卒業研究のご紹介
2022年版

情報系所属学生

騒音による睡眠影響その3

髙橋 達樹岩手県
大学院情報工学専攻博士前期課程1年
(情報学部情報メディア学科 2022年3月卒業)
岩手県立盛岡商業高等学校出身

研究の目的

睡眠は人にとってとても大切な時間だが、現代の日本人の約5人に1人は、睡眠に不満を持っていると言われている。2018年の欧州WHO環境騒音ガイドラインでは、健康保護の目的で、夜の騒音を控えめにすべきと勧告されている。このように現代では世界中で騒音による睡眠妨害を抑えていこうとされている。そのため、私の研究では、2019年から様々な実験参加者に協力してもらい騒音によって睡眠にどのような影響があるのかを調査することを目的とした研究を行った。

研究内容や成果等

■ 研究目的

睡眠は、生命維持に必要不可欠な要素で、睡眠に支障が出ると様々な健康影響のリスクが高まる。
しかし、現代の日本人の約5人に1人は睡眠に不満を持っていると言われている。さらに、2018年の欧州WHO環境騒音ガイドラインでは、人々の健康を保護するために、夜の騒音を40~45dBに推奨されている。以上のことから質の良い睡眠を確保することは、世界的な課題になっている。そこで私は、騒音が与える睡眠影響を調査する目的で研究を行った。

■ 実験手法

本研究では、先行研究を行った加来らの実験手法に倣い、実験参加者の自宅の寝室でCDプレーヤーを用いて人工的に交通騒音を流す実験を行った。実験の環境図は、図に示す。
CDプレーヤーは、上記でも説明した通り、交通騒音を流す際に使用する。交通騒音の種類は、道路騒音、鉄道騒音、航空機騒音の3種類で、音の大きさが異なるものを3種類で合計9種類のCDを使用した。騒音計は、騒音がしっかり流れているかの確認と流している騒音以外の音が大きくないかの確認のために使用した。体動計は、体の動きで起きているか寝ているか判定する機械で、この機材を用いて睡眠評価を行う。また、アンケートを用いて、騒音を聞いてどう感じたかなどの調査も行った。

■ 実験結果

実験の結果は、アンケートの結果と体動計の結果の2つを使用した。アンケートの結果を図に示す。図の赤が濃くなっている方が影響を受けていた回答となっている。
この結果によると、全音源の一番大きな音での影響ありと答えた方が30%を超え、鉄道の一番大きな音では、40%を超えた。鉄道騒音と航空機騒音は、音の増加に応じて睡眠影響も大きくなる傾向が確認された。体動計の結果は、睡眠効率と断片化指数という項目を音源別に比較した。睡眠効率とは、寝ている時間÷ベッドにいる時間で求められる値で、途中で起きた場合に、この数値に影響が出ると考えこの値を分析した。断片化指数とは、寝ている時間÷覚醒数で求められる値で何分に一回起きるかという数値になり、この数値も同様に睡眠に影響があるか分かる指標になると考えこの数値を分析した。しかし、結果は音源別での統計的な差は認められなかった。次に、社会人と学生の睡眠習慣の違いで別の影響が出ると考え社会人と学生の比較を行った。アンケートによると、音を聞きながら眠れたか、睡眠中に目が覚めたか、寝つき、眠りの深さ、夢の量の項目において、社会人の方が悪い睡眠状態であるという結果が確認された。また、体動計の結果では、全体動量、床にいる時間、全睡眠時間、平均覚醒時間で社会人の方が睡眠時の体の動きが多いという事と、平均覚醒時間が長いという事が分かった。しかし、体の動きは睡眠時間の影響を受ける為、社会人の方が多くなった可能性があり、平均覚醒時間も覚醒回数を考慮すると大きな差は無いと判断できる。さらに、アンケートと音源の音の大きさを分析したところ、道路騒音のCDの音を聞きながら眠れたか、鉄道騒音と航空機騒音の睡眠中に目が覚めたかで音が大きくなるごとに睡眠に影響があると感じていることが分かった最後に、睡眠時に途中で起きる中途覚醒の発生率を騒音の大きさと関係があるのか調べたところ、社会人の道路騒音と学生の航空機騒音で統計的な差を確認できた。しかし、道路騒音と航空機騒音の結果は、異なる傾向を示した。音源ごとの中途覚醒発生率を図に示す。


■ 考察

実験の結果より、アンケートによる主観的な睡眠評価では、鉄道や航空機の方が睡眠への影響を与える割合が高いことが分かった。先行研究でも、同様の結果となっているためこの結果は妥当な結果と言える。また、鉄道騒音と航空機騒音において流している騒音の大きさの増加とともに、睡眠影響が増えることも確認された。上記の2つの点から主観的な睡眠評価は、道路騒音よりも鉄道騒音と航空機騒音の方が、睡眠に与える影響の割合が高いことが分かった。しかし体動計による睡眠評価では、アンケートと同様の結果にはならなかった。中途覚醒の発生率と音の大きさの関係でも、異なる傾向を示した。

■ まとめと今後の課題

実験をまとめると、アンケートの結果の主観的な睡眠評価では、音が大きくなるごとに睡眠影響が増えることや、道路騒音よりも鉄道騒音や航空機騒音の方が与える影響の割合が高くなることが分かった。しかし、体動計による客観的な睡眠評価は、アンケートと同様の結果にならず、音源ごとに異なる傾向を示した。
今後は、音源ごとの異なる傾向の原因を検討することや、参加者のサンプル数を増やし、さらに分析を進めることが課題となった。
指導教員からのコメント 応用音響工学研究室准教授 上田 麻理
髙橋君は、音に興味があって希望する他の学生の多くとは少し異なり、3年次後期のセミナーから工学的な研究の知識を身に着けたいとして当該研究室を希望してきました。健康や医学に興味を示し、騒音の睡眠影響に関する研究を行っています。実験以外でのメインは統計分析です。疫学、ほぼ数学。データ分析の視点を試行錯誤しながらより適した分析を行います。少し地味な作業ですが、自ら考える、考える。試行錯誤。とても能力のある学生です。髙橋君もまた2022年8月には国際会議にもデビュー予定です。大学院では睡眠以外の健康に関連する新たな音の研究もはじめました。これらの成果がきちんと論文化されて少しでも世の中の役に立てればと考えています。引き続きがんばれ!
卒業研究学生からの一言 髙橋 達樹

研究活動を振り返り成長したこと

私は研究活動を通して、主体性と計画性が養われたと思います。その具体的なエピソードとして、 学会発表締切日に、発表するか否かという状況で、主体的に実験参加者に連絡し協力を仰いだり、効率的にデータが取得できるように計画を練ったりして、無事学会発表を終えることができたことです。

未来の卒研生(高校生)へのメッセージ

大学では、高校と違い履修を自分で好きなように組めるので、興味がある分野への学びを深めることができると思います。なので、1~3年生でしっかり勉強しておくと、4年目の卒業研究で力が発揮できると思います。また、高校生のうちにやっておいた方がいいことは、理系の卒業論文では数字が沢山出てくるので、高校数学の基礎などを固めておくとスムーズに取り組めるので、そこを押さえておくといいと思います。