卒業研究のご紹介
2022年版

電気電子系所属学生

共同五酸化ニオブを用いた小型光スイッチ製作のための条件の検討

齊藤 拓人(代表者)新潟県
大学院電気電子工学専攻 博士前期課程1年
(工学部電気電子情報工学科電気電子特別専攻2022年3月卒業)
新潟県立高田高等学校出身
巻 幸志青森県
大学院電気電子工学専攻 博士前期課程1年
(工学部電気電子情報工学科2022年3月卒業)
青森県立八戸工業高等学校出身
齋藤 昂生神奈川県
工学部電気電子情報工学科
2022年3月卒業
神奈川県立相模向陽館高等学校出身

研究の目的

スマートフォンや動画配信の普及により、柔軟なWDMネットワークの構築が不可欠となっている。ノード部分を導波路型光スイッチに置き換えることにより小型化かつ大規模集積化が可能となる。光スイッチを小型化かつ大規模集積化することにより情報量を増やすことができる。具体的にWDMネットワークとは波長分割多重方式のことである。ここでいう光スイッチとは多重化された波長の光信号の通り道を一片に切り替えるスイッチとなっている。

研究内容や成果等

■ 研究の目的

近年スマートフォンや動画配信サービス、クラウドサービスなどの普及によりデータセンターやネットワークなどの通信トラフィックが増加しており、実際に国内のインターネット・トラフィックはブロードバンド契約者の総ダウンロードトラフィックが新型コロナウイルスによる在宅時間が増えたこともあり、2020年の時点で推定約19.0Tbpsと試算されており、前年度比で57.4%も増加している。
さらに、2020年には第5世代移動通信システム(5G)の本格的な運用が開始されそれに伴うIoTの普及や医療、救急分野等での通信需要の増加が予想され、それによりさらなる高速で大容量な通信ネットワークの実現が求められ、波長分割多重(WDM: Wavelength Division Multiplexing)技術をはじめとする、大容量通信を支える技術が必須となる。そのため、近年ではネットワーク内のノードにおいてそれまで主流であったの電気スイッチを電気処理を限りなく少なくし、光信号のまま処理できる機械式光スイッチに置き換えることで、波長毎でのO/E (Optical to Electrical)、E/O (Electrical to Optical) 変換器が不要となり、装置の低消費電力化、小型化を実現できる。しかしながら機械式光スイッチには集積性に問題があったためより小型で大規模集積化が可能な導波路形光スイッチの実現が求められている。
加工のしやすく、垂直性があり、底面荒れの少ない導波路の製作のためにRIE条件を追い求め、導波路の損失を抑える。カプラ製作のための細線導波路での条件を検討する。

■ 実験手法

製作手順

FLC装荷MZI形光スイッチの製作手順を説明する。主な製作プロセスは導波路製作プロセス、FLC装荷領域・保持層領域・電極形成プロセス、FLC装荷プロセスの3つに分けることができる。

導波路製作プロセス

光スイッチのベースとなるNb2O5リブ型導波路はスパッタリングとフォトリゾグラフィ、ドライエッチングにより形成される。製作プロセスを図に示す。まず下地となる熱酸化Si基板(表面SiO2層2[µm])に反応性DCスパッタリング装置によりNb2O5を成膜する。導波路を形成するため、2種類のフォトレジストを用いて2層レジストを形成後、コンタクト露光によってパターニングする。その後Crを真空蒸着装置で成膜し、リフトオフを行い、Crマスクを得る。このCrマスクを用いて、RIEによるドライエッチングでリブ型導波路を形成する。上部クラッドとしてSiO2-5mol%Ta2O5をスパッタリングして導波路の完成となる。導波路の形成プロセスを画像1に示す。

画像1 導波路形成プロセス

導波路の測定

導波路の減衰と波長特性を測定する。手順は入射側ファイバを導波光が最大となるように合わせた後、出射側ファイバを測定したい導波路に合わせる。光パワーと波長特性を測定する。MZI型導波路やAWGのような1入力に対して複数の出力光が得られる導波路の測定時は、近視野像を見ながら入射側ファイバの位置を合わせた後、出力ポートに出射側ファイバを合わせて測定を行い、そのまま別の出力ポートに合わせて順に測定していく。

■ 実験結果

SEM観察

基板ST22では好条件であると考えた𝐶𝐹4:Ar =20:5でRIEを行った。しかし、EB描画でつなぎの部分ができてしまった。原因としてはRIE条件ではなく基板の歪みもしくは基板の貼り付けが甘かったのではないかと考えている。EB描画では1フィールド毎に電子ビームで描画する装置となっていて基板の表面の些細な歪みなどでずれてしまった。しかし、我々が考察してきたRIE条件を適用し導波路が製作できた。𝐶𝐹4:Ar =40:10でRIEを行った導波路も製作ができた。当初心配されていた導波路が形成できるかという課題に関しては解決できたと考えている。垂直性や底面荒れに関しては真上からのSEM画像で上手く観察できていないので波長透過率測定で光の損失を調べる。ST22のSEM画像を画像2に示す。ST23のSEM画像を画像3に示す。

画像2 基板ST22のSEM画像

画像3 基板ST23のSEM画像

波長透過率測定

近視野像
ST22、ST23どちらも今まで製作してきたどの基板よりもより強い光が観察できた。ST22の近視野像の画像を画像4に示す。ST23の近視野像の画像を画像5に示す。

画像4 基板ST22の近視野像

画像5 基板ST23の近視野像
波長透過率の評価
ST23は、波長ごとの損失が安定していてばらつきもなく10dBから15dBと損失が少ない結果となった。ST22のEB描画が成功していた場合、今までの成果からどの基板よりも損失が少なかったと考えられる。波長透過率測定の結果を画像6に示す。

画像6 基板ST23の波長透過率測定

■ まとめと課題

まとめ

・RIE条件でガス流量比が高い条件の製作、比較評価した。
・我々が研究してきたRIE条件で細線導波路の製作ができた。
・我々のRIE条件を適用した細線導波路で近視野像を見ることができた。
・SEM観察で𝐶𝐹4:Ar=20:5の方が𝐶𝐹4:Ar=40:10よりも底面荒れ、垂直性がよい。

課題

・RIE条件の安定性
・曲げ導波路での比較、評価
・MMIカプラでの比較、評価
指導教員からのコメント 光機能デバイス研究室教授 中津原 克己
齊藤拓人君、巻幸志君、齋藤昂生君の3人には、光ファイバ通信ネットワークの中で信号経路の切替えを行う光スイッチの小型化を実現するための研究を行ってもらいました。小型光スイッチを製作し、動作実証を行うためには、微細な形状を実現するための技術を開発する必要があり、特にドライエッチングでの技術を高める必要がありました。研究室の先輩が築いた技術を参考に3人で協力しながら、新たな条件を試行し、電子顕微鏡を用いて詳細に調べていき、加工技術の向上に貢献しました。
大学院に進学する齊藤拓人君、巻幸志君は卒業研究で培った力をもとに、それぞれ、自分の研究テーマにおいて新たな課題への取り組みを進めていて、存分に力を発揮して研究成果を上げるとともに、今後も進展を続ける通信ネットワークに対応できる力を身につけて欲しいと思っています。
卒業研究学生からの一言 齊藤 拓人

研究活動を振り返り成長したこと

私たちは3人1組の光スイッチ班として卒業研究を行ってきた。実験の話をすると、実験をしていく中で失敗は避けられない。そこで失敗をしてしまったから怒られるということではなく、「なぜ失敗をしてしまったか」を考える必要がある。実験の中には危険を伴うこともあるので今のうちに失敗を経験し原理を考え二度と失敗をしないように心がけることが大事である。仲間と研究をすることについては協力が一番重要だと考えている。先生もおっしゃっていたが社会に出て「1人で成果を上げてこい」ということはないので班になった研究では仲間を頼ることも大切であると考える。