卒業研究のご紹介
2022年版
電気電子系所属学生
共同高齢者疑似体験ゴーグルを着用したときの照明光色による体感温度の変化
友部 和樹(代表者)神奈川県
創造工学部ホームエレクトロニクス開発学科
2022年3月卒業
2022年3月卒業
クラーク記念国際高等学校
上田 直幸神奈川県
創造工学部ホームエレクトロニクス開発学科
2022年3月卒業
2022年3月卒業
神奈川県 立花学園高等学校出身
研究の目的
近年、LED照明の進歩により光色が自由に変更できるようになった。照明光色と照度は心理的な影響を及ぼすことが示されている。また照度と色温度の組み合わせにより生活のシーンにおける理想的な光色も検討されている。昨年度の研究より、赤色光は人の体感温度に影響を与えるという結果が得られた。したがって、暖色の赤色LED光の対比となる寒色の青色LED光は涼感を与え生活に良好な影響を及ぼすことが期待できる。本研究では白色・青色・赤色の三色のLED光の環境で三種類のゴーグルを装着した被験者の体感温度、顔表面温度及び心拍数への影響について検討する。
研究内容や成果等
■ 実験概要
照度試験室(Fig. 1)は10.5畳の一般的な家庭の一室に模した部屋とし、LED照明(東芝ライテック社製 LEDH81718LC-LT3 天井に2つ設置。実験の評価項目は心理的評価のVAS(Visual Analogue Scale)と生理的評価としてウェアラブル心電計(myBeat)による体表面温度のバイタルデータの測定、サーモグラフィカメラ(NECAvio 製InfRec-R300S)による顔表面温度の測定を行った。照明光色はECHONET Liteで制御し、すべての光色は照度を73lxに統一した。実験で使用した白色LED光と青色LED光、赤色LED光のxy色度座標をFig.2に示す。
■ 実験方法
実験時間は30分間に設定し、3日に分けて行った。実験室のシーリングライトの色を1日目は白色LED光、2日目は青色LED光、3日目は赤色LED光として実験を行った。
実験環境は、照度73lx、室温24℃±1℃であり、実験は神奈川工科大学に通う20代男子学生10名で行った。被験者には条件を統一するため、実験中は室温24℃、照度73lxの実験室で10分ごとに3種類の高齢者疑似体験ゴーグルを着け替えてもらい、30分間ビデオを見せた。また、着衣量を統一するため服装はこちらで用意した(ジャージ上下)。顔表面温度を赤外線サーモグラフィカメラで測定し、体表面温度と心拍周期をmyBeat で計測した。myBeatは前室から測定を開始し、被験者のみぞおちに装着。サーモグラフィカメラの測定間隔は10秒間に設定し、被験者の眉間を測定データに使用した。
実験環境は、照度73lx、室温24℃±1℃であり、実験は神奈川工科大学に通う20代男子学生10名で行った。被験者には条件を統一するため、実験中は室温24℃、照度73lxの実験室で10分ごとに3種類の高齢者疑似体験ゴーグルを着け替えてもらい、30分間ビデオを見せた。また、着衣量を統一するため服装はこちらで用意した(ジャージ上下)。顔表面温度を赤外線サーモグラフィカメラで測定し、体表面温度と心拍周期をmyBeat で計測した。myBeatは前室から測定を開始し、被験者のみぞおちに装着。サーモグラフィカメラの測定間隔は10秒間に設定し、被験者の眉間を測定データに使用した。
■ 実験結果と考察
<1> 高齢者疑似体験ゴーグルの顔表面温度への影響
白色、青色、赤色の3つのLED光の条件で顔表面温度の変化を計測した。Fig.3(省略)に赤色 LED光における各高齢者疑似体験ゴーグル着用時の顔表面温度の変化を示す。赤色LED 光で3種類のゴーグルを比べた時の被験者10名のゴーグル着用時間ごとの顔表面温度の平均値を求めた。平均顔表面温度はゴーグル1の着用時が36.0℃、ゴーグル2で35.8℃、ゴーグル3で36.0℃となった。<2> 高齢者疑似体験ゴーグルの心拍数への影響
白色、青色、赤色の3つのLED光の条件で心拍数の変化を計測した。Fig.4(省略)に赤色 LED光における各高齢者疑似体験ゴーグル着用時の心拍数の変化を示す。Fig. 3と同様に赤色LED光で3種類のゴーグルを比べた時の被験者10名のゴーグル着用時間ごとの心拍数の平均値を求めた。平均心拍数はゴーグル1の着用時が82bpm、ゴーグル2で81bpm、ゴーグル 3で80bpmとなった。<3> 高齢者疑似体験ゴーグルの生理的影響と心理的影響の考察
Table 1.に各照明光色における高齢者疑似体験ゴーグル装着時の生理的評価とVAS評価のまとめを示す。ゴーグル1は白内障フィルタ1枚、ゴーグル2は白内障フィルタ2枚、ゴーグル3は黄視症フィルタ1枚とした。白内障フィルタは着用時に各照明光を薄くさせる効果があり、青色LED光は確認しづらく、赤色LED光は確認できた。黄視症フィルタは青色LED光が確認しづらく、赤色LED光ではフィルタ色と混色されオレンジ色に見えた。白色LED光暴露時の顔表面温度の高齢者疑似体験ゴーグルの影響は赤色LED光暴露時と逆の変化を示した。また、青色LED光暴露時の顔表面温度の高齢者疑似体験ゴーグルの変化はゴーグル1→ゴーグル2で-0.1℃、ゴーグル2→ゴーグル3で+0.1℃となり、他の LED光暴露時に比べて変化量が小さくなった。赤色LED光暴露時の顔表面温度の変化はゴーグル1→ゴーグル2で-0.3℃、ゴーグル2→ゴーグル3で+0.2℃となり、LED光色の中で最も大きな変化が得られた。
高齢者疑似体験ゴーグルにより、青色LED光では色が薄くなったことが顔表面温度への影響を与えにくくしていると考えた。また赤色LED光は黄視症フィルタで暖かさを感じる効果が増したと思われる。体感温度のVAS値はアンケート用紙上の平均値で+1.3mm、-1.8mm の変化であり、大きな変化はない。光は皮膚からも感じられると言われていること、また黄視症フィルタのオレンジ色は代表的な暖色であることから無意識下で体表面温度に影響を及ぼしたと推測している。
■ まとめ
高齢者疑似体験ゴーグルを着用したときの照明光色による体感温度の変化を検討し、以下の結果が得られた。
- 青色LED光は体感温度ではゴーグル1→ゴーグル2で+8.2、ゴーグル2→ゴーグル3 で+4.4と上昇し、顔表面温度はゴーグル1→ゴーグル2で-0.1℃、ゴーグル2→ゴーグル3で+0.1℃と変化が少なくなった。
- 赤色LED光は体感温度ではゴーグル1→ゴーグル2で+1.3、ゴーグル2→ゴーグル3で-1.8 が得られ、顔表面温度はゴーグル1→ゴーグル2で-0.3℃、ゴーグル2→ゴーグル3 で+0.2℃と変化が大きくなった。
- 高齢者疑似体験ゴーグルは青色LED光で影響を受けづらく、赤色LED光で影響が大きくなることがわかった。
その後は佐々木さん(現・東芝キヤリア株式会社)に引き継がれ、友部くん、上田くん(両名ともに現・アクテス京三株式会社)の研究に至りました。
照明の色が人間の感覚に影響を与えるという研究は広く行われており、エアコンの省エネ化に繋がる可能性を見出したのは本研究の成果だったと考えています。
なかなか確実性のある結果が出ないために試行錯誤しながら研究を継続しましたが、友部くん、上田くんより高齢者に対する影響を提案され、少しずつ研究の実用的な応用例が見えてきたように思います。
二人の真面目な研究に対する姿勢は非常に素晴らしかったです。
コロナ禍でなければもっとインパクトのある実績が出たかもしれません。
両名の今後の活躍を祈念し、コメントの終わりとさせて頂きます。
研究活動を振り返り成長したこと
私は行動する時に何か一つ抜けてしまうことがあり、そのことが原因でデータが使用できなくなることがありました。そこで実験の手順を作成することの大切さ、書類、データのまとめ方について学ぶことができました。また、実験を行う際に『このようにした方がよい』と決めつける癖があるので実験を開始した当初はミスばかりしていました。実験環境の温度の一定化、使用機器の校正など実験を行う場合は妥協してはいけないことを学び、最終的にミスを少なくすることができました。