卒業研究のご紹介
2021年版

機械・自動車・ロボット系所属学生

共同3Dプリンターによる理想的なマスクの作成

岩堀 颯斗(代表者)神奈川県
工学部機械工学科機械工学コース
2021年3月卒業
神奈川県立神奈川総合高等学校出身
大沼 拓嗣東京都
工学部機械工学科機械工学コース
2021年3月卒業
東京都立総合工科高等学校出身

研究の目的

昨今、新型コロナウイルス感染防止のためにマスクを着けざるを得ない状況となりました。しかし、マスク需要の高まりとともに、生産の落ち込みや買い占め・転売の横行などにより入手困難な状況が続いておりました。そこで、コロナ禍を乗り越える一助となることを期待し、フィルターを交換することで再利用が可能な、3Dプリンターを用いたプラスチック製マスクの設計を思い立ち、これを研究テーマとしました。具体的には、マスクとしての機能を果たしつつ、従来の使い捨てマスクにあった問題点(フィルター外からの呼気の漏れや顔への張り付き)の解決を目標としました。

研究内容や成果等

■ 3Dプリンターによるマスクの作成

図1にマスク作成の手順を示す。元データとして、イグアス社がインターネットで公開してくださったマスクのSTLデータを使用。マスクの前方に1.5mmほど間を開けて同形のマスクを配置し、鼻側に接続のための帯を設けた。この帯は上方に排気が漏れないためのガードとなり、眼鏡の曇りを防止する。前方のマスクと接続帯はフィルター保持に必要な部分を残してカットし、フィルターは本体マスクの外側の前方マスクとの隙間に挿入する。
本体マスクの内側と顔の接触部分にエプトシーラーをパッキンとして用いて、マスク内部を密閉空間とすることで、空気の出入りはマスク前方のフィルターを通して行われるようにした。パッキンとしてエプトシーラーを用いるにあたっては、様々なシール材を試した結果、皮膚が痒くならず密閉性が高いという条件を満たしたため採用した。
顔への装着方法は上下2つの穴を用いてゴム紐で耳に掛けるだけではなく、左右の上の穴を用いて、頭の後ろを耳の下側を通って一周するゴム紐により顔とマスクの密着性を高め、耳への荷重負担を減らしている。

図1 Mask creation by 3D printer

■ 実地テスト

筆者は毎日開発マスクを着用し、サイクリングやハイキングを行っているが、市販のマスク着用時のような、眼鏡の曇り、息苦しさ、皮膚の痒みはなく、開発の目的は果たされている。フィルターは毎日換え、マスク本体は漂白剤と洗剤を使い洗濯機で洗いながら使用している。

■ 吸入抵抗

図2に示すマネキンをインターネットで公開されているSTLファイルを加工して作成した。マネキンには鼻から2本、口から1本の直径10mmの穴が背面まで開けられている。その中を内径2mm外径3mmの真鍮パイプ3本が鼻先、口先まで通っており、全圧管として使用する。マスクならびにマネキンはPLAを材料とし、400×400×500mmの加工が可能なBOISUNS社製3DプリンターLK1Plusを用いて作成した。

図2 Mannequin created by 3D printer used for mask resistance measurement
図3(省略)にマスクの圧力抵抗計測時の装置全体図を示す。水槽の水面はオーバーフロー機構により高さが一定に保たれている。マネキン背面の鼻や口からの穴に約2mのフレキシブルパイプをつなぎ、その先に長さ約700mm、外径10mm、内径8mmのステンレスパイプをつないだ。掃除機を用いて、スライダックで吸引力をコントロールしながら、ステンレスパイプの先端を吸引し、先端の静圧を後に流量計測で用いる円筒上部に接続して計測し、鼻や口の全圧管の圧力を本研究室で開発した1/100mmAq単位で計測できる微圧計で計測した。
図4に流量計測の場合の配置と創作マスクを装着したマネキンを示す。内径110mm長さ800mmのアクリル円筒容器を逆さにして立てて、ステンレスパイプをアクリル容器上端から漏れなく挿入して、ステンレスパイプ先端の水面からの高さHを調節する。フレキシブルパイプならびにステンレスパイプは図4と同じものを使用した。真空ポンプで吸引してアクリル容器に水を満たし、ステンレスパイプ根元のバルブを開けると、鼻あるいは口から空気が吸引され、アクリル容器にステンレスパイプ先端から空気が満たされていく。バルブを開いてから、ステンレスパイプ先端まで空気が満たされるまでの時間を計測する。その間ステンレスパイプ先端の圧力は-HmmAqに保たれており、先の実験の静圧計測時の流量を計測できる。
鼻先、口先の全圧管で計測される負圧が、マスクによる圧力損失を表している。図5に実験結果を示す。横軸に流量Q
[ℓ/s]の二乗をとり、縦軸にマスクによる圧力損失をとった。マスクの吸入抵抗は流量の二乗に比例していることがわかる。人の呼吸の平均値は約0.5ℓ/sであるので、計測範囲は十分その範囲をカバーしている。
開発マスクに市販のマスク用フィルターを付けた場合が最も吸入抵抗が小さく、キッチンペーパー一重、二重の順に吸入抵抗が増える。市販の3層マスク、水フィルターマスク、KN95マスクは開発マスクより、吸入抵抗が大きい。開発マスクの吸入抵抗が小さいのは、フィルターが鼻や口に密着せず、フィルター全体から空気が出入りするからと考えられる。

図4 Outline of experimental equipment for flow rate measurement and mannequin wearing a creative mask

図5 Comparison of pressure loss of various masks

■ 結言

インターネットに公開されているマスクのSTLデータを元に、これを改良して
1)眼鏡が曇らない 2)皮膚が痒くならない 3)強く息を吸っても、フィルターが鼻の穴にくっついて、通気面積が減って、吸入抵抗が増えることがない 4)フィルターを通さない空気の流入,流出がない
の条件を満たすマスクを開発することができた。
吸入抵抗を計測した結果、市販のマスクよりも小さな値となった。
卒業研究学生からの一言 岩堀 颯斗
研究活動を通して、習った専門知識を真に学ぶことができました。流体力学の授業に面白さを感じていたため、同分野の研究室に入りました。実際に研究活動が始まると、習ったことだけでなく応用した考え方も要求されるため、新しいことを学びながらの活動となり、とても苦労しました。しかし、実践の場で、学んだことを実際に使って取り組むことで、経験と紐づけて深く知識を得ることができました。学んだことを実践し、知識を基に自分で考え、応用していく。この一連の活動で論理的に考えていく力を培い、成長できたと感じました。