卒業研究のご紹介
2020年版

電気電子系所属学生

共同ECHONET Lite機器を利用した生活者行動推定技術の研究

酒井 貴洋(代表者)神奈川県
大学院電気電子工学専攻 博士前期課程1年
(創造工学部ホームエレクトロニクス
開発学科 2020年3月卒業)
星槎高等学校出身
増田 陸神奈川県
創造工学部ホームエレクトロニクス開発学科
2020年3月卒業
神奈川県立神奈川工業高等学校出身
松方 直樹宮崎県
創造工学部ホームエレクトロニクス開発学科
2020年3月卒業
宮崎県立宮崎工業高等学校出身

研究の目的

本研究は一般家庭で使用された機器の情報を活用し、生活者の行動推定を行う技術の実現を目的としています。近年、IoT市場規模の拡大により一般家庭のスマートハウス化が進んでいます。現在、スマートハウスではECHONET Lite対応のIoT機器から消費電力や動作状態などの機器情報を暮らしの情報として、ユーザーに提供することでサポートをしています。IoTソリューション分野では、こうした機器情報を分析した上でユーザーに提供するサービスの需要が高まっています。本研究での生活者行動推定技術の実現は機器情報を分析し、ユーザーに分かりやすい形で暮らしの情報を提供することで、離れて暮らす家族の見守りといった暮らしサポートに役立つと考えます。

研究内容や成果等

■ 機器情報取得システム

Fig.1にシステム概要図を示す。機器情報取得システムの通信プロトコルは国際標準規格 ECHONET Lite(ISO/IEO14543-4-3)を、システム制御はNode-REDを採用した。Fig.2に機器情報取得システムの制御フローを示す。Node-REDでは機器情報の取得間隔時間の設定や、ECHONET Lite規格に基づく取得対象機器の指定、取得機器情報の指定、取得機器情報のデータベース保存を行う。機器情報取得システム動作確認のため、4人暮らしの一般家庭のキッチン-ダイニング、リビング、脱衣所を対象に機器情報を取得した。機器情報の取得間隔時間を3分、取得機器情報として9機種の消費電力データを取得した。Table 1に機器情報取得対象機器の詳細を示す。非ECHONET Lite 機器は、ECHONET Lite対応コンセント型計測器で機器情報を取得した。2019/2/22〜7/21、10/3〜11/21(合計200日)における全機器の合計取得成功率は89.2%となった。 

Fig.1  Schematic of device information acquisition system

Fig.2 Control flow of device information acquisition system

Table 1 Details of devices for device information acquisition 

■ 提案する推定技術

(1)分析するデータの前処理
各ECHONET Lite機器の稼働状態を識別するため、3分周期で取得した瞬時電力から動作状態(ON、OFF)を求めた。
(2)滞在率・移動率の推定
滞在率とは、住宅内の区分をキッチン-ダイニング、リビング、脱衣所としたとき、ECHONET Lite機器から被験者が1日どこに滞在しているのかを表す割合である。ECHONET Lite機器が設置されていない箇所に滞在している場合は未確定行動とし、計4区分で滞在率を表している。滞在率の処理として、1つのECHONET Lite機器の動作状態がONのとき、そのECHONET Lite機器がある区分に滞在しているものとする。2つ以上のECHONET Lite 機器の動作状態がONのとき、ECHONET Lite機器を動かす際に滞在している確率が高いものから重みづけをする。スマートメーターを除く8機種の ECHONET Lite 機器の動作状態がOFFのときは未確定行動とする。以上の処理を行い、前後3分が同じ区分にあるときに、その場所に滞在しているものとする。移動率とは、被験者が1日でどの部屋間を移動しているかを表す割合である。滞在率と同じ処理を行い、前後3分が違う区分にあるときにその場所から移動しているものとする。滞在率の推定精度を確認するため、被験者1人のみが生活していた1日(以下、正解データとする)の滞在率と比較を行った。Table2(略)に滞在率の推定結果と正解データを比較し、一致率が 90%より高いものを〇、それ以外を×と表した表を示す。90%の精度は、1時間で 3分の誤差が2回以内であることを示す。検証結果より、キッチン-ダイニングの滞在率は、ECHONET Lite 機器を使用していない場合を未確定行動と判断するため誤差が生じたと考える。
(3)行動時刻の推定
各 ECHONET Lite機器の動作状態を分析することで、5つの行動時刻を推定した。Table3(略)に行動時刻の推定結果の中央値と、正解データの行動時刻を比較した表を示す。推定結果として正解データとほとんど誤差がなく、高い精度が得られた。夕食調理開始時刻は、キッチンダイニングのECHONET Lite 機器の動作状態がONのとき認識されるため誤差が生じたと考える。
(4)生活パターンの推定
被験者の生活パターンの推定を目的とし、1日の住宅内消費電力を特徴ごとに分類を行った。分類方法としてk-means法を用いたクラスタリングである。k-means法を用いたクラスタリングは統計解析向けのオープンソース・フリーソフトウェアR言語を使用して行った。クラスタリングするデータとして、2/22〜7/21(150 日)の機器情報取得システムで取得したスマートメーター(瞬時電力)を1時間ごとに合計し、午前と午後の特徴的な生活パターンを見つけるため午前(00:00〜11:57)と午後(12:00〜23:57)に分け、欠損が24時間中過半数を占めている日付を取り除いた148日分のデータ(以下、消費電力データとする)を使用した。午前と午後のデータをクラスタ数8でクラスタリングを行った。Fig.3にクラスタリングから得たクラスタの重心(赤)とクラスタに分類された消費電力データ(黒色)の例を示す。1日ごとの消費電力データをクラスタリングすることで、特徴的な生活パターンが推定されると考える。例えば、Fig.3の18時台か19時台の間で消費電力が一定値から上昇していることから、18時台か19時台の間に帰宅したと考える。家事行動(洗濯、料理等)を推定するには、他のECHONET Lite機器の機器情報を組み合わせる必要があると考える。 

Fig.3 The afternoon’s power consumption data classified in cluster 8

■ まとめ

本研究での取り組みのまとめを以下に示す。
 ・ 住宅を対象に、設置したECHONET Lite機器の機器情報を取得し精度検証を実施した。
 ・ 生活者行動推定技術として滞在率、行動時刻、生活パターンの推定を実施した。
 ・ 行動推定技術の精度は、誤差はあるが滞在率や行動時刻の推定ができることを示した。
 ・ 長期間の機器情報をクラスタリングすることで、生活パターンの推定ができることを示した。 
指導教員からのコメント IoTスマートライフ研究室教授 一色 正男
実生活の中で「住う人の幸せな生活」をサポートする、実住宅への実装技術を開発するという、大変重要なテーマで研究をしてもらいました。一般住宅に実装されているスマートメーターの電力使用データと、生活家電機器等の利用状況データのデータ取得と、そのクラスタ解析による生活行動分析の可能性検討という重要なテーマで研究を行ってもらいました。
酒井君には、「データ取得」という基礎的な部分で意外な発見と対応手法を教えてもらい成果がありました。皆の意見を聞きながら、非常に丁寧に一つ一つ論議推進する姿勢には、大変な成長を感じ大いに期待しています。
修士研究学生からの一言 酒井 貴洋
本学での講義や研究活動ではグループワークを行うことが多く、他者との意思疎通を非常に意識して取り組みました。特に研究活動では、長期的に研究メンバーや教授と研究を進めていくため双方の意見の不一致が発生しないためにも自発的に報告、連絡、相談を心掛けると共に自身の考えや意見を主張し、計画的に行動しました。大学生活の4年間において勉学は勿論、実践的なモノづくりや課題、研究活動などの経験から自ら主体的に行動することが如何に重要であるか学びました。