卒業研究のご紹介
2019年版

情報系所属学生

振動体と電磁ピックアップを有する電気ピアノの物理モデル音源に関する検討

野島 勇太神奈川県
情報学部情報メディア学科 2019年3月卒業
神奈川県立有馬高等学校出身

研究の目的

本研究の研究対象は 1970年代にロックやジャズといった多くのジャンルにおいて盛んに用いられた電気ピアノの代表格であるローズピアノであり、現在でもローズピアノの音を求める演奏家は多い。近年、電子ピアノでの演奏や DAW(Digital AudioWorkstation)ソフトでの作曲の機会が増えており、これらでは録音した音を状況に応じて加工して再生するサンプリング音源が最も普及している。その一方で物理モデル音源は楽器の発音構造や過程をシミュレートして再生するため、より実音に近い音源となる可能性を秘めている。
本研究では、ローズピアノの振動及び電磁場解析から音源生成のための計算モデル化をした。

研究内容や成果等

■ アプリケーションの実装

物理モデル音源は、HTML(Hyper Text Markup Language)と JavaScript,CSS(Cascading Style Sheets)の組み合わせで実装した。計算フローを簡略化してFig.1に示す。

Fig.1 Flowchart of the sound generation of the physical modeling.

■ 物理モデル音源の検討

●Tineの位置の影響
ローズピアノは、Tineの先端の位置を移動させることによって音量や音色の調節が出来る。上下方向に関してはTineの先端の位置をピックアップの中心軸より3mm上の位置にしたときの音を標準としている。Tineの先端の位置をピックアップの中心軸に一致させるとTine の上昇時と下降時の波形が一致するため、結果的に音高が1オクターブ高くなる。物理モデル音源においてこの現象をモデル化できることを確認した。
●打鍵速度の影響
ローズピアノの音色は打鍵速度により変化する。提案した物理モデル音源において,打鍵速度を変化した場合の波形をFig.2およびFig.3に示す(図略す)。いずれの図においても、波形の振幅を正規化して示している。打鍵直後は、打鍵速度が大きくなると高周波成分が強くなっていること分かる。一方、時間経過につれて高周波成分が減少し、打鍵速度にかかわらず、正弦波に近づく結果が得られている。

■ おわりに

本研究では、3次元電磁場解析により求めたピックアップコイルの鎖交磁束をローズピアノの振動体であるTineの位置の関数として求めることにより、物理モデル音源を作成することができた。電磁場解析においてはTineの3次元形状を考慮しているが、振動解析においては1自由度系としてモデル化している。簡略化の影響の検討については今後の課題である。
指導教員からのコメント 教授 西口 磯春
野島君の研究は、ローズピアノの物理モデル音源に関するものです。ローズピアノは 1940年台に米国の Harold Rhodesによって発明された Pre-Pianoを前身とする電気ピアノです。1970年代からロックやジャズなどポピュラー音楽の分野で広く使われるようになり、現在でもよく使われています。最近では、昨年末の紅白歌合戦の松任谷由実のステージで演奏されていたのが記憶に新しいところです。電子楽器では、録音した楽器の音を加工して音源とする方法が一般的ですが、物理モデル音源では、楽器の中で音が生み出される過程を物理法則に基づいてシミュレートし、より忠実な音を生み出すことを目指しています。ローズピアノの機械的な構造だけでなく、ピックアップコイルの電磁場をシミュレートした野島君の研究は、エレキギターやエレキベースの物理モデル音源にも応用可能です。
卒業研究学生からの一言 野島 勇太
私は、卒業研究を着手した当初は数学・物理に疎かった上に 3年次までに触れてこなかったシミュレーションの研究をする自信がありませんでした。しかし、西口先生に懇切丁寧に高校レベルから教えていただき、復習しながら研究内容を理解した上で考察・推察して試行錯誤を繰り返して進めることができました。研究を進めていくなかで基礎的な知識を何かに応用させるというプロセスに面白さを感じ、今まで以上に学習意欲が上がりました。卒業研究で目の前の課題を理解し、考察・推察して課題解決をしていくという経験は卒業後にも活かせると思います。