卒業研究のご紹介
2022年版

情報系所属学生

迷っている商品の情報を提供するスマートシェルフ

冨田 悠介神奈川県
情報学部情報工学科
2022年3月卒業
神奈川県 柏木学園高等学校出身

研究の目的

新型コロナウイルス感染症対策のため、小売店では非接触での売り込みを行わなければならない。そのため、多くの制限がある中で従業員は顧客が迷っている時など特定の時に限り接客を行っている。迷いの正確な判断は人力では難しいためIT技術を用いているところが多い。しかし、商品説明の際など従業員の接客が必要である場面は多く接触を避けることは困難である。本研究ではこの問題を解決するべく、RFID技術などを利用した消費者のリアルタイムでの迷い判別と効果的なプロモーションを行うことにより消費者の商品に関する迷いの解決を支援するシステムの開発を目的とする。

研究内容や成果等

■ 提案手法

現在実用されているシステムの問題点として、商品単位でリアルタイムかつ正確な迷いの判別がされていないこと、そして従業員から対面で接客を行う必要があることなどが存在する。そこで、今回制作するスマートシェルフでは商品一つ一つにRFIDタグを貼り付けることで商品ごとに迷いを判断する。そして、迷っていると判断している商品の情報をデジタルサイネージを用いて提示することで非対面での顧客の商品購買行動の支援を行う。
アプリケーションは複数に分割し、複雑な処理を同時に行うことで素早くかつ効率よく処理が行えると考える。その処理の中で実行される迷い判別ロジックは、先行研究にて時間での判別に有意差があったことから時間を用いるリアルタイムでの判別を行う。迷い判別には探索秒数と判断秒数を設定し、探索秒数の範囲内で商品が判断秒数以上持たれたかにより判断する。探索秒数を10秒、判断秒数を5秒とした時の例を図1に示す。なお、今回は先行研究の結果を踏まえ探索時間の3割の時間を持ち続けた際に迷っていると判断する。

図1 迷い判別ロジックの仕組み
画面表示では迷っている商品を比較できるように、最大4商品まで同時に表示できるように設計する。ディスプレイでは商品パッケージや内容物の画像、商品名、価格、商品の説明やアピールポイントを表示する。画面表示の様子を図2(a)に、組み立てたスマートシェルフを図2(b)に示す。

図2 設計したスマートシェルフ

■ 評価実験

評価実験概要

評価実験は神奈川工科大学の学生28名を対象として実施した。画面表示の効果を確かめるために画面表示あり15名、画面表示なし13名でグループ分けを行う。実験の手順としては、スマートシェルフ上に置かれた6つの商品から1つを選んでもらい、後に迷い判別精度と商品情報提示の評価のためアンケートに回答してもらう。今回想定している仮説と評価方法を表1に示す。今回は迷い検出ロジックに用いる探索秒数を15秒、判断秒数を5秒に設定した。

表1 仮説と評価方法

実験結果

手法1:迷い検出システムの精度
プログラムが判断した迷いとアンケートの回答結果を商品別に比較評価した。結果のグラフを図 3(a)に示す。商品2は同数の結果であり、その他も差が少ないことから精度の高さが伺える。
手法2:商品情報提示の効果
商品情報を提示した場合にその商品を選択したかしていないかを比較したグラフを図3(b)に示す。迷っていると判断された商品を選ぶ被験者が多い結果となった。
手法3:商品情報の画面表示による満足度
事後アンケートにて商品情報提示が迷い解決の役に立ったかどうかという質問に対する回答結果を図 3(c)に示す。「参考になる」または「少し参考になる」と答えた被験者が全体の80%であった。

図3 実験結果

■ 考察

手法1について、商品選択時間が短い人がいた中アンケート回答とシステム判別の差が小さいことから精度の高さが伺える。この差を縮めるには商品単位または環境別で迷い判別基準を見直す必要があると考える。
手法2について、画面表示された商品を選ぶ人が4分の3に近いことから迷ったときに商品情報を提示することで商品選択の手助けになっていることが分かる。表示された商品を選ばなかった人はリピート買いやパッケージのインパクトで選んでいる可能性が高いと考える。パッケージの主張が少ない商品や新商品などに用いると商品情報提示の効果は高まると考える。
手法3について、情報提示は参考になると回答した人がほとんどであった。また、商品選択時に欲しい情報について聞いたところ、口コミ情報やおすすめ商品の情報などが挙げられた。表示内容について、求める情報は人それぞれであるため今後も検討を行う必要がある。

■ おわりに

本論文ではリアルタイムでの迷い判別と商品情報提示により迷い解決を手助けするシステムの開発を目的とし、RFIDなどを用いて商品単位でも迷い判別を行った。評価実験の結果として、判別精度は高く、情報提示により7割ほどの被験者に商品選択への影響を与えたことから情報提示により迷い解決の手助けができた。今後の課題として、検出精度の向上とプログラムの負荷軽減、RFIDシステム以外での迷い検出方法の模索等が挙げられる。
指導教員からのコメント 経営システム工学研究室教授 稲葉 達也
情報技術を活用することで、これまでにない新しい日常生活の体験や、新しい仕事のやり方が可能になっています。冨田さんが取り組んだ研究のように、情報技術の新しい応用例を考えていくのも情報工学科の卒業研究の一つです。このテーマは研究室の先輩方も取り組んできたテーマなのですが、冨田さんが素晴らしかったのは、システムを設計し、そのシステムを完成させたことだけでなく、そのシステムが狙い通りに機能していることの評価を、論理的に考えて実験方法を決め、実験を行い、データを取りまとめ、その効果を示したことです。卒業研究では、それまで学んだソフトウェアの開発を実践的に行うだけでなく、その目的から評価までを論理的に考え、実践することができます。このような経験は、学生の皆さんが社会に出てからも役に立つものとなるでしょう。
卒業研究学生からの一言 冨田 悠介

研究活動を振り返り成長したこと

私が成長を感じたのは、文章構成や発表能力などの社会人としてのスキルです。卒業研究では約30枚の論文を作成し発表します。そのため、論文作成では文章の書き方や構成を定める能力、発表では人前での話し方や所作を学ぶことができたと感じています。また、研究内容によっては特殊な機器に触れるため、専門的知識を得られる貴重な場になると思います。

未来の卒研生(高校生)へのメッセージ

卒業研究は社会人としての生活や常識を得られる稀有な機会です。そして、失敗が許される最後の機会でもあります。ですから、失敗を恐れず様々なことに積極的に挑戦してみてください。きっと貴重な経験になると思います。