卒業研究のご紹介
2022年版

情報系所属学生

「モジプラスタンプ」の制作~スタンプのメタファーを利用した言葉遊びコンテンツ~

八木 颯介静岡県
情報学部情報メディア学科
2022年3月卒業
静岡県立島田工業高等学校出身

研究の目的

幼児期における教育は人格形成の基礎を培う重要なものである。しかし近年では地域社会の教育力の低下や子育てに対しストレスを感じてしまうことが原因で、幼児の意欲関心の低下や集中力・自制心の低下が課題となっている。本制作では、幼稚園における教育課程の基準を定めた「幼稚園教育要領」の内「ことば」の要素に着眼して、スタンプのメタファーを利用した言葉遊びコンテンツとしてインタラクティブ作品「モジプラスタンプ」を制作する。

研究内容や成果等

■ 画面コンテンツの制作

本制作では、スタンプのメタファーを利用した言葉遊びコンテンツとして「モジプラスタンプ」を制作した。本作品は単語の先頭、中央、末尾のいずれかに1つ文字を加え、新たに単語を生み出すパズルである。本制作は3~7歳のお子さんを対象に、言葉の楽しさや美しさに気付くこと、いろいろな体験を通じてイメージや言葉を豊かにすることなどの、幼稚園教育要領『言葉』の要素の育成に寄与することを狙いとしている。制作した画面コンテンツのプレイ画像を図1に示す。
本制作では画面コンテンツの制作にUnity Technologiesが開発したゲームエンジン「Unity」を使用した。画面には変化前キャラクタが3体登場し、そのキャラクタ名に文字を加えて変身させていく。
本ゲームのルールは画面上部に現在設定されている部位、残り時間、得点が表示されており、残り時間が無くなるまでに画面に出てくるキャラクタを多く変身させることを目的としている。キャラクタは画面上段、中段、下段から1体ずつ、計3体が同時に画面内におり、1体を変身させると。同じ段の左右どちらかから新しく変化前のキャラクタが登場する仕様になっている。

図1:プレイ画像

■ デバイスの制作

また、コンテンツを操作するインターフェースとして、スタンプ型デバイスを制作した。制作したデバイスを図2に示す。デバイス上部には現在読み込まれている文字と文字を追加する部位を表示するためにM5Stack製のディスプレイ付き小型マイコンモジュール「M5Stack」を設置、デバイス下部にはスタンプ押下の取得、文字の読み取りのためにSunFounder製の近距離無線通信RFIDを用いたカードリーダー「MFRC522」を設置している。
本システムで使用するデバイスはオートデスク株式会社製の3Dモデリングソフト「Maya」を使用してモデリングを行った。デバイスの全長は縦10cm、横10cm、高さ15cmで作られている。製作したモデルデータはAPPLE TREE株式会社製の3Dプリンタ「Creator Pro」を使用して印刷している。
デバイス上の左右のボタンを押すと読み込まれている文字の母音(あ、い、う、え、お)の変化。中央のボタンを押すと文字を加える部位(頭、体、尻)の変化。文字カードにデバイス下部に設置されているRFIDリーダをかざすことによって子音(あ、か、さ、た、な……)の設定ができる。
座標パネルにデバイス下部に設置されているRFIDリーダをかざすことによってスタンプが押下された座標を取得できる。座標パネルの画像を図3に示す。座標パネルには90個近くのNFCカードを貼付してあり、パネル中のどの位置でもスタンプ押下を検出できるようにしてある。ソフトウェア側に送信する座標はパネルを幾つかの区間で区切り、その区間内のカードは同じ座標として扱っている。例えばパネルサイズが5×3の座標サイズであった場合、左上を原点とし、左上にある複数のNFCカードを(0、0)座標として取り扱っている。

図2:スタンプ型デバイス

図3:座標パネル

■ 作品の評価

福岡市科学館の協力のもと短期間のモジプラスタンプの展示を実施し、体験者の様子を見て本作品の評価を行った。作品をプレイする様子を図4に示す。
体験の様子では、両親や兄弟とともにプレイする様子が見られた。このことについて、協力やサポートがあ ることでスムーズに新たな言葉をひらめくことができる反面、1人でプレイする際はルールの理解が難しいとい う課題も見られた。
体験者によっては複数回プレイする者も見られたが、制限時間が余っているにもかかわらずゲームを放 棄してしまう体験者も見られた。このことから、現在のゲーム内容では万人受けが難しいことや、次の体験 者が来た際に、前の体験者のプレイの途中から始まってしまうため、初めて触る人にはゲーム内容が分からないという課題も見られた。
デバイスの面では重心が上にあるため落としてしまい、3Dプリンタで制作したデバイス、上部に設置して いるM5StackのLCDが壊れてしまうことが多々あった。この原因としてデバイスのパーツをつなぐジョイント部分の強度が弱いことや、デバイスを落とした際にM5Stackに直接衝撃が伝わってしまうことが考えられる ため、対策としてジョイント部を金属にすることや、M5Stackに直接衝撃が伝わらない設計にすることが考 えられる。
キャラクタの変身については、制作にモバイル版『広辞苑』を参考にしたが、「ルパン」のように参考にした辞書に掲載されていない言葉も存在したため、今後も変化形の辞書の拡張が必要である。
また、細かい部分では、チュートリアルを読まれないこと、イラストでなく名前の部分にスタンプを打ってし まう事、スタンプの面を打つのではなく、1部分でも画面に触れれば反応すると思われてしまっていること、 変身させられなかったときの画面からのインタラクションが弱いことが見られた。総じて、説明が不親切であることが原因であるため、今後の課題としていきたい。

図4:作品プレイの様子

■ むすび

本制作ではチュートリアルやスタンプ型デバイスを使い、わかりやすくゲーム内容を伝えることを心がけたが、実際はチュートリアルを読まれないことや、デバイスの面を押されないことなど、自分が想定していた遊ばれ方とは大きく相違があったことがわかった。
今後の展望として、現時点ではわかりやすさと安全性に欠けるシステムであるため、わかりやすさの面では文章を読ませるというチュートリアルを廃止し、インタラクションをより細かく設定していく案が挙げられる。安全性の面ではジョイント部に金属を仕組むことやLCDへの衝撃を減らすことが考えられる。
指導教員からのコメント インタラクションデザイン研究室准教授 鈴木 浩
本作品は八木さんが大学3年生のときから継続的に取り組んできた作品です。
コンテンツデザインだけでなく、プログラミング、デバイスプログラミング、デバイスデザインなど、広いコンテンツ制作技術を学べる情報メディア学科の特徴を表した作品となっています。
開発当初は、ターゲットとする児童が楽しめる作品とは言い難い内容でしたが、様々な努力を積み重ね、卒業時には、とても面白く、学会やコンテストで受賞するほどの作品となりました。
しかしながら、実験として実施した科学館での展示では、デバイスの強度やナビゲーションの問題など研究室内ではわからなかった様々な課題が見つかっています。成果物を実際に社会に投入し、評価を得ることで、とても価値のある経験を得ることができました。
本作品は、科学館での常設展示を目指して現在も本研究室で開発を継続しています。
八木さんの制作活動で得られた成果や課題を受け継ぎ、完成度の高いコンテンツにしていきたいと思っています。
卒業研究学生からの一言 八木 颯介

研究活動を振り返り成長したこと

デバイスの制作、ゲームシステムの制作など様々なことに取り組んだため、広い分野で専門的な知識が身につきました。また、授業ではゲーム制作の基礎を学ぶことができますが、より専門的な技術は自分で学習する必要があります。そういった意味で、自ら進んで学習する力が身につきました。自分の好きな分野だったので、楽しみながら学習をすることができました。

未来の卒研生(高校生)へのメッセージ

本学、本学科はCG、音楽、ゲームなど、専門的な技術の教育体制があります。しかし、クリエイティブな職業は門が狭く、周りと同じことをしているだけではその夢をつかむことは難しいです。4年間の大学生活、時間はたっぷりありますので自分のやりたいことを突き詰めるために頑張ってください!