卒業研究のご紹介
2022年版

化学・バイオ系所属学生

Ⅳ型線毛の構成因子の同定とメカニズム解析

前川 真純群馬県
大学院応用化学バイオ化学科 応用化学・バイオサイエンス専攻 Bコース 博士前期課程
2022年3月修了
(応用バイオ科学部応用バイオ科学科 医生命科学特別専攻 2020年3月卒業)
群馬県立高崎女子高等学校出身

研究の目的

細菌は細胞膜によって自身と外部環境を区別し、物質は自由に細胞膜を通過できないが、細胞膜にフィラメント状に突出したⅣ型線毛(T4P)はDNAなどの細胞内への引き込みや、細胞内で生産したタンパク質の細胞外分泌を可能にしている。T4Pは伸長と退縮をすることで主に運動機能を司るが、トランスポーターの役目も持つため、病原細菌の感染戦略を理解することにも繋がる。T4P構成要素のうちPilF、PilTはATP加水分解酵素であり、線毛の駆動力を生み出すことがわかっているが、その機能を制御するスイッチ機構は明らかになっていない。そこでT4Pタンパク質を精製して相互作用を解析することでT4Pの動く仕組みを考察する。

研究内容や成果等

■ 実験方法

細胞内の数千ものタンパク質の中から単一の目的タンパク質を得るために、性質の異なるクロマトグラフィーを複数使用して分離し、精製した。精製タンパク質の一部を抗原としてポリクローナル抗体を作製した。精製タンパク質間の相互作用をみるためにマラカイトグリーン法にてATP加水分解活性を測定した。また、寒天培地で培養した生細胞を回収し、シリンジ針で出し入れすることで線毛を物理的に引き抜き、作製した抗体を用いたウェスタンブロット解析により、T4Pに含まれるタンパク質の同定を行った。

図1 Thermus thermophilus のⅣ型線毛
a: Thermus thermophilus の電子顕微鏡画像  b: Ⅳ型線毛(T4P)のモデル図  c: 細菌がⅣ型線毛を使って移動する様子

■ 実験結果

精製線毛のウェスタンブロットより、全株の線毛で検出されたPilQ、F、C、TTHA0007はT4Pのコア構造と考えた。一方、PilT1、T2、M、O、Wは、野生株と比較してATP加水分解活性変異/欠損株ともに線毛コア構造に強く結合するようになったため、ATP加水分解と連動する複合体構造変化が示唆された。精製したPilT1、PilT2のATP加水分解活性について、PilM、Cの共存でPilT1のATP加水分解活性は増強され、逆にPilT2はPilT1、C、M、O、の共存により抑制されたことから、線毛の退縮にこれらタンパク質間の相互作用が関与していると考えられた。
指導教員からのコメント 分子機能科学研究室教授 小池 あゆみ
Ⅳ型線毛はグラム陰性細菌の細胞表面にある繊維状構造物で、病原性細菌の宿主への接着、固相表面での移動現象、DNA取り込みによる自然形質転換、ファージ感染などに関わっています。『生物は化学工場のようでおもしろい!』と感じて生化学の研究を選択したという前川さんは、20種近いタンパク質分子で構成されたⅣ型線毛の複雑なパズルのような分子機構の研究に夢中になり、没頭して取り組んでくれました。情熱をもって楽しみながら研究し続けることで、学部4年生と修士2年生でその学年に見合った手応えのある結果を得ることができました。その成果を学会発表する機会も在学中に4回あり、研究者や他大学の大学院生とのディスカッションを回数を追うごとに充実させる経験も積みました。目的を達成する強い信念は前川さんの魅力ですが、困難な状況を打破する術と喜びを研究活動を通して経験したことは、エンジニアの仕事でも必ず活きると期待しています。
修士研究学生からの一言 前川 真純

研究活動を振り返り成長したこと

考えながら進める力を身につけました。行動力と瞬発力には自信がありましたが、後先を考えずに行動してしまい、結局時間と手間がかかってしまうことが多々ありました。そこで先生から指導を受けることで、逆算して計画を立てることで何が必要なのか考える力やマルチに実験をこなすための方法を身につけることができました。最後は積み上げた様々なデータに対して先生と議論することで、複雑なデータが指し示すことを考察する研究活動の手応えと面白さを知ることができました。