卒業研究のご紹介
2022年版

化学・バイオ系所属学生

熱ストレスにより誘導されるシャペロニン翻訳後修飾と反応調節機構の解析

義原 千花歩神奈川県
大学院応用化学・バイオサイエンス専攻Bコース 博士前期課程
2022年3月修了
(応用バイオ科学部応用バイオ科学科 医生命科学特別専攻 2020年3月卒業)
神奈川県立平塚中等教育学校出身

研究の目的

熱などのストレスで変性したタンパク質は、機能を失うだけでなく、凝集し細胞毒性を示す。熱ストレスに応答して発現誘導されるシャペロニンGroEL/GroESは、細胞内の変性タンパク質を結合して凝集を抑制し、構造形成して再生する機能をもつ。これまで研究室では、細胞への熱ストレスが発現誘導に加えてシャペロニンのリン酸化(翻訳後修飾)を誘導することを見出したため、本研究ではシャペロニンのリン酸化を行うプロテインキナーゼ(PK)を特定し、リン酸化による反応調節機構を明らかにすることを目的とした。

研究内容や成果等

■ 方法

大腸菌K12株に存在するPKを6種類選定し、発現ベクターを作製した。作製した発現ベクターを組換えた菌体とPK欠損株を37/46℃で培養後、GroELを精製しリン酸化ペプチドを質量分析(LC-MS/MS)で解析することでリン酸化部位を同定し比較した。さらに、各リン酸化部位がGroELの構造に与える影響を検討するために、GroEL/GroES複合体についてリン酸化が同定されたアミノ酸残基にリン酸基を付加し、27/60/80℃の温度条件で分子動力学(MD)シミュレーションを行った。

■ 結果および考察

精製したGroEL(37、46℃培養)、PK欠損株およびPK強制発現株から精製したGroEL(37℃培養)からリン酸化が検出された。また、PKを強制発現株から精製したGroEL(46℃培養)から新たにリン酸化を2箇所検出した(図1)。この結果から、熱ストレスでリン酸化部位が増加し、どのPKがGroELのどの部位をリン酸化するか明らかになった。またMDシミュレーションのRMSD値を解析した結果、これらのリン酸化はGroELのループの動きを変化させ(図2)、リン酸化がGroELの基質結合特性に関わる可能性を示した。

図1 シャペロニンGroELの構造と質量分析で同定されたリン酸化部位

図2 GroELの動的構造予測 青: リン酸化無 赤:リン酸化有
指導教員からのコメント 分子機能科学研究室教授 小池 あゆみ
熱ストレスによって細胞の状態が変化した際に、細胞内で恒常性を維持するために働く生体分子が化学修飾によるスイッチを連鎖して入れていく機構は、生物ならではの巧みなシステムです。義原さんは、熱ストレスで変性したタンパク質を再生するシャペロニンの活性化機構を研究するために、開発されたばかりの人工知能プログラムでタンパク質の構造予測を行い、分子動力学シミュレーションで熱によるタンパク質の構造変動を予測するなど、生命情報科学にも果敢に取り組んでくれました。3年間の研究の最後、卒業間際の3月の学会発表でその成果が評価され受賞した際に、努力が実ったことを素直に喜ぶ姿は清々しく印象的でした。もがき苦しみながらも成長し、その手応えを感じられた修士課程の経験を活かし、企業研究者として産業に貢献してくれると期待しています。
修士研究学生からの一言 義原 千花歩

研究活動を振り返り成長したこと

結果を正しく報告し相談する方法、プレゼンテーションの作り方や心構えなどの基本的なスキルだけでなく、論理的に考える力が身についたと思います。私は目の前の事象を1つの方向だけで考えてしまう傾向があり、実験が上手くいかないときの抜け出し方がわかりませんでした。小池先生に『上からも下からも』考え、データを確実に積み重ねていく方法を学んだことで、実験成果が得られただけでなく、自信もつきました。 もともとは消極的に物事を捉えてしまう性格でしたが、自ら考え行動を起こすことで良い結果を引き寄せられることを学会での受賞なども経験して学ぶことができました。これからも研究室で得た経験を活かして、前のめりで頑張りたいと思います。