卒業研究のご紹介
2022年版

化学・バイオ系所属学生

天然ゴム産生植物のカルス形成と分化誘導条件の検討

高梨 誠人神奈川県
応用バイオ科学部応用バイオ科学科
2022年3月卒業
神奈川県立中央農業高等学校出身

研究の目的

トウダイグサ科のパラゴムノキ(Hevea brasiliensis)は、ゴムの収量と分子量が優れており、高い物性が要求されるゴム製品に用いられる唯一の採取源である。H. brasiliensisは赤道付近の限られた地域でのみ生育可能な植物であり、成木になるまでに7年を要し、ゴムを採取できる期間は20-30年に限られる。このために、天然ゴムの大幅な増産は現状困難であり、天然ゴム資源の枯渇が懸念されている。H. brasiliensisでは、培養に必要な外植体に葯や未熟種子を用いた植物体再生法が行われているが、日本では外植体の確保が難しい状態である。植物体再生の過程で形成されるカルスでは、低分子量ではあるがゴム成分を得ることができる。葉や枝であればカルスを得ることができるため、低分子量である理由を解明することができれば、カルスからのゴム資源を得ることができる可能性がある。また、日本全国に分布するクワ科のイチジク(Ficus carica L.)もゴム産生植物であり、ゴム分子量はH. brasiliensisに劣るがラテックス含量が比較的多く、カルスと同様にゴム資源の一つとなる可能性があるため、本研究では、F. carica L.H. brasiliensisの葉からのカルス形成と分化誘導の条件検討を行った。

研究内容や成果等

神奈川県伊勢原市で採取したイチジク(Ficus carica L.)葉身と、東京大学樹芸研究所から供与されたパラゴムノキ(Hevea brasiliensis)葉身、葉柄の培養を行ったところ、イチジク葉身では最大90%のカルス形成率が確認され、パラゴムノキ葉身では43%のカルス形成率が確認された。培養条件は、2.5mg/L 2,4-D(オーキシン)と 1.0mg/L KI(サイトカイニン)を添加したWPM培地で、30℃暗所での培養を行った。カルス形成率が倍近く異なる理由として、イチジクは葉全体からカルスが形成されていたのに対し、パラゴムノキは葉の中心を通る葉脈のみからカルスが形成されなかったためだと考えられる。形成されたカルスから、サイトカイニンを優性にしたWPM培地で不定芽誘導を行ったところ、イチジクとパラゴムノキのカルスからそれぞれ白色の組織が形成された。パラゴムノキではこの白色組織から褐色の組織が伸長したため、白色組織が形成されることが不定芽形成に必要だと推測される。また、形成されたカルスからオーキシンを優性にしたWPM培地で不定根誘導を行ったところ、カルスの白色化が確認された。この白色化は細かい毛のような組織の集まりであり、前任者は同条件で白色の不定根を形成することに成功していたため、不定根の可能性が期待できる。

図1 イチジクとパラゴムノキの葉から形成された組織
(a)イチジクから形成されたカルス
(b)パラゴムノキから形成されたカルス
(c)イチジクのカルスで不定芽誘導を行い形成された組織
(d)パラゴムノキのカルスで不定芽誘導を行い形成された組織
指導教員からのコメント 分子機能科学研究室教授 小池 あゆみ
天然ゴムを生合成するパラゴムノキのクローン増殖を試行しています。卒業研究に着手した当初は、『実験』と『研究』の違いがわからず、何をどう進めるべきなのか困惑しているようでした。周辺研究の論文を読み、試したい培養条件が思い浮かび始めると、生真面目にコツコツと継代培養を重ねながら、結果に影響を及ぼすような条件を見出すようになりました。実直な性格とテーマの個性が合致し、良い卒業研究になりました。真面目な反面、固定観念を拭えない傾向がありましたが、研究活動を通してデータに誠実に柔軟に思考する練習をしたと思います。
卒業研究学生からの一言 高梨 誠人

研究活動を振り返り成長したこと

研究というものがどういうものか分かっていない状態からのスタートであるため、最初は手探りで前任者のやっていたことを模倣する状態でしたが、実験を行っていくにつれ、研究の実態が見えてくるようになりました。実際に行ってみることで、見通しがつかないようなことでも輪郭がつかめてくるのだと分かりました。研究データは正確なものでなくてはいけないため、比較対象などの必要な結果を前もってイメージできるとよいと思いました。卒業してからも何かに取り組む際は、求める結果を得るためのプロセスを立てて、学んだことを生かせるようにしたいです。