卒業研究のご紹介
2022年版

化学・バイオ系所属学生

芳香成分による抗アレルギー薬理効果の評価

齋藤 朱利射栃木県
工学部応用化学科
2022年3月卒業
栃木県立宇都宮北高等学校出身

研究の目的

近年、アレルギー疾患罹患者数は増加傾向にあり、日本人の約2人に1人はアレルギー疾患罹患者である。アレルギー疾患罹患者の増加要因として喘息やアレルギー性鼻炎の増加が挙げられる。その治療には各種抗アレルギー薬が効果的に使用されているが、副作用が伴うことがある。そのため、アレルギー症状に対する根本的な治療の確立や副作用の少ない新規医療の開発が求められ、代替医療への期待が高まっている。その中でも副作用の少ないものとして、天然物の抽出物やアロマテラピーで取り扱われる精油に注目した。一部のハーブ抽出物は抗アレルギー作用効果を示すことが報告されているが、市販の精油やその含有成分による抗アレルギー作用効果と作用能の差違は明らかになっていない。そこで、本研究では天然物である精油とその含有成分が細胞から放出されるヒスタミンを抑制することによってアレルギーに効果があるかを評価することを目的とした。


研究内容や成果等

■ 実験方法

ペパーミント精油、バジル・リナロール精油、ユーカリ・ラディアータ精油、ローズマリー・シネオール精油の4種類の精油を対象として、抗アレルギー作用能を調べ、比較検討を行った。また、特定成分間での抗アレルギー作用の比較検討と抗アレルギー作用において、精油とその含有成分の相乗効果を明らかにすることを目的に、主成分である、(-)-メントール、リナロール、1,8-シネオールの抗アレルギー作用能の解明とその比較検討も行った。本研究では、RBL-2H3細胞を培養し、刺激伝達物質であるカルシウムイオノファと精油、対象主成分を添加し、細胞から脱顆粒されたヒスタミン量を測定することで、ヒスタミン遊離抑制活性を指標とした抗アレルギー作用能の比較検討及び評価を行った。ヒスタミンの定量には、6-アミノキノリル-N-ヒドロキシスクシンイミジカルバメート(AQC)蛍光誘導体化法による蛍光検出 HPLC 分析法を用いた。

■ 実験結果

ペパーミント精油、バジル・リナロール精油、ユーカリ・ラディアータ精油、ローズマリー・シネオール精油をそれぞれ 20~100 µg・mL-1の濃度で添加した時のヒスタミン放出の相対抑制率は
  • ペパーミント精油は34~60%
  • バジル・リナロール精油は44~56%
  • ユーカリ・ラディアータ精油は4~29%
  • ローズマリー・シネオール精油は17~50%
  • ポジティブコントロールとしてのトラニラストは85~88%

対象とした精油の含有主成分である(-)-メントール、リナロール、1,8-シネオールを 10~50µg・mL-1 の範囲で添加した時のヒスタミン放出の相対抑制率は
  • (-)-メントールは34~56%
  • リナロールは 14~48%
  • 1,8-シネオールは37~61%
  • トラニラストは65~75%

この濃度設定は各精油の主成分が48~68%の濃度で含有されていることと、それぞれを比較するために精油添加時の半分、すなわち含有率50%の濃度で測定した。

精油添加時と同じ20~100µg・mL-1の濃度範囲で(-)-メントール、リナロール、1,8-シネオール添加時のヒスタミン放出の相対抑制率は
  • (-)-メントールは36~50%
  • リナロールは44~71%
  • 1,8-シネオールは35~51%
  • トラニラストは85~88%

■ 考察

主成分間を比較すると、濃度によってばらつきはあるものの、3種類の成分に関して明確な差異は見られなかった。精油とその主成分との関係を比較すると、ペパーミントと(-)-メントールの比較では精油とその半分濃度の(-)-メントールが同様な抑制率の挙動を示していることから、精油中の(-)-メントールがヒスタミン放出の抑制作用能を支配的に有していると考えられた。ユーカリ・ラディアータ精油、ローズマリー・シネオール精油において、精油のみの抑制率より精油の半分濃度の主成分添加時の方が高い抑制率を示すことから、共存成分が主成分のヒスタミン遊離抑制活性を低くさせる可能性も示唆された。

■ 研究まとめ

対象とした精油4種類と含有主成分の3種類のいずれの物質もヒスタミン遊離抑制活性による抗アレルギー作用能を示すことが明らかとなった。ペパーミント精油、バジル・リナロール精油、ローズマリー・シネオール精油はユーカリ・ラディアータ精油の約1.6~2倍高い抗アレルギー作用を示した。ユーカリ・ラディアータ精油とローズマリー・シネオール精油においては共存成分が主成分のヒスタミン遊離抑制活性を低下させる可能性があるため、精油に主成分を直接添加して共存成分の影響を評価する必要がある。
卒業研究学生からの一言 齋藤 朱利射

研究活動を振り返り成長したこと

問題解決への情報収集能力と多方面からの視点で考えられる能力が成長しました。 研究活動では未知のものを研究するため、インターネットで検索しただけの情報だけでは足りません。図書館で専門外まで本を読んだり、その分野に詳しい教授や企業の方からお話を聞いたりすることも行うようになりました。多方面から情報を集め、アプローチすることで問題解決ができました。

未来の卒研生(高校生)へのメッセージ

大学では自分の興味のある分野の研究や勉強をとことんできるので真の学びの面白さを感じられると思います。やる気があればどこまででも研究できるのが大学だと感じました。