卒業研究のご紹介
2020年版

機械・自動車・ロボット系所属学生

ヒト耳小骨モデルの製作および振動特性評価

大金 夏希神奈川県
工学部機械工学科 2020年3月卒業
神奈川県立大船高等学校出身

研究の目的

本研究の最終目的は哺乳類の耳小骨機能の模倣性の獲得です。耳小骨機能とは主に2つ。1つ目は振動の増圧、2つ目はフラットな伝音効率です。耳小骨はこの機能をその特殊な構造を利用し実現しています。そこで3Dプリンタを利用した耳小骨モデルを製作し、加振実験を行います。この実験における耳小骨モデルの振動特性の類似性を共振周波数と各周波数における振幅、波形の変化から考察します。
工学分野では無動力のパッシブ回路として、急変する空気の流れや、コントロールしきれない莫大または微小な振動の制御機構への応用が期待されます。
また、医学分野においても耳小骨機能と構造の関係解明が期待できます。関係解明により先天性耳小骨欠損等の治療や、内耳病変部の検査精度の向上に繋がります。

研究内容や成果等

本研究は「進化」という観点からヒト耳小骨の構造に注目した。

■ 研究目的と指針

本研究の目的は耳小骨機能の模倣性の獲得である。3Dプリンタによる造形、加振実験を行う。第一段階として実際の耳小骨と同じ共振周波数0.8kHzとその前後の振動様式での類似性を目指す。

■ 耳小骨モデル

20倍の耳小骨人体模型を読み込み3Dスキャナで3Dデータを作成した。実際の寸法では出力、測定に難があるため今回は実際の4倍の寸法とした。また、本実験では3つの骨を別個に出力するため、関節部分にボールジョイントを設けた。
ツチ骨柄の先端には振動入力のためのホルダを作成しツチ骨と一体で出力を行った。中耳内壁boxも治具にしっかりと固定可能で、靭帯や骨に合わせ設計を行った。
それぞれの関節、靭帯は2.5号のフロロカーボンラインで固定した。また、そのための穴あけをφ0.5mmで行った。モデルをFig.1に示す。

Fig.1 製作した耳小骨モデル(4倍モデル)

■ 実験結果と考察

実験結果をFig.2に示す。耳小骨モデルは実際の耳小骨と同じ0.8kHz付近に共振周波数を持ち、共振周波数の前後では緩やかな振幅の変化となった。
耳小骨モデルは1.0kHzでアブミ骨頭の振動様式において変化を示した。さらにツチ骨頭の振動様式において振れ回りのピークは1.1kHzとなった。これらアブミ骨頭およびツチ骨頭の振動様式は実際の耳小骨の振動様式と類似している。また、ツチ骨頭は0.8kHz付近でのみ振れ回りを示さなかった。これより共振周波数0.8kHz付近が振動様式の変換点であると考察する。さらに耳小骨モデルの共振周波数は工学分野で扱われる一般的な共振周波数とは異なるものだと推察する。

Fig.2 0.8kHzで共振した実験の結果(Experiment65)

■ 結論

実験により前記した結果から以下の結論を得た。
1)耳小骨モデルは実際の耳小骨と同じ0.8kHzの共振周波数となった。
2)耳小骨モデルは1.0kHz以上の振動様式において実際の耳小骨に似た挙動を示した。
指導教員からのコメント 精密加工研究室准教授 今井 健一郎
このテーマは、4年前に在籍していた修士課程の学生が提案してきたものです。私自身知らないことばかりで、その学生に概要を教えてもらいました。私が実行したことは、学生の報告を聞き、質問や疑問をぶつけて、必要な部材を購入することでした。果たして、学生主体のテーマは、私が放っておいてもどんどん進捗しました。大金君もこのテーマを志願してきた意欲的な学生で、指導教員としてはこんなに楽しいことはありません。まだまだ謎の多いテーマなのです。そもそも、Fig.1に見られるような奇怪な形を、人間が自分の頭で思いつくでしょうか?“自然について謙虚に学ぶことを身につける”、このテーマの最も大切なことだと感じています。
卒業研究学生からの一言 大金 夏希
授業や研究活動の中でロジカルシンキングが身に付きました。授業で理解しにくい箇所が出てきたときは自分がどうして理解できないのかを考え、問題点を明確にした上で友人や先生に質問し理解を深めるように努めました。また、研究活動やグループワークの中で自分の考えを相手に伝える際も一度論理的に分解し説明することで理解されやすく、共通の理解が深まることでグループ内の議論が活発になったり、新たな意見を聞くことができる機会が増えたりしました。