卒業研究のご紹介
2021年版

機械・自動車・ロボット系所属学生

動体視力のトレーニングによる野球のバッティングの向上

二見 大祐神奈川県
工学部機械工学科機械工学コース2021年3月卒業
神奈川県立平塚湘風高等学校出身

研究の目的

近年、少年野球・中学野球・高校野球において速球を投げる選手が増えていることから、速球に対応するバッティング能力育成が必要になり、一つの方法として動体視力を鍛えることが有効であると言われている。両者の関係を検証するため、動体視力のみを鍛えることによってバッティング能力の向上が見られるかを研究することにした(図1)。
本研究では、ストロボ効果により視界を一定遮断することで動体視力の向上が見込める眼鏡型の機器、ビジョナップ®に注目した。ボールが見づらくなり捕球しづらくなるビジョナップ®を着用したキャッチボールを一定期間行い、その前後のバッティング能力の変化を確かめることとした。
本研究は、今後教員になってから部活動指導の場面で役立てたいと考え構想した。本研究を土台に、野球のバッティング能力以外のトレーニング開発や他の球技の能力の向上にもつなぐことができるのではないかと思い、研究テーマを決定した。

図1 パフォーマンスを左右する要因

研究内容や成果等

■ 「動体視力のトレーニングによるバッティング能力向上実験」の構成

はじめにバッティング能力測定〔A〕を2回行い、2回目終了後に、バッティング能力測定後アンケート〔A〕を行う。その後、動体視力向上トレーニングを始める。トレーニング期間終了後バッティング能力測定〔B〕を2回行い、2回目終了後にバッティング能力測定後アンケート〔B〕を行う。被験者は、野球経験のある「大学生」・現役野球部の「高校生」とし同じ流れで行う。高校生は部活動の都合上、バッティング能力測定〔A〕・バッティング能力測定〔B〕は2回ではなく1回とした(図2)。

図2 実験の構成
(1)動体視力向上トレーニング
キャッチボールを行う。10mぐらいからはじめ、徐々に離れて、20m離れたらビジョナップ®を着用し、15分間キャッチボールを行う。これらを週3回(1回15分間)、計6週間行う。
マウンドからホームまでの距離が18.44mであるため、20mに設定。ビジョナップ®によるトレーニング効果を得るために、週3回、1回15分のキャッチボールを3か月行うことを開発者が推奨しているが、研究期間の事情により、上記期間を定めた。
(2)バッティング能力測定
バッティング能力測定では、1回の打席で25球打つ。それを1球ごとにヒット性の当たりがどうかを質的に評価する。これを1日以上の間隔を空けて2日間行う。球速は、変化を見やすくするために130㎞で統一をする。バッティング能力測定〔A〕と〔B〕は同じ内容である。

図3 測定の基準ライン1,2

図4 ビジョナップ®

■ 結果と分析

「動体視力トレーニングによるバッティング能力向上実験」を行い、その結果およびアンケートの回答をまとめてデータ化した。バッティング能力測定〔A〕と〔B〕の結果を比較すると、大学生・高校生ともにバッティング能力の向上が見られた。参考として実施した動体視力の測定ゲームでも良い変化が見られた。アンケート結果では良い感想もあれば悪い感想もあった。
ビジョナップ®を着用してのトレーニングには一定の効果があった。

■ 結論

動体視力トレーニングによってバッティング測定結果の向上が、個人差はあるが多くの被験者で見られた。アンケート結果からも、ボールを「見やすくなった」、「とらえやすくなった」、「遅く感じるようになった」などの感想があり、被験者自身もバッティング能力の向上を実感できている。そのためバッティング能力を高めるためにスポーツビジョンに注目することは重要であると考える。
しかし、正確な能力を示す数値としては根拠を示すことができなかった。

■ おわりに

動体視力を含む、スポーツビジョンを鍛えるトレーニングを行うことによって、バッティング能力の向上に繋がる可能性を実験結果から示すことができた。
今後は、動体視力の正確な測定が可能な機器を用いて、トレーニングの成果を測定できるようにすることが必要である。学校の部活動など広くスポーツ指導の現場で容易に使用できるような動体視力の測定器を開発することは今後必要になってくると思われる。
筆者の今後の目標は、スポーツビジョンを鍛えることによってスポーツ技術が上達することがある程度分かってきたので、教師になった時に、生徒のスポーツビジョンを鍛えることができるような、簡単にどこでも行えるようなトレーニング方法を引き続き開発していきたい。
指導教員からのコメント 准教授 田辺 基子 (教職教育センター専任教員)
長く続けてきた野球競技を、指導する側の視点から研究したいということで、テーマや検証方法を相談しながら教育実習との両立を頑張りました。技術が高度化する中、必ずしも競技経験があるとは限らない部活動指導者にとって有効なトレーニング方法は何か?を、学科で学んだ工学的視点や先輩たちの研究成果も活かして探求しました。「動体視力」トレーニングとバッティングの向上の関連を検証する難しさやコロナ禍での実験の制約など、苦労がある中、工夫して努力を続けた経験は、今後の数学教師としての授業づくりや教材研究にも活かされると期待しています。
卒業研究学生からの一言 二見 大祐
数学教員を目指すことで、機械工学科の授業から多くを学んだ。単純に数学の科目だけでなく、四力学の中で数学がどこに使われているかを実践的に学べた。これを活かし、今後数学を教える際に生徒の理解度を深められる指導を工夫していきたい。
本研究では、他の要素も除外できないことから動体視力のみが要因だと断定はできないが、ビジョナップ®を着用したトレーニングによってバッティング能力の向上が見込めること、バッティング能力の向上にはスポーツ指導が重要なことを明らかにできた。どのようなトレーニングをすると1番良い効果が得られるのかを考察することを通して、スポーツ指導について深く知ることができた。