卒業研究のご紹介
2020年版

情報系所属学生

室内アラーム音源識別性能向上のための雑音除去の検討

橋爪 裕貴神奈川県
情報学部情報工学科 2020年3月卒業
神奈川県立城山高等学校出身

研究の目的

火災警報器やガス漏れ警報器など、室内には危険を知らせる警報器が多々ある。これらのほとんどが音を使用して危険を通知する。そのため耳が不自由な人や耳が遠くなってしまった人は、警報器による危険の通知に気が付かない可能性がある。当研究室では、人工知能を用いて、アラーム音源の識別を行い、アラーム音の発生とその種類を対象者のスマホなどの端末に通知するシステム(図1)の検討を行ってきた。本研究では、このシステムの人工知能によるアラーム音源の識別の精度を向上させるために、スペクトラルサブトラクション法(SS法)とDenoising Autoencoder(DAE)の2つのノイズ除去手法を適用した後に識別を行い精度の向上を図った。

図1 サービスシステムイメージ

研究内容や成果等

■ SS法とDAEによるノイズ除去実験

4種のアラーム音と3種のノイズの録音を行い、アラーム音にノイズを重畳させたデータを作成する。ノイズを重畳する際にSN比を変化させるためノイズの強さを5パターンに変えた。それらのデータに対して、SS法はFFTのサンプル数とサブトラクション係数を変えて適用し、DAEは中間層の層数と活性化関数を変えて学習済みモデルを作成し適用した。ノイズ除去適用前後で比較しノイズ除去の効果の確認と最適なパラメータの検討を行った。火災報知器の音に対するノイズ除去前後の結果を図2に示す。両手法もノイズを除去できることを確認した。

図2 ノイズ除去結果

■ ノイズ除去前後の識別実験

実験用に、アラーム4種と環境音の計5種の音源を識別できる識別器を作成した。様々なSN比のノイズ重畳アラーム音の識別を、ノイズ除去適用前後で行い、ノイズ除去による識別精度の変化を確認した。識別の結果を図3、4に示す。SS法適用後は識別精度が向上したが、DAE適用後は全体的に識別精度が低下した。

図3 ノイズ除去なし識別結果

図4 ノイズ除去あり識別結果

■ まとめ

SS法はサブトラクション係数が2の時、DAEは活性化関数がReluの時、最も効果的にノイズ除去を行うことができた。識別性能として、SS法を適用したのちに識別を行った時は精度が向上したが、DAEを適用したのちに識別を行ったときは精度が低下した。SS法適用後では識別精度が向上したため、ノイズ除去がアラーム音源識別の際のノイズの影響を軽減するのに有効であることを確認できた。
指導教員からのコメント 情報通信研究室教授 田中 博
我々の研究室では、従来から音を用いた屋内での位置検出の研究を行ってきました。マイクセンサの新たな応用を検討していました。本学が主催しているIT夢コンテストにおいて室内で発生している危険な音を検知して耳の遠いお年寄りに別の手段でお知らせする、というシステムのアイデアがあり、その学校の協力を得て構想を固めました。実際の利用では、室内には雑音というべき様々な音が生じています。その雑音を取り除くことで、危険な音の識別精度の向上を実現する、というものです。
乗り物や雑踏の中でのアナウンスの聞き取りや、耳の聞こえが悪くなった人に車の接近を知らせるなど、多様な応用が期待できる技術であり、実応用を想定してさらに精度の高い手法の検討に取り組んでいます。
卒業研究学生からの一言 橋爪 裕貴
私は、普通科の高校を卒業して、本学の情報工学科に入学しました。そのため入学時は情報系の知識などはほとんどありませんでした。しかし、1年目の授業は基礎的なことから始めるため、私でもついていくことができ安心して知識を習得することができました。2、3年次で徐々に専門的な知識を身につけ、4年次になると研究室に配属され卒業研究に着手します。研究室では学会発表を経験しました。学会で発表するための準備を通して、物事を論理的に考える力を身につけることができたと思います。また卒業研究では、実際に自分で人工知能を使ったり調整するなど、より専門的な知識も身につけることができました。