卒業研究のご紹介
2021年版

情報系所属学生

スマートフォンのフリック操作を用いた個人識別手法の検討

藪田 怜神奈川県
情報学部情報工学科2021年3月卒業
神奈川県立上溝高等学校出身

研究の目的

電子決済サービスなどのスマートフォンを活用したサービスの普及に伴い、スマートフォンは私たちの日常生活にとって、必要不可欠な存在になったと言える。本研究では、スマートフォンのさらなるセキュリティ性の向上を目的とした、フリック操作を用いて継続的に個人認証を行う認証手法についての研究を行った。

研究内容や成果等

■ 実験

被験者は、本学学生5名を対象として行った。本実験では、椅子に座った状態でスマートフォンを片手で縦方向に保持してもらい、親指でフリック操作を行う場合と人差し指と親指でフリック操作を行う場合の2パターンで各15回、フリック操作時の行動的特徴量とジャイロセンサーの変化量の計測を行った。

■ 分析・評価

実験で得た15試行分の計測情報を学習用に10回、評価用に5回に分け、自己組織化マップを用いて分析を行った。自己組織化マップの条件として、マップタイプはトーラス型と基本型、マップサイズは70×70(ユニット数4,900)、エポック回数は10回と設定した。マップ上の学習した点と評価用の点のユークリッド距離を求め、一番近い点のラベルが評価用の点のラベルと同じ場合、認証成功とした。

■ 実験結果

自己組織化マップは初期値にランダムな値が与えられるため、毎回違うマップが生成される。そのため、本実験では10回マップの生成を行い、そのマップから得られた認証精度の平均を本実験の認証精度とした。フリック操作計測実験で得られた平均認証精度を表1に示す。実験結果としてはフリック操作とジャイロセンサーの値を組み合わせた認証では、66.8%〜70.0%の平均認証精度が得られた。

表1 平均認証精度

■ 考察

(1)フリック操作に関する考察
親指と人差し指の認証精度を比較すると、大きな認証精度の差は生じなかった。フリック操作に使用する指やスマートフォンを保持する手の違いにより計測されるデータには、大きな特徴差がないと考えられる。
(2)認証精度に関する考察
先行研究(文献省略)と比較すると、本研究の認証精度が低いことが分かる。これは特徴量がうまく抽出できていないサンプルデータが含まれてしまっていたためだと考える。特徴量の標準偏差を算出し、標準偏差が大きいものを除いて再度、認証精度を算出したところ、実験で算出した平均認証精度より15%〜17%の平均認証精度の向上が見られた。

■ まとめ

スマートフォンのロック解除後の継続的個人認証手法として、スマートフォンのフリック操作時の行動的特徴量を利用したバイオメトリクス認証手法について検討を行った。結果、76.5%〜87.0%の認証精度を得ることができた。今後は、実用に向けて様々な環境や条件の下で実用性の検証を行い、認証精度を高めていくことが課題となる。
指導教員からのコメント 対話型システム研究室教授 納富 一宏
スマートフォンは、今日では誰もが毎日使うデバイスであり、とても大切な個人情報の入出力を伴うものです。所有者以外の他人に勝手に操作されてしまうと情報セキュリティが確保されないため危険です。本研究は、スマートフォンの操作者が所有者本人であるか否かを検出できるようにすることを目的とした個人認証に関する基礎的な研究です。自己組織化マップというニューラルネットワークモデル(機械学習)を用いてあらかじめ本人の操作の癖(行動的特徴量)を学習しておき操作時に判別します。こうすることで、スマートフォンのロック画面が突破されても安全の確保が期待できるようになります。藪田君の卒業研究により、これまでより判別精度が向上しました。当研究室では人間に快適なコンピュータ環境の実現を目指して研究を進めています。
卒業研究学生からの一言 藪田 怜
講義では、基礎的な知識から専門的な知識まで幅広く学べるほか、講義外でもハッカソンや資格取得支援制度などがあるため、思う存分知識や技術を深めることができました。卒業研究では、教授のサポートの下、自分の決めたテーマの研究を行い、より深い知識を得ると共に自己管理能力を身につけることができました。