卒業研究のご紹介
2020年版

電気電子系所属学生

大規模災害時における被災者の容体に応じた色別による 適切な避難場所へ誘導する情報管理システムの研究

赤坂 幸亮神奈川県
大学院電気電子工学専攻 博士前期課程 2020年3月修了
(創造工学部ホームエレクトロニクス開発学科 2018年3月卒業)
神奈川県立麻溝台高等学校出身

研究の目的

過去の大規模災害時において、被災者は長期的な避難所生活を強いられるため普段の生活よりもQoL(Quality of Life)が低下し、結果的に身体の健康状態が悪化したという報告がある。特に避難所での長期の生活は要配慮者には困難であり、高血圧・糖尿病・心疾患などの慢性疾患や生活環境の悪化による死亡者(災害後関連死)の増加が心配されている。そこで避難所の情報収集から避難所で生活をする被災者の長期的な健康管理まで行う、被災者情報管理システム(VIMS)プロジェクトを考案し、現在開発を進めている。
今年度の内容として、慢性疾患や感染症の早期治療のためパルスオキシメータによる生体情報の測定・収集が重要であることから、リアルタイムに被災者の生体情報(脈拍数・経皮的動脈血酸素飽和度・体温)の収集かつ健康状態を監視したのち、容体に応じて適切な避難場所へ誘導及び管理を行うシステムについて開発を行った。

研究内容や成果等

■ 提案システムの概要

(1)提案システムの概要
我々はこれまでにICTを用いて被災者情報を収集して名簿作成及び救援ニーズの発信から被災者の健康状態の管理までを一貫して行う被災者情報管理システム(Victims Information Management System:以下VIMSと呼ぶ)の実現を目指し,開発を進めてきた。VIMSには避難所内の被災者情報及び救援ニーズの収集・発信や、被災者の容態に応じた適切な避難場所の選定を行う機能が備わっている。中でも、被災者の容体管理機能であるe-問診表は避難者の健康状態を自己申告による入力を可能とし、被災者の避難場所の誘導を機械的に判断するシステムへと開発を行った。その一方で、e-問診票の運用のみでは被災者の自覚症状のない健康状態まで把握することができず、病状の進行による早期発見及び早期治療を行うのは困難であった。
従って、本システムに被災者の避難者の健康管理に推奨されている脈拍、SpO2、体温といった生体情報を取得する機能を追加した。これにより長期的な避難所生活で被災者の容体悪化(風邪、呼吸器官の機能不全、エコノミー症候群等)を素早くVIMSのサーバ上で検出することで、適切な避難場所へ誘導できるシステムを考案する。
(2)被災者管理ブレスレット
今回開発した被災者管理ブレスレットは、過去に開発した避難場所誘導用フルカラーLED発光リストバンドをベースに生体情報を取得できる機能を追加した。Fig.1に被災者管理ブレスレットの概要を示す。被災者管理ブレスレットは脈拍数とSpO2の両取得タイプと、体温取得タイプの2種類を試作開発した。被災者管理ブレスレットのMCUは2種類とも Arduinoライクで開発できるAT mega328Pを使用し、VIMSとのデータのやり取りにはIEEE802.15.4規格のXBee無線通信モジュールを使用した。
脈波数・SpO2取得にはGOHOU製MAX30100センサモジュールを用いて指先から行う。また色別による避難者の特定の為リング型フルカラーLEDも搭載した。このブレスレットを用いて脈 拍数と SpO2を測定したところ、20〜30秒の計測時間で市販のものと同等の値を検出できることを確認した。
一方、体温情報取得は接触型温度センサモジュールMAX30205を用いて腋窩から取得する。腋窩から取得する理由については、外気の影響を受けやすい体の表面の温度と代謝機能が盛んな内部温度が大きく異なるためである。

Fig.1 Victims management bracelets

■ システムの運用方法

本システムの運用方法をFig.2に表す。避難所入所の際に(1st Check)避難所スタッフが全員に2種類の被災者管理ブレスレットを配布し、被災者全体の管理はVIMSのサーバで行う。被災者の健康状態をスマートフォンなどのブラウザからe-問診票へ入力させた情報と被災者管理ブレスレットで計測した生体情報から、VIMSのサーバで被災者の健康状態を判断し、Table 1により色分けを行う(2nd Check)、VIMSサーバで色分けされた結果は必要に応じて被災者管理ブレスレット上のLEDランプをTable1の色分け区分に基づいて色を点灯表示させ、周囲の避難所スタッフに素早く気づかせることでTable 1に基づいた適切な搬送先及び避難場所への誘導を促す。以降は医師の再診察(3rd Check)や避難物資の配布時など任意のタイミングで生体情報の取得を行い、フィードバックもできるようにした。
また、被災者管理ブレスレットにより脈拍、SpO2、体温の生体情報を取得し、健康状態に問題のある被災者を検出するシステムとした。Table 1に取得するパラメータの判断項目と基準を示す。本システムにおいて生体情報を取得する対象は避難所内で生活をする被災者とする。被災者の対応区分は「問題なし」、「経過観察」、「病院搬送」の3つに分け、脈拍・SpO2・体温の各値から判断する仕組みとした。

Fig.2 Health condition monitoring system for victims

 Table 1 Decision items of biological data and classification colors

■ まとめ

本発表では、避難所の情報収集から避難所で生活をする被災者の長期的な健康管理まで行うことが出来る被災者支援システムの機能の1つとして、被災者一人一人の健康状態(脈拍数、SpO2、体温)をリアルタイムに収集する手法を提案した。加えて被災者の容体に応じて適切な避難場所を選定・誘導する機能を持つ方法についても検討した。
指導教員からのコメント ユビキタスコンピューティングシステム研究室教授 安部 惠一
本研究は企業等と共同で取り組んでいる大規模災害時復興支援システム開発プロジェクトの一部の研究テーマです。赤坂君の研究は災害直後から長期的な避難生活を強いられる被災者の健康状態を常時監視し、被災者の容体に応じて最適な避難場所を選別・誘導するシステムを検討してもらいました。赤坂君は真面目な学生で、日ごろから「社会のために何か貢献したい」という熱い気持ちで真剣に研究に取り組んでくれました。今後は実証実験により本提案システムの有効性の評価や、避難所内でおこる集団感染(インフルエンザやCOVID-19等)の予防及び対策を施したシステムの導入・検討を行っていく必要があります。この研究は引き継き、次の卒業研究の学生に進行してもらう予定です。
修士研究学生からの一言 赤坂 幸亮
研究活動を通じて “期限”に対する意識を強くもつようになりました。限られた時間の中で何が必要か?何があればより良くなるのか?どのような成果をあげられるか?を大切に考え、常に期限を意識しながら計画性をもってシステムの開発や論文の執筆などに取り組むことができました。その結果2019年9月にドイツで開催された国際学会で、学生賞をいただくことができました。発表の準備は本当に大変でしたが、先生の親切丁寧なご指導のおかげで、技術者としてかなり成長することができ、大変貴重な機会に恵まれたと感じております。