卒業研究のご紹介
2021年版

機械・自動車・ロボット系所属学生

宇宙デブリ捕獲技術におけるもり機構の結合条件の検討

板垣 慶太神奈川県
工学部機械工学科航空宇宙学コース2021年3月卒業
横浜市立戸塚高等学校出身

研究の目的

近年、使用済みの人工衛星やロケットの上段部等同士の衝突による宇宙デブリの増加が問題視されており、既に稼働中の人工衛星や国際宇宙ステーション等の運用に影響が出ています。デブリの衝突及び増加を未然に防ぐため、世界各地でデブリ除去手法の研究が進められています。渡部研究室では、日本刀の技術を応用した宇宙デブリ捕獲用銛機構(以降、“もり”と呼ぶ)の検討がなされています。これは宇宙デブリを銛で捕獲する試みであり、効率良く捕獲するため日本刀の技術に着目したものです。私の研究目的は、目標との結合性能に優れた銛を開発するため、結合について体系化を行うことで今後の銛の形状の方向性や研究課題を明らかにすることです。本研究の動機は、コロナ禍故に実験を行えないものもありましたが、それ以上に先行研究を実験が行えない分より深く掘り下げたいと考えたからです。

研究内容や成果等

■ 検討手法

まず、銛に求められる要求を言語化する。次に銛の結合条件を言語化し、どの条件を満たせば結合が成立するか否かを調べる。最後に、検討した結合条件を基に先行研究の銛を評価し、今後の銛開発の指針を設ける。

■ 検討結果

銛に求められる要求を以下に示す。
・貫入する際、可能な限り最小貫入エネルギーが低い形状にしなくてはならない。
・可能な限り、貫入可能な入射角を許容しなくてはならない。
・貫入した際、目標とリムーバーとを接続するような機構、あるいは形状の銛にしなくてはならない。
・貫入した際、目標への損傷を最小限に抑えなくてはならない。また、新たなデブリの発生をゼロか最小限に抑えなくてはならない。
次に、銛の結合条件について述べる。銛と目標との結合の可否は、貫入深さと結合条件の2つから判断する。
貫入深さと結合条件の様子を図1、図2に示す。

図1 貫入深さ

図2 結合条件
カエシ結合は機構的な結合で、グリッピング結合は摩擦力による結合である。銛が結合するためには、目標に“貫入”し、かつ“カエシ結合”が成立しなくてはならない。
次に、カエシ結合の条件を述べる。カエシ結合が成立するにあたり、カエシまたは目標が変形することで機構的結合をすることが解った。
また、カエシの向きによって結合条件が異なることが解った。外カエシ、内カエシの場合で結合する際の条件を以下に示す。
外カエシの場合
・カエシの先端間の距離>貫入穴の直径
内カエシの場合
・貫入穴同士の距離>カエシの先端間の距離
カエシ結合の例として、内カエシ二又型銛のカエシ結合を挙げる。図3に二又型銛の貫入の様子を示す。

図3 二又型銛の貫入
ここで、二又型銛のカエシ結合の式は、
De>Pd・・・(1)
De=Pd+2δb・・・(2)
と記述できる。
De:予想される貫入穴の直径
Pd:貫入前のカエシの先端同士を結んだ直径
δb:カエシによる変形長さ
δd:目標の変形長さ
そこから、先行研究である二又型銛、短刀型銛、クサビ型銛の銛を評価したところ、二又型銛が結合性能において最も優れていることが解った。一方、短刀型銛とクサビ型銛はカエシが塑性変形してしまい、外カエシの場合の結合条件を満たしておらずカエシ結合が成立していなかった。

■ 結論および今後の課題

現状、渡部研究室内では二又型銛が最も優れているという結論に至ったが、課題も多く残されている。
まず、銛の斜め貫入実験を行い、銛の貫入可能な迎え角の域と貫入エネルギーの関係を調べる必要がある。また、現在の形状では二次デブリが発生してしまうため、それを防ぐ形状を検討しなくてはならない。最後に、設計時に用いる、銛の梁の弾性変形量δbを導出する必要がある。
指導教員からのコメント 宇宙機構造力学研究室教授 渡部 武夫
渡部研究室には、それまで直感的・自由な発想で考案してきた銛モデルを用いた、多くのデータの蓄積がありました。今回板垣君には、それらを再び見直し体系立てて整理することで、銛とターゲットの結合条件を明らかにするテーマに取り組んでもらいました。
そもそも銛で捕獲するとはどういうことか、銛先がターゲットに刺さり、結合するとはどういうことか、を掘り下げ、金属板の破壊と大きな変形、そして形状の相互関係があわさった結合条件を明らかにすることを目指しました。これらの成果は、今後、宇宙デブリ捕獲用の銛の性能の向上を図る上で大きく役立つと期待しています。 
卒業研究学生からの一言 板垣 慶太
教育・研究活動を振り返り学んだことは多くありましたが、中でも「何かを調べられること」と「誰かに伝えること」を学べたことは自分にとって大きな財産になったと感じました。まず「何かを調べられること」とは、研究内容に関連したことを調べる際に調べる手段があるのと、まだまだ自分には知らないことがあると知ることができたことです。図書館の利用や英語文献を調べたことで、以前よりも視野を広げることができました。次に「誰かに伝えること」とは、論文やPowerPoint作成の際の考え方を学んだことです。自身で作成し、他の人が作成したものと見比べることで、どのようにすればより良くなるか考えるきっかけとなりました。