卒業研究のご紹介
2022年版

化学・バイオ系所属学生

Thermus thermophilus 由来線毛関連タンパク質PilOの精製

中山 裕太神奈川県
応用バイオ科学部応用バイオ科学科
2022年3月卒業
神奈川県 鎌倉学園高等学校出身

研究の目的

Ⅳ型線毛は多くのグラム陰性菌の表面に見られる細胞膜、内膜、外膜を貫通するフィラメント状の細胞外構造体である。Thermus thermophilus のⅣ型線毛は少なくとも16種類以上のタンパク質が相互作用することで、固相表面上での滑走運動、自然形質転換による外部DNAの取り込み、ファージ感染、バイオフィルムの形成など、細菌において重要な機能を示す。その内PilN、PilOは内膜局在タンパク質であり、自然形質転換と平面滑走運動に関与する可能性が示唆されている。当研究室ではPilN、PilOの解析のため精製を試みたが、膜タンパク質であるため精製が難航している。本研究ではPilOのベクター構築を行い、精製、抗体を作製することを目的とする。

研究内容や成果等

■ 結果

Thermus thermophilus Ⅳ型線毛関連タンパク質であるPilOは、N末端の9-31a.a.が膜貫通領域であり、疎水性が高いことがわかった。そのため、N末端1-32a.a.を除去した発現ベクターを構築し、大腸菌内で発現させた(PilO⊿1-32、HisPilO⊿1-32)。目的のPilOは大腸菌内で凝集したが、8M Urea の変性剤で可溶化することができた。可溶化させた PilO をHis Trap(アフィニティークロマトグラフィー)とButyl-TOYOPEAL(疎水性相互作用クロマトグラフィー)を用いて精製を行った。結果、精製度95.8%のPilOを1.03g得ることができた。精製したPilOの一部を抗原として用いて抗体の作製を行った。作製した抗体は2500 倍希釈で0.1 µgで特異性の高いシングルバンドで検出され、0.01µgまで検出することができた。

図1 PilO⊿1-32の過剰発現  S:可溶性画分 P:不溶性画分

図2 作製したPilO抗体のウェスタンブロッティングによる評価
指導教員からのコメント 分子機能科学研究室教授 小池 あゆみ
3年生まで学業に目を向けられていませんでしたが、卒業研究を通して学ぶことの意義を理解したのではないかと思います。膜タンパク質複合体の研究は難易度が高く、技術と根気が必要ですが、大学院生の指導の元で1年間の研究期間を無駄にすることなく遂行し、卒業研究着手時の目標を見事に達成しました。研究に目を向けるようになってからは顔つきが変わり、内面の変化を周囲が感じるほど大きく成長しました。卒業研究で自身もフル活用した理化学機器の会社に就職し、今後は研究現場を支えてくれるはずです。
卒業研究学生からの一言 中山 裕太

研究活動を振り返り成長したこと

私が卒業研究を通して学んだことは、社会活動への心構えです。研究室へ配属されるまで、他人とのやり取りはLINEなどが中心でしたが、研究室へ配属されてからはメールが中心となり、責任をもって伝えること、また文字に起こして説明することの難しさを実感しました。

未来の卒研生(高校生)へのメッセージ

研究は自発的に動かなければならず、また動いたのであればどのように動いたとしても結果が返ってきます。常に動き続け、身体と思考を停滞することがないように心がけましょう。