卒業研究のご紹介
2021年版

化学・バイオ系所属学生

酵素を用いた環境マイクロPET検出法の検討と評価

木村 隼平神奈川県
大学院応用化学・バイオサイエンス専攻Cコース 博士前期課程1年
(工学部応用化学科 2021年3月卒業)
神奈川県立元石川高等学校

研究の目的

現在、マイクロプラスチック(MP)による環境の汚染が懸念されている。MPとは、環境中に廃棄されたプラスチックが、紫外線や衝撃などの劣化により、小さい破片となって放出された物である。MPは容易に観察できるサイズのものから、視認困難な物まである。しかし、現在の測定法である顕微FTIRは、比較的大きいMPの分析は出来るが、小さいサイズのMPには適さない。また、顕微ラマン分析法は生物由来の有機物及び無機物の蛍光が妨害となることから、高度な精製、前処理が必須となる。このように微小MPの測定は、複雑な手間を必要としたり、少しのコンタミネーションが大きく結果に作用したりする問題がある。
そこで今回、酵素を用いたPET分解によって、間接的にそこに存在したPET量を決定する方法を考案した。簡易で適切なMP測定法の確立は、MPが与える影響の調査などでも利用でき、環境をモニターする際にも役立つと考えられる。

研究内容や成果等

FarrellとNelson(2013)は、0.5µmサイズの蛍光性MPが甲殻類の血リンパ液などで確認されたと報告している。大きいサイズのMPは基本的に消化管などで確認されているが、体内への侵入は考えにくい。一方、小さいサイズのMPが体内への侵入を果たすことから、より深刻な影響をもたらす可能性がある。このことから、より小さいサイズのMPに対する関心は高まっている。
しかし、現在の主な測定法である顕微FTIRは、比較的大きいサイズのMPの分析は出来るが、小さいサイズのMPには適さない。また、顕微ラマン分析法(RM)は生物由来の有機物及び無機物の蛍光が妨害となることから、高度な精製、前処理が必須となる。このように微小MPの測定は、複雑な手間を必要としたり、少しのコンタミネーションが大きく結果に作用したりする問題がある。
そこで今回、酵素を用いたPET分解によって、生成したテレフタル酸(TPA)、モノヒドロキシエチルテレフタレート(MHET)、ビスヒドロキシエチルテレフタレート(BHET)をHPLCによって測定し、間接的にそこに存在したPET量を決定する方法を考案した。PET分解に関しては、既にいくつかの酵素による分解が報告されており、近年では国内でI.sakaiensisというPET分解菌の発見が報告された。しかしながらPET分解菌に関しては、分解生成物を菌の炭素源としてしまう可能性があることから、分解して生じる化合物量が減じる可能性がある。一方、酵素触媒は基質特異性がある為、副反応を起こしにくいメリットがある。また、反応条件が温和なこともあり、測定を容易にすると考えられた。そこで、酵素触媒として、市販のリパーゼ(HumicolaI nsolens Cutinase HIC)を用いて低晶質PETの分解について検討した。
結果として、0.85µm以下の試料に対し、40hの処理で約15mgのPETの分解が確認できた。また、サイズ別試料に対する実験では、TPAで4.29倍、MHETで6.78倍、BHETで222倍と、サイズが小さいほうが分解しやすい傾向があることが分かった。簡易で適切なMP測定法の確立は、今後のMPが与える影響の調査などでも利用でき、実際の環境をモニターする際にも役に立つことが期待できる。

指導教員からのコメント 環境と生体影響研究室教授 髙村 岳樹
環境中のMPの分析は目視レベルでの分析にとどまっており、より微細なMPの分析方法が望まれている。本法の開発により、新たな環境分析計への応用展開が可能であり、新たな微小サイズのMPの環境や生体汚染の実態が明確となるであろう。この分析計の開発の実現性に向け、今後、多くのデータを集めていく必要がある。酵素活性の維持と、反応時間の長さが問題となりうるため、酵素の改変などで、活性を向上させる取り組みや、固体に担持させ、より取り扱いのし易い触媒へと変化させることにより、より簡易な分析方法を提案することができると考える。
修士研究学生からの一言 木村 隼平
大学での学習は単に専門的なだけでなく、ある事象に対してなぜそれが起こるのか、その理論などを紐解くものとなっています。そういった学習の中で、学ぶことの面白さや、そこからさらに発展させて考えていく力を養いました。この力は卒業研究で必要とされるものでした。卒業研究では、先行研究に対して自分なりの考え方をもって、研究内容を決める必要があります。意味のある研究、言葉にするとたったそれだけのことが、どれだけ困難なことなのか、文献調査の中で少なからず体感しました。それでも自分なりの研究を選ぶことができたのは、やはり学ぶことに面白さを感じられたからだと思いました。