卒業研究のご紹介
2021年版

情報系所属学生

磁気誘導ループを用いた避難所生活における音環境整備に関する研究

清水 鯉太郎岩手県
情報学部情報工学科2021年3月卒業
岩手県 花巻東高等学校出身

研究の目的

磁気誘導ループによる音声の伝達には、難聴者だけではなくプライバシー性の確保や静粛性といった音環境の構築のための利点が多い。さまざまな場面で音に対する問題がある。昨今の新型コロナウイルス流行によってマスクを着用しての会話やパーテーションを挟んだ会話など、相手の声が聞こえにくい状況下や、災害発生時における避難所での活用が考えられてきている。これらの活用場面別に実際にどのようにループやアンプ装置を設定するかを検討することを目的とした。

研究内容や成果等

■ 磁気誘導ループ

音声を磁気に変え、電磁誘導によって補聴器や専用の受信機を用いて音声として聞くことができるようになる仕組みを磁気誘導ループという。通常のスピーカを用いた音声の空気伝達では、距離による減衰や反射音などにより聞こえにくい場面が発生しうるが、電磁誘導を用いて補聴器や人工内耳に直接音声が入ることで、物理的な距離を無視できる他、反射音や雑音が入らずにクリアに聞くことができるという特徴がある。

図1 磁気誘導ループにより音を届けるしくみ

■ 実験内容

ループの張り巡らし方や線種による聞こえの変化を測定するため、以下の場面を想定した。
・避難所(テレビ視聴)
ノイズの入り方の検証を目的とした。ループ線を縦横4mと縦5m横6mの2パターン用意した。受信機の高さは立ったとき、椅子に着席したとき、床に座ったときを想定して120㎝、50㎝、0㎝で検証を行った。
・会議室(テーブル)
テーブルの縁に合わせてループ線を張った。受信機の高さは120㎝、70㎝(テーブルの上に受信機を置く場合)、50㎝で検証を行った。
・美術館(絵画・受付)
2本のループを隣合わせに設置した際、音が交わらず聴こえるよう機材の調整が可能かどうか検証をするために検証を行った。受付はパーティション越しの会話を想定し、受付テーブルと来客者が来る位置を囲むようにループを張った。

図2 避難所を想定したテレビ視聴の実験

■ 結果とまとめ

テレビ視聴では、テレビ本体に近いほどノイズがのりやすいため、ループ線を横巻に床に設置するほうが良いことがわかった。会議テーブルでは、受信機をテーブル上に置くことを想定すればアンプの出力は小さめでも問題ないことがわかった。絵画鑑賞を模した実験では、各ループ線の真ん中に立つとしっかり目の前の絵画の説明が聴こえた。2本のループ線の間に立つと両方の音を聞くことができ、複数の音源をミキシングすることが可能であるとともにアンプの出力調整で聞こえの範囲をコントロールすることが可能であることがわかった。
以上のことから、磁気誘導ループの設置に関して様々な設定項目のヒントを得ることができた。
指導教員からのコメント 知的システム工学研究室准教授 須藤 康裕
プログラムを書く、ソフトウェアを開発するという卒業研究が中心の情報工学科ではありますが、今回はちょっと異色の研究テーマにチャレンジしました。近年は異常気象などによる災害がいつ身の回りで起きてもおかしくないため、自治体や避難所に指定されている学校などでは食料や水の備蓄などを行っています。清水さんの収集したデータに基づき、緊急時の備えとして機材を準備したり、専門知識の少ない職員でも施工が可能になったりするわけですが、現在は清水さんの後輩がその知見を活かしたソフトウェアを開発する卒業研究に取り組んでいます。
卒業研究学生からの一言 清水 鯉太郎
これからの時代、情報工学について強くなるとさまざまな場面で活用できると思うので、この4年間で多くのことを学べたことは大きな収穫となりました。今回行った研究は、初めは知らないことばかりでしたが、進めていくうちに今の日本の現状や問題点に気づくことができ、この研究をして良かったと思いました。本学に入って多くの知識を身につけることができ、今後も活かしていきたいと思います。