卒業研究のご紹介
2022年版

医療技術・栄養系所属学生

市販カットキャベツの微生物学的評価と薬剤耐性菌の検出

澤口 佳歩青森県
健康医療科学部管理栄養学科
2022年3月卒業
青森県立名久井農業高等学校出身

研究の目的

近年、核家族化の進展や共働き世帯の増加に伴い、食の簡便化が進み、小売店では、購入してすぐに食べられるカット野菜の需要が増えている。独立行政法人農畜産業推進機構のPOSデータ調査によると、サラダ用カット野菜の千人あたりの販売金額は2009年の795円から2018年の3185円へと約4倍に増加している。また、新型コロナウイルス禍で食料消費は、外食等が著しく減少する一方で、家庭内調理が増加したことに伴い、カット野菜の購入額が大幅に増加している。
カット野菜は、洗浄・カット・殺菌洗浄・冷却・脱水・計量・包装の工程で製造され、野菜の殺菌には、次亜塩素酸Naが用いられることが多い。しかし、カット野菜は切裁による物理的ストレスを受けているため腐敗の進行もはやく、細菌の侵入も容易であることから、世界中で食中毒が多発している。しかしながら、カット野菜中の微生物の季節変動に関する報告はない。また、食品から抗菌薬が効かない薬剤耐性菌(特に腸内細菌の耐性菌)が検出される報告が世界中で増えている。しかしながら、カット野菜に付着している薬剤耐性菌についての報告はない。
そこで本研究では、カット野菜に存在する細菌の季節変動と薬剤耐性菌の有無を明らかにすることを目的とした。

研究内容や成果等

■ 実験方法

(1)カットキャベツの菌数測定

コンビニエンスストアで購入した千切りカットキャベツ(以下カットキャベツ)約10gと90mlの生理食塩水をストマッカー処理後、希釈した。普通寒天培地を用いて一般性菌数、マッコンキー培地でグラム陰性菌数、およびパルカム培地でリステリア菌数をそれぞれ計測した。培養条件は室温25℃±2℃,3日間とした。

(2)カットキャベツから分離された細菌の薬剤耐性

マッコンキー培地に形成したコロニーを釣菌し、普通ブイヨン培地で37℃, 24時間振とう培養した。培養後の菌液を、ミューラーヒントン培地に塗布後、薬剤ディスクを配置し、37℃, 24時間培養した。培養後に、薬剤ディスク周囲の阻止円の直径を計測し、薬剤耐性の有無を観察した。また、カット加工が行われていない未処理の市販キャベツでも同様に薬剤耐性菌を検出し、結果を比較した。

■ 結果および考察

(1)カットキャベツ中の菌数測定結果

Fig.1のように菌数が推移した。外気温の高い夏場には菌数は多く、春や秋には菌数は少ない傾向にある結果となった。そのため、流通経路で外気温の影響を受けている可能性があると考えた。また、野菜自体の菌数が夏場に多いことも関係していると考えられる。

Fig.1 カットキャベツ菌数季節変動

(2)カットキャベツから分離された細菌の薬剤耐性

グラム陰性菌中の薬剤耐性菌の有無を調べたところ、カットおよび未処理キャベツとも80~90%の菌が1種以上の薬剤に対して耐性を示した。傾向に大きな差は見られなかったが、殺菌処理後のカットキャベツでは、全菌数に対するグラム陰性菌の割合が未処理の約40%から80%程度に増大していた。結果として、殺菌洗浄工程で使用する、NaClO処理により、問題視されているグラム陰性菌の薬剤耐性菌の割合が増大している可能性が示唆された。

Table 1 薬剤耐性菌の割合
指導教員からのコメント 食品衛生学研究室教授 澤井 淳
実験が大好きな澤口さん。今年もコロナ禍で入構制限がある中、培養を繰り返して行う実験は、スケジュールを立てるのも難しかったと思います。大丈夫かなと思っていたところ、実験サンプルのキャベツを買ったレシートをドサッと渡されたときは、こんなに着々と進めていたのだと感心しました。今後、世界的に感染症による死者数がガンを抑えて1位になると予測が出されています。その感染症の主役がここでテーマにした薬剤耐性菌です。私たちの身近な野菜にも複数の抗生物質に抵抗性を持つ耐性菌が普通にいることを示すことができました。
卒業研究に加え、就職活動、管理栄養士の国家試験への対策とめまぐるしい1年だったと思いますが、最後は全部勝ち取ってくれました。
卒業研究学生からの一言 澤口 佳歩

研究活動を振り返り成長したこと

卒業研究を通して、実験の計画や方法の検討を自ら行うことで計画性や自分で考えて実行する力が身についたと思います。ひとつの実験から生まれた疑問をまた次の実験につなげるという探求心も養うことができたと感じているので、社会に出てからもこのような心を大切にしていきたいです。また、このように研究を実施できたのは、分からないことを丁寧に教えてくださった教授や同研究室の学生皆さんのおかげなので、疑問をそのままにせず積極的に学ぶ姿勢を今後も忘れずに生活していきたいです。