。與那原君の研究は、高精度ではない 3次元スキャナを高精度に利用するための基礎技術の開発でした。数年後に高まるニーズをとらえた研究であり、非常に意義のあるものです。緻密な実験や試行の積み重ねの先に成果はついてきます。その積み重ねることの大切さを卒業研究で体験して身に着けてくれたと確信しています。その力を社会で発揮してください。
卒業研究学生からの一言 與那原 陸
神奈川工科大学は設備が充実していたので、勉強したいことや作ってみたいものを実現するにはとても良い環境でした。基礎知識が足りないと感じたら基礎教育センターに行けば手厚いサポートが受けられますし、ものづくりに挑戦してみたいなら KAIT工房、メディア工房に機材が揃っています。
4年次からの研究活動では、文章構成力や思考力、情報収集能力が鍛えられたと感じています。研究室のメンバーや教員に恵まれ、良い研究生活を送ることができました。