卒業研究のご紹介
2022年版

電気電子系所属学生

IoTを利用した行動変容型生活改善システムの研究

宇田 悠佑和歌山県
大学院電気電子工学専攻博士前期課程
2022年3月修了
(創造工学部ホームエレクトロニクス開発学部 2020年3月卒業)
和歌山県立粉河高等学校出身

研究の目的

生活リズムが乱れることで、集中力低下や食欲低下に加え生活習慣病が発症する原因とされている。生活リズムを保つには、食事・睡眠・運動を適切に行う必要がある。その中でも睡眠は重要な部分である。疫学研究では、不眠により、耐糖能障害や免疫機能低下など、系統的に身体機能に影響を及ぼし、精神生理機能(鬱病)への影響があり、睡眠障害の早期発見・早期治療と睡眠健康に関する啓発活動が必要である。
現状、日本人の睡眠時間は世界各国と比べ短く、厚生労働省の「国民健康・栄養調査」の報告では、1 日の平均睡眠時間は6時間以上7時間未満の割合が最も高く、6時間未満の者の割合は、約4割を占めている。睡眠時間確保の妨げとして「就寝前の携帯電話、ゲーム」、「仕事」、「育児」が挙げられている。
本研究では、睡眠改善を行うための生活改善システムを開発するため入力部、シナリオ作成部、機器制御部、収集部、評価部、シナリオDBの枠組みを設定し、各枠組みの制作と機器制御シナリオの評価と考察を行った。

研究内容や成果等

■ 関連研究

生活者が快適な睡眠を得るために必要な要素には寝室環境と生体に関する要素が重要である。アメリカ国立衛生研究所が発行する雑誌論文では良質な睡眠のために、様々な項目が挙げられており、その中でも我々は「毎日同じ時間に就寝し、同じ時間に起床すること」に着目した。快適な睡眠環境を構築する研究としては、センサー搭載マットレスを使用し、睡眠状態のデータ計測し、エアコンや照明と連携して環境制御を行う「快眠環境サポートサービス」がある。しかし、快適な睡眠環境を構築しただけでは、長時間のスマホ利用によって生活者が計画している睡眠時刻に就寝行動をしない現象があり実際の効果が出にくいと考えられる。
本研究では、就寝時刻のばらつきを抑えることを目的とし、住宅内にある機器を制御することで、ユーザーに最適な時刻に就寝するといった生活改善システムの実装と評価を行う。

■ 行動変容型生活改善システム

システムの概要図をFig.1に示す。行動変容改善システムでは、入力部、シナリオ作成部、機器制御部、収集部、評価部、シナリオDBに分かれている。入力部ではユーザーが機器登録・スケジュール管理・シナリオの選択を任意で行いシナリオ作成部の変数に代入を行う。シナリオ制作部では、機器の制御を行うためのタイムスケジュールである。シナリオとは3W1H(When、What、Where、How)方式で記述した機器の制御順序を示したものである。例えば機器で照明を使用する場合入力部で指定した就寝時刻に自動でON/OFFや色調の変化を制御し行動変容を助長する。機器制御部では、シナリオ制作部で作成されたシナリオの動作順序通りに制御を行う為に使用する制御モジュールである。家電の制御はRaspberry piでnode-red上にあるシナリオを実行し、住宅内にある家電を制御する。制御にはECHONET Lite規格やjsonを使用した。収集部では、シナリオよる行動変容の評価を行うためFitbitを活用した。Fitbitは腕時計式のウェアラブル機器であり、睡眠時に着用することで起床時間、就寝時刻、心拍数などの睡眠データがcloud(Fitbitダッシュボード)上にデータを蓄積している。Fitbitダッシュボードからpythonを用いて睡眠データをmy SQLのtableに格納を行う。評価部では格納された睡眠データを用いて平均就寝時刻からの前後30分のばらつき率、平均就寝時刻、平均睡眠時間の3つの1週間の睡眠データを用いた睡眠スコアの算出方法を検討した。

  • ばらつき率[S]:1週間分のうちに平均就寝時刻から前後30分以内に含まれている日数を7で割った値
  • 就寝指数[T]:1週間の平均就寝時刻が、良い睡眠とされる22~24時を最大値1とし、その前後をTable1のように定めた値
  • 睡眠指数[H]:1週間の平均睡眠時間が、良い睡眠とされる7~8時間を最大値1とし、その前後をTable2のように定めた値
上記3つの値を用いて睡眠スコアを算出する。点数配分について今回は、ばらつき率60点、平均就寝時刻20点、平均睡眠時間20点の100点満点とした。その睡眠スコアの計算式を下記に示す。
  睡眠スコア= ばらつき率[S] ×60点+就寝指数[T] ×20点+睡眠指数[H] ×20点

Fig.1 Diagram of the behavior change type life improvement system

Table 1 Average bedtime index

Table 2 Average sleep time index
睡眠スコアはpythonを用いて計算を行いシナリオDBに格納する。格納されたシナリオDBの画面をFig.2に示す。シナリオDBでは、算出された睡眠スコアを元にシナリオの重み付けを行うことでユーザーに合ったシナリオを発見する。

Fig.2 Screenshot of Scenario DB

■ 実証実験

(1)実住宅における実証実験

生活改善システムの一部を活用し、機器制御シナリオの有効性を評価するために、アンビエント照明Hueを活用したシナリオ1とシナリオ1にAIスピーカーを加えたシナリオ2を作成した。また平常時との比較を行うため機器を動作させないシナリオ0を用意した。被験者数は2名で期間は1つのシナリオで各2週間で実施を行った。

(2)実験結果

シナリオごとの睡眠スコアの結果をTable.3に示す。シナリオ0の場合とシナリオ1の場合では大きな差はなく、行動変容を促すことはできなかった。しかしシナリオ2では、点数向上が見られ、就寝時刻のばらつきを抑えられた。またばらつき率[S]、就寝指数[H]、睡眠指数[T]について、HとTはシナリオ0、シナリオ1、シナリオ2全てのシナリオで大きな差はなく、行動変容を促すことはできなかった。しかしSでは、 シナリオ0 の22点、シナリオ1の21点と比べ、シナリオ2の場合は32点と10点以上の点数向上が見られ、就寝時刻のばらつきを抑えられた。

Table 3 Sleep score results

■ まとめ・今後の展望

本研究では、生活改善システムの構築と機器制御シナリオの有効性について示した。IoT機器を用いた行動変容は一定の効果があった。今後は機器を増やし複数のシナリオを用意し比較・考察を行う。睡眠スコアについては、配点について再度検討したい。また睡眠データが不十分なので、被験者をさらに増やしシナリオの評価・考察を行う。
指導教員からのコメント IoTスマートライフ研究室教授 一色 正男
本研究は、彼が3年間かけて実施したものです。学生らしい「夜遅くまで起きてしまうので、朝起きられない」という身近な課題解決を研究主眼にしました。学生の興味ある課題を研究することは、研究へのモチベーションになると考え、一緒に開始しました。もちろん、将来、IOT化したスマートハウスの機能として提供できるようにしたら素晴らしいとの期待も込めて進めてもらいました。
地道に、学生の朝起きれない理由を調べ、朝起こすためには「睡眠時間を確保できる時間に寝かす」ことが必要であることが明確化できました。そこで、改善手法を実装した住宅に学生に住んでもらい実験。起床時の改善効果を測定し、一定の可能性がある手法を見出してくれました。
研究を通して、考えること、試すこと、考察して改善することを、学び、身につけてくれたと思います。経験を活かし社会で活躍してほしいと願っています。
修士研究学生からの一言 宇田 悠佑

研究活動を振り返り成長したこと

研究活動を通して大学内ではなく企業の方々と連携し研究を進めてきました。社会と関わることでより深い知識や俯瞰的な意見など貴重な体験ができました。そのため社会人としての在り方や基礎力などが身につきました。

未来の卒研生(高校生)へのメッセージ

研究を行っていく中で困難があります。自分一人で解決しようとはせず、教授や友人・先輩に相談してみることで解決の糸口が見つかります。また、様々なことに恐れず挑戦してください。研究だけではなく次のステップでも必ず無駄になることのない経験になります。