卒業研究のご紹介
2022年版

医療技術・栄養系所属学生

透析用血液回路に対する各種固定テープの粘着力比較~せん断方向への粘着力~

小宮 翔喜神奈川県
健康医療科学部臨床工学科
2022年3月卒業
神奈川県立厚木西高等学校出身

研究の目的

透析中の抜針事故の中でも患者による自己抜針事故は過去5年間で約46%にのぼると報告されている。自己抜針が起こる過程の1つに固定テープはそのままで、血液回路が医療用テープから抜けて抜針してしまう場合があるが、血液回路に対する固定テープの粘着力特性についての報告は少ない。血液回路に対するテープの粘着力特性が明らかになり、より粘着力が高くなる見解を示せれば、容易に抜針する事は難しくなり、自己抜針防止に繋がると思われる。
 そこで、血液浄化療法に用いられる医療用テープについて、血液回路、テープの種類を変え、血液回路に対する粘着力特性を調べる事を目的とする。

研究内容や成果等

透析中の抜針事故の中でも患者による自己抜針事故は過去5年間で約46%にのぼると報告されている。自己抜針が起こる過程の1つに固定テープはそのままで、血液回路が医療用テープから抜けて抜針してしまう場合があるが、血液回路に対する固定テープの粘着力特性についての報告は少ない。血液回路に対するテープの粘着力特性が明らかになり、より粘着力が高くなる見解を示せれば、容易に抜針する事は難しくなり、自己抜針防止に繋がると思われる。そこで、血液浄化療法に用いられる医療用テープについて、血液回路、テープの種類を変え、血液回路に対する粘着力特性を調べる事を目的とする。

(1)使用機器・物品

使用した機器・器具を以下に示す。
  • 剥離試験機(MX-100NIMADA(株))
  • 剥離試験治具(P180-200NIMADA(株))
  • フォースゲージ(ZTS-200NIMADA(株))
  • アルミ材100×300mm厚み2mm(HA2013光(株))
使用した医療用テープを以下に示す。
  • A(やさしくはがせるシリコンテープスリーエムジャパン(株))
  • B(デュラポアサージカルテープスリーエムジャパン(株))
  • C(優肌絆不織布(肌)スリーエムジャパン(株))
使用した血液回路を以下に示す。
  • NIKKISO血液回路NV-Y/ZシリーズTタイプ(日機装(株))
  • 透析用血液回路セットシュアフローN(ニプロ(株))

(2)実験方法

本実験では、血液回路に対する医療用テープの粘着力特性を調べる為にテープの単位面積あたりの粘着力を調べた。試験板は厚さ2mm、縦100mm、横300mmに加工したアルミ材の上に長方形に広げた静脈側血液回路(縦10×横10mm、20×10mmの2種類の大きさ)を接着剤で貼り付けて作成した。試験片の採取はロール状に巻かれたテープを最低でも3層、最大で6層剥がしてから試験片の採取を開始する。試験片の大きさは、10×10mmの試験板に貼り付ける際は15mm、10×20mmの試験板では25mmの長さになるように鋭利な刃物で切断した。また、ロール状のテープを剥がす際はできるだけ素早く剥がした。試験片の貼付では試験片を試験板の上にたるませて、ローラで縦方向に試験板の端まで圧着していく。この時、試験片が血液回路からはみ出してしまう為、試験片の粘着面がアルミ材に付かないようにする。その後、試験板を治具に設置し、試験片端をフォースゲージに取り付け、0(N)になるようにフォースゲージを上に動かし、たるみをなくす。テープの引きはがし速度は使用する剥離試験機の稼働最大速度である4mm/sにした。記録はサンプリング速度を0.1sに設定後、1つの面積につき3回測定し、これらを3種類のテープ、2種類の血液回路で行い、測定値の最大値を記録した。引張試験時の測定風景を図1に示す。

図1 引張試験時の測定風景

(3)実験結果

3種類のテープにおける、接触面積を変えた場合の粘着力を図2に示す。平均粘着力はA、B、Cの10×10mmシュアフローにおいてそれぞれ3.7、5.9、11.6Nであったのに対し、10×20mmでは9.5、13.2、21.7Nであった。10×10mmNIKKISOにおいてはそれぞれ5.0、9.8、13.6Nで10×20mmでは10.1、23.6、26.5Nであった。

図2 同テープによる接触面積変化時の粘着力
各テープにおける粘着力比較では、テープごとに粘着力の差が見られ、優肌絆不織布(肌)、デュラポアサージカルテープ、シリコンテープの順に粘着力が高い結果となった。また、同テープを用いて異なる血液回路の粘着力比較をした結果、全てのテープにおいて、シュアフローよりもNIKKISOの血液回路の方が粘着力の高い結果が得られた。特に、デュラポアサージカルテープの比較では他の2種類のテープと比較して顕著に高い結果が得られた。

(3)考察

血液回路に対してのテープ接触面積を2倍にすると粘着力も2倍に近い値となったが、これはテープの接触面積を大きくすることで血液回路との接着面に生じる応力が分散され、それに伴い粘着力も増加したと考えられる。一方で、テープは剥がれる際に伸びながら剥がれる為、応力はテープ全体に均一に分散される訳ではなく偏りがあるが、今回比較したテープは同一のテープを使用したことから弾性率は同じであり、伸び方は近似すると考えられ、テープの伸びによる応力の偏りに大きな違いはないと思われる。このことから、粘着力が増加した要因として接触面積の変化による影響が大きいと考えられる。その為、テープの貼る枚数を多くする、幅の広いテープを用いて血液回路に対し同方向にテープの長軸がくるように貼り付ける、Ω固定を用いるといった、臨床で行われている工夫は効果的であると考えられる。また、粘着剤や基材よる粘着力の影響はBikermann,J.J.が次式(Bikermanの式)を考案している。
W₀=0.3799wσ(𝐸/𝐸₁)1/4𝛿3/4𝑦𝑜1/4①
W₀は粘着力(g),wは基材の幅(cm),σは粘着剤の引張強さ(g/cm2)、E、E1は基材および粘着剤の弾性率(g/cm2)、δ、yoは基材および粘着剤の厚さ(cm)である。この式より、粘着力は基材の幅によって比例し、今回の結果と同じ関係性がみてうかがえる。また、この式より粘着剤の種類によって粘着剤の引張強さ弾性率は異なり、粘着剤の違いは粘着力に大きな影響を及ぼす事が分かる。シリコン系よりもアクリル系の方が粘着力は高い結果となったことから血液回路がテープから抜けないようにするという観点で考えるとシリコン系よりもアクリル系の粘着剤を使用した方がより強い粘着力が発揮できる見解が得られた。
一方で、小峰らによると、23℃の環境条件下ではアクリル系の粘着剤である絆創膏を樹脂板に貼り付け、経過時間における粘着力を比較すると幾つかの絆創膏においては粘着力が上昇するという報告がされている。その為、シリコン系の粘着力も時間経過とともに何らかの粘着力変化が起こる可能性も考えられ、一概に、シリコン系よりもアクリル系の方が、粘着力が高いとは言えない。だが、今回の測定結果よりテープ貼り付け初期であればアクリル系の粘着剤の方が粘着力は高いという見解が得られた。また、その他のテープの粘着力に影響を及ぼすと考えられる特性として血液回路の表面粗さや血液温度による影響などが挙げられる。特に、血液回路は製造会社によって製造方法は異なり、表面の粗さにも違いがあることが考えられ、血液回路の選択は、より強い粘着力を発揮する為の要素になりえる。
指導教員からのコメント クリニカルイノベーションマネジメント(CIM)研究室教授 鈴木 聡
このテーマは前年の卒研生が行った「皮膚とサージカルテープに対する検討」に対し、「血液回路とサージカルテープ」について追検討するものでした。実際の臨床における課題について高いレベルで問題解決を志す小宮君は、昨年度対象としなかった部分について研究することにより、医療安全を具現化したいと考えたようです。この研究室の卒研では少しでも実務レベルの内容を扱い、学生の将来へ繋げたいと思っていますが、小宮君もその意図を理解して当研究室を希望してくれました。研究室では同期生の牽引役でもあり、将来の活躍が楽しみです。
卒業研究学生からの一言 小宮 翔喜

研究活動を振り返り成長したこと

この研究活動を通して、研究とは何か、研究の楽しさや大変さ、研究への姿勢や大切さを学ぶことができました。また、研究だけではなく、研究室の先生方や仲間と共に時間を過ごしていく中で、医療人としての自覚や責任、思いやりなど、将来医療人として働く上で大切な人格という面も成長できたと感じています。その他にも、学会発表する機会をいただき、より高いレベルを意識した研究をする事ができ、まだまだ未熟ではありますが、同期よりも考え方や、行動面で一歩先にリードできたような気がします。この経験を活かし、さらに高い志を持ち、学ぶという姿勢を忘れずに、活躍できる医療人になれるように精進していきたいと思います。