卒業研究のご紹介
2021年版

機械・自動車・ロボット系所属学生

ボンネットバスの文化的価値に関する検討
−豊後高田市におけるいすゞBX141型バスの活用に関する調査−

近藤 鼓太朗東京都
創造工学部自動車システム開発工学科2021年3月卒業
東京都 京華学園京華高等学校出身

研究の目的

現在、路線バスとして走っているのは主に箱型のバスですが、昭和30年頃まではボンネットバスが主流となっていました。そのボンネット型がなぜ消滅したのか、いろいろな方面から見ると価値がとても高いと思われるボンネットバスは、箱型のバスが生まれる前から存在しています。人間の社会や文化に影響を与えてきた機械に焦点を当てて、その技術的や文化的、あるいは教育的価値について議論すると共に、そうした遺産の展望について本論文では議論します。

研究内容や成果等

■ ボンネットバスの来歴とレストア

いすゞBX141型ボンネットバスは平成18年頃までの約37年間、秋田県大仙市内に放置されていた。
翌年、豊後高田市観光協会豊後高田市観光まちづくり株式会社が譲り受けレストアを福山自動車時計博物館が行い、平成21年には法定整備が完了。レストアについてはエンジンの換装を初めとし、20項目の整備が行われた。整備前をFig.1、整備後をFig.2に示す。

Fig.1 Tattered BX141 type cab-behind-engine bus

Fig.2 Repared BX141 type cab-behind-engine bus

■ 豊後高田市に存在する昭和の町とは

大分県豊後高田市には8つの商店街があり、昭和30年代には物流が盛んで鉄道が完成するほど商店街が繁盛していたが、昭和40年の車社会化を原因とし鉄道廃線が決定すると、急速に人口流出が進み過疎化し「犬猫商店街」と呼ばれるようになった。かつての賑わいを取り戻そうと、最も活気のあった昭和30年をテーマとするランドマーク「昭和の町」事業を発足させる。その後ボンネットバスを昭和の象徴とした町おこしが開始した。平成16年には25万人の観光客が訪れ、91億円の経済波及効果があった。広辞苑による町おこしの定義と照らし合わせると、同市における町おこしは成功事例に当てはまるといえる。

■ ボンネットバスを利用した町おこし計画とは

法的規制の適応からその姿を消すことと共に消滅しつつあるボンネットバスを観光に利用した例は他にも存在し、埼玉県川越市では町おこしのために日本初の電気ボンネットバスを導入した。近年は海外観光客がボンネットバスの乗車と撮影が目的で訪れていることがヒアリング調査等で判明している。他にも複数の点よりボンネットバスには集客効果が十分にあると裏付けることができる。

■ 教育への活用

教育教材の提案としてボンネットバスの特徴としては、構造が単純であり、法規による効率化を求めていないため、空洞部が多く内部の構造を観察し易い構造になっており、学習に繋げることが容易である。対して現代に活用されているキャブオーバータイプのバスでは座席の真下にユニットが存在し、空洞部は非常に少なく、観察し学習に繋げることは容易ではなく、近代化してほとんどの部品がブラックボックス化してしまった現代において、こうした内部が見やすい車両は教材としても価値が高い。

■ ボンネットバスの現状

大分県豊後高田市では、ボンネットバスを町おこし計画に採用することでバスの管理・維持が可能となっているが、ボンネットバスによる集客力や行政が後押しする支援事業と経済波及効果無しでは容易ではない。国内で動態保存または運用されているものは調査の結果63台と百台未満にとどまり、製造年より半世紀を超えるものが殆どである。バスでは一般的に100万kmが走行距離の寿命の目安とされており、年換算すると約10年に相当する。走破状況やメンテナンス頻度にもよるが最大でも約20年であり、頻繁に停車・発車を繰り返し行うほど車体や機関の劣化は顕著に表れる。バスとしての寿命を2倍以上運用されているボンネットバスは今後の保存、運用の為に多方面からの支援が必須となる。価値を持つボンネットバスを消滅させないよう、今後一層保存する活動を促進させる必要がある。
そこで、機械が地域の文化や経済に大きな影響を与えた事例として富岡製糸場が平成26年に富岡製糸場と絹産業遺産群が世界遺産として登録されたことに倣い、豊後高田市で活躍するBX141型ボンネットバスもいずれこうした団体の技術遺産の認定を受けてもおかしくないと考える。

■ ボンネットバスの今後の活用方針の提案

価値のある物等を認定して活用する動きがあるユネスコの世界遺産を筆頭として、国内にも重要文化財やそのほか建築遺産など様々な認定遺産が存在する中で、機械技術で貢献したものを認定する機械遺産が存在している。
今後、機械遺産となり得るBX141型ボンネットバスをまとめることで、多くの人に現状を知ってもらい後世に伝えられるような論文になったと考える。今後は経年劣化等により個体数が減少傾向にあるボンネットバスの希少価値を示す一参考資料として役立てていただけたら幸いである。

Table 1 Domestic moving cab-behind-engine bus
指導教員からのコメント 教授 佐藤 智明 (教職教育センター専任教員)
この研究は、技術教育に関する研究領域の研究です。ここでは、高等学校や中学校などの技術教育での有効な教育手法の開発や、一般社会に対して、科学や技術について啓蒙する手法についても検討しています。その中で、今回近藤君が手がけた研究は、古くなってしまって、今は表舞台からは退いてしまったけれども、歴史的には非常に価値のある機械(今回はボンネットバス)について、その文化的価値についての調査と、その技術啓蒙活動での活用方法について検討したものです。近藤君の調査は、その風貌から、ノスタルジーを感じる特徴によって各地で町おこしなどに利用されてきたボンネットバスについて、その利用実態を明らかにしたこととともに、今後の活用法についても示唆を与える価値のある研究だと考えます。
卒業研究学生からの一言 近藤 鼓太朗
自動車システム開発工学科という特徴的な学科は他の大学でもそう多くはなく、さらには教職課程を履修することで多くの知識を得ることができたと感じる。自動車システム開発工学科において教職教育センターの研究室所属は前例がなく、これを機に本学科でより多くの教職所属の学生が自動車と教職からのハイブリッドな視点から学ぶことができればと思う。