卒業研究のご紹介
2020年版

化学・バイオ・栄養系所属学生

味噌の熟成による水溶性成分組成の変化

浅間 陽香栃木県
応用バイオ科学部栄養生命科学科※ 2020年3月卒業
※現在は健康医療科学部管理栄養学科
栃木県立鹿沼東高等学校出身

研究の目的

味噌は、日本では料理に欠かせない伝統発酵調味料の一つであり、産地や原料の違い、熟成期間の違いによって、現在様々な風味のバラエティに富んだ市販品が出回っている。味噌の水溶性成分組成については、産地よりも熟成期間における変化が大きいことが報告されており、熟成においてたんぱく質やでんぷんなどが酵素的に加水分解され、味噌の複雑な味を作り出していると考えられる。
本研究では、同一麹および大豆を用いて、味噌の製造においてどのような水溶性成分が熟成によって変動するのかを網羅的に調べ、その特性を調べることを目的とした。

研究内容や成果等

■ 実験方法

(1)サンプル選定
同一製造業者の市販米味噌(白味噌(2〜3か月熟成)、中味噌(1年熟成)、赤味噌(5年熟成))及び白味噌と同じ配合のものを、調製後一定条件で0日から77日まで経時的にサンプリングを行ったものを試料とした。
(2)GC-MSによる水溶性成分分析
各味噌サンプル200㎎を超純水800µlに溶解し、懸濁液を作成後、粉砕及び遠心分離(4℃,150rpm,3分)を行った。その後、得られた上清50µlに内部標準として2-Isopropylmalic  acid(0.5mg/ml)40µlと溶媒混合液(CHCl3:CH3OH:H2O(1:2.5:1))1mlを加え攪拌抽出を行い、上清800µlに超純水400µl加えたものを再び遠心分離を行い、得られた上清を抽出液とした。抽出液200µlを遠心乾燥後、Methoxyamine/Pyridine(20mg/ml)50µlを加えメチル化、MSTFA(シリル化剤)50µlを加えTMS誘導体化を行ったのち、GC-MS分析及び多変量解析・定量を行った。各サンプル3連で分析を行った。

■ 結果及び考察

 味噌のGC-MS分析により、熟成によってクロマトグラムの組成が変化し、主成分分析では水溶性成分が経時的に増加することがわかった。特にGlutamic acidを初めとするアミノ酸類が増加したが、これは麹のたんぱく質分解によるものと考えられた。また、麹由来と思われるMaltoseやMelibioseなどのオリゴ糖の増加も大きかった。一方、大豆オリゴ糖であるSucroseやRaffinose、Stachyoseは経時的に減少していた。この結果から熟成によりオリゴ糖類が分解し、より低分子の糖が増加することがわかった(図1)。
さらに、長期熟成味噌ではアミノ酸類・糖類はいずれも大幅に減少することがわかった。これらの結果から水溶性低分子成分は経時的に熟成によって増加するが、過度な熟成では減少する可能性が考えられた。

図1 味噌の熟成における大豆オリゴ糖の分解
指導教員からのコメント 食品学研究室教授 飯島 陽子
味噌は日本を代表する調味料の一つですが、産地や大豆原料、熟成によって様々風味を持つ味噌が市場にでています。その変化の最も大きな要因として熟成工程が考えられ、本研究で取り扱った水溶性成分は呈味に関与する成分も含まれます。浅間さんは、味噌の熟成中に変動する水溶性成分について網羅的に分析し、多変量解析を行うことで新たな現象を見出し、食品科学工学会で口頭発表することができました。卒業研究には明るく積極的に取り組み、国家試験勉強中の空いた時間も有効利用して研究に励んでいた姿が印象的です。
卒業研究学生からの一言 浅間 陽香
食品の成分や美味しさに興味があり、食品成分分析を行う本研究室を希望しました。一人ずつ別々の卒業研究テーマに取り組むため、自主性や責任感を培うことができたと感じます。また、研究活動を通じて分からないことをそのままにするのではなく積極的に原因究明に努めることで、より深い知識が身につくことを学びました。1年間という短い研究活動でしたが、研究テーマに沿った実験や考察を行うだけでなく、学会で口頭発表するなど貴重な経験をすることができました。今後は、これまでの研究活動を通じて得た経験や学んだことを生かし、一社会人として精進していきたいと思います。